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畏れた心の在処編
第五十四話 地下図書室で知識の蓄え
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治癒団の治癒室に顔を出せば、ミディ団長が相変わらず治癒をしていて、私に気づくなり人型になってくれて明るい笑みを見せた。
「やあ! 元気にお帰りだね! 聞いたよ、精霊に認められなきゃいけない大役を仰せつかったし。調べるのは大変そうなんだね」
「私がもっと人間の世界に詳しければ良かったのですが、寝たきりな日々が多くて、その、世間知らずで……ごめんなさい」
「いやいや、いいのだよ。奥方様が謝ることではないんだね。にしても、七つ精霊か。四大元素とかのほうならまだ楽だったんだがね、力さえ認めさせればいいからね。でも、生活に基づく精霊となると、また認め方は違うんだろうね」
ミディ団長は魔力補給のポーションを、栓を開ければぐびぐびと飲み干して、空になった試験管をリサイクルの箱に入れて唸る。
何か引っかかるのかしら、と私が小首を傾げるとミディ団長は目を薄めて遠くを見つめる。
「あのシラユキに迫った程の人間。少し気になる。人間の王子という立場からして、プライドは高そうだ。裏から認めさせない何かをしてこなければいいのだがね」
「そう、ですね。シラユキさんには幸せになってほしいし」
「それもそうだが……勇者は抜け目ないね。さりげなく、心配させずに守ろうとしていたね。シラユキが嬉しそうにしていた指輪の文様に、人間からの寵愛を示す物が刻まれていた。あの刻印が、恐らく、何かあればシラユキを守ってくれるだろうね。指輪の加護は内緒だよ、きっと勇者も気づいて欲しくないだろう。何事もなければ、あれはただの贈り物の嬉しい指輪だね」
相当用心深い性格だよあれは、と若干嬉しそうにミディ団長は笑った。
「そういえば僕なりにあいつのこと調べてみたよ、聞いてみたいかね、奥方様」
「あいつ? 何方かしら」
「アルギスのことだね」
ミディ団長は私を気遣うような少し悲しげな笑みを浮かべて、手を伸ばした。
私の頬をあやすように撫でてから、どうする? とミディ団長は問いかけてきた。
知らないままでいていいとは思えない。
「ゼロが聞いてることなら、私も聞きたいです」
「宜しい。魔王様には君たちがいない間に報告しておいたね。さて、奥方様、少し地下についてきてくれないかな、一緒に」
以前ゼロから地下の話を聞いたことがある。
地下には恐ろしい秘術や、人々に知れ渡ってはいけない書物がある図書室のような場所があると。
私は小さく、頷き勇気を示した。
地下への階段は、ゼロと兄様がいつも闘う王座の後ろに隠れていて、足でスイッチを押せばゴゴゴと地下室への階段が見えてきた。
地下室への階段を下りる途中に歩く度に通路に灯りが灯り、足下に気をつける行為が出来た。
図書室以外にも財宝の間や、墓などもある様子だったけれど、ミディはすんなりと図書室にだけ通してくれた。
図書室の中は、室内めいっぱいに高く連なる本棚に、中央にはくるくると青い宝石が煌めいていて不思議な輝きをしていた。
その輝きがあるお陰で、図書室は暗いとは思わなかった。
「この宝石は特別な働きをしていてね、この城の核のようなものだね。さて、此方へ座っておいで」
ミディ団長は宝石の近くにあるテーブルセットを示すと、私を椅子に座らせてから本を取りに行った。
取りに行った本はミディ団長の背丈よりも高く積み重なっていて、ミディ団長は戻ってくると私の机にどさりと下ろし、幾つかの段に分けた。
「まずこれが魔崩れの歴史について。これが魔崩れの主人の変え方について。魔崩れがね、意思をきちんと保てば主人を変えることができるんだね――たとえば、奥方様にね」
「え? それって……アルギスを救えるってことですか? 倒さずに」
「それは奥方様が交渉に成功すればね。この本全部読んで、知識を頭にたたき込めば、魔崩れに関しては貴方は誰かを従えることも、作ることも出来る」
「……私が魔力を送り込む、ということですか」
「知識を持たずに答えを作るのと、知識を持ったうえで答えを選択するのでは全然選択肢の数が違うんだね。だから、僕からはこれらを読むとイイっていうのが僕からの親切だね。勿論、これはあなた方の問題なのだから、魔王様に頼ったっていいとも思うね。でもさ、少し癪じゃないかね? 困ったときに泣きついて何とかして貰うだけのお姫様に収まりたい貴方とは思えないんだね」
「ふふ、そうですね。有難う、ミディ団長。大事に読ませて頂きます。ねえ、此処にこれだけ本があるなら……七つ精霊のこともありそうね」
「そうだね、明日から僕は此処に入り浸るけど、奥方様もくるかい? 僕がいるなら、魔王様も許すだろう。何より、魔法の知識だって増やせる。治癒力をあげる行為だって出来るかも」
「それは助かるわ。そうしてもいいかしら? 私も、勉強して、力をつけたいの。そうしたら、他の何かあったときにでも選択肢が増やせるでしょう?」
「勿論。では、少し一緒に読んだらあとは次の日にして、一緒に地下図書室へ通い詰めしようね。……ねえ。あのね、それでもね、僕から個人的なお願いをするならば」
ミディ団長は、俯いて祈るような声色で呟いた。
「最終的には魔王様を選んでね、とても僕たちには大事な御方だから……幸せになってほしいね」
「やあ! 元気にお帰りだね! 聞いたよ、精霊に認められなきゃいけない大役を仰せつかったし。調べるのは大変そうなんだね」
「私がもっと人間の世界に詳しければ良かったのですが、寝たきりな日々が多くて、その、世間知らずで……ごめんなさい」
「いやいや、いいのだよ。奥方様が謝ることではないんだね。にしても、七つ精霊か。四大元素とかのほうならまだ楽だったんだがね、力さえ認めさせればいいからね。でも、生活に基づく精霊となると、また認め方は違うんだろうね」
ミディ団長は魔力補給のポーションを、栓を開ければぐびぐびと飲み干して、空になった試験管をリサイクルの箱に入れて唸る。
何か引っかかるのかしら、と私が小首を傾げるとミディ団長は目を薄めて遠くを見つめる。
「あのシラユキに迫った程の人間。少し気になる。人間の王子という立場からして、プライドは高そうだ。裏から認めさせない何かをしてこなければいいのだがね」
「そう、ですね。シラユキさんには幸せになってほしいし」
「それもそうだが……勇者は抜け目ないね。さりげなく、心配させずに守ろうとしていたね。シラユキが嬉しそうにしていた指輪の文様に、人間からの寵愛を示す物が刻まれていた。あの刻印が、恐らく、何かあればシラユキを守ってくれるだろうね。指輪の加護は内緒だよ、きっと勇者も気づいて欲しくないだろう。何事もなければ、あれはただの贈り物の嬉しい指輪だね」
相当用心深い性格だよあれは、と若干嬉しそうにミディ団長は笑った。
「そういえば僕なりにあいつのこと調べてみたよ、聞いてみたいかね、奥方様」
「あいつ? 何方かしら」
「アルギスのことだね」
ミディ団長は私を気遣うような少し悲しげな笑みを浮かべて、手を伸ばした。
私の頬をあやすように撫でてから、どうする? とミディ団長は問いかけてきた。
知らないままでいていいとは思えない。
「ゼロが聞いてることなら、私も聞きたいです」
「宜しい。魔王様には君たちがいない間に報告しておいたね。さて、奥方様、少し地下についてきてくれないかな、一緒に」
以前ゼロから地下の話を聞いたことがある。
地下には恐ろしい秘術や、人々に知れ渡ってはいけない書物がある図書室のような場所があると。
私は小さく、頷き勇気を示した。
地下への階段は、ゼロと兄様がいつも闘う王座の後ろに隠れていて、足でスイッチを押せばゴゴゴと地下室への階段が見えてきた。
地下室への階段を下りる途中に歩く度に通路に灯りが灯り、足下に気をつける行為が出来た。
図書室以外にも財宝の間や、墓などもある様子だったけれど、ミディはすんなりと図書室にだけ通してくれた。
図書室の中は、室内めいっぱいに高く連なる本棚に、中央にはくるくると青い宝石が煌めいていて不思議な輝きをしていた。
その輝きがあるお陰で、図書室は暗いとは思わなかった。
「この宝石は特別な働きをしていてね、この城の核のようなものだね。さて、此方へ座っておいで」
ミディ団長は宝石の近くにあるテーブルセットを示すと、私を椅子に座らせてから本を取りに行った。
取りに行った本はミディ団長の背丈よりも高く積み重なっていて、ミディ団長は戻ってくると私の机にどさりと下ろし、幾つかの段に分けた。
「まずこれが魔崩れの歴史について。これが魔崩れの主人の変え方について。魔崩れがね、意思をきちんと保てば主人を変えることができるんだね――たとえば、奥方様にね」
「え? それって……アルギスを救えるってことですか? 倒さずに」
「それは奥方様が交渉に成功すればね。この本全部読んで、知識を頭にたたき込めば、魔崩れに関しては貴方は誰かを従えることも、作ることも出来る」
「……私が魔力を送り込む、ということですか」
「知識を持たずに答えを作るのと、知識を持ったうえで答えを選択するのでは全然選択肢の数が違うんだね。だから、僕からはこれらを読むとイイっていうのが僕からの親切だね。勿論、これはあなた方の問題なのだから、魔王様に頼ったっていいとも思うね。でもさ、少し癪じゃないかね? 困ったときに泣きついて何とかして貰うだけのお姫様に収まりたい貴方とは思えないんだね」
「ふふ、そうですね。有難う、ミディ団長。大事に読ませて頂きます。ねえ、此処にこれだけ本があるなら……七つ精霊のこともありそうね」
「そうだね、明日から僕は此処に入り浸るけど、奥方様もくるかい? 僕がいるなら、魔王様も許すだろう。何より、魔法の知識だって増やせる。治癒力をあげる行為だって出来るかも」
「それは助かるわ。そうしてもいいかしら? 私も、勉強して、力をつけたいの。そうしたら、他の何かあったときにでも選択肢が増やせるでしょう?」
「勿論。では、少し一緒に読んだらあとは次の日にして、一緒に地下図書室へ通い詰めしようね。……ねえ。あのね、それでもね、僕から個人的なお願いをするならば」
ミディ団長は、俯いて祈るような声色で呟いた。
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