勇者の妹ですが、病弱で死んでしまったら魔王が求婚して生き返らせてくれました!

かぎのえみずる

文字の大きさ
上 下
54 / 88
畏れた心の在処編

第五十四話 地下図書室で知識の蓄え

しおりを挟む
 治癒団の治癒室に顔を出せば、ミディ団長が相変わらず治癒をしていて、私に気づくなり人型になってくれて明るい笑みを見せた。

「やあ! 元気にお帰りだね! 聞いたよ、精霊に認められなきゃいけない大役を仰せつかったし。調べるのは大変そうなんだね」
「私がもっと人間の世界に詳しければ良かったのですが、寝たきりな日々が多くて、その、世間知らずで……ごめんなさい」
「いやいや、いいのだよ。奥方様が謝ることではないんだね。にしても、七つ精霊か。四大元素とかのほうならまだ楽だったんだがね、力さえ認めさせればいいからね。でも、生活に基づく精霊となると、また認め方は違うんだろうね」

 ミディ団長は魔力補給のポーションを、栓を開ければぐびぐびと飲み干して、空になった試験管をリサイクルの箱に入れて唸る。
 何か引っかかるのかしら、と私が小首を傾げるとミディ団長は目を薄めて遠くを見つめる。

「あのシラユキに迫った程の人間。少し気になる。人間の王子という立場からして、プライドは高そうだ。裏から認めさせない何かをしてこなければいいのだがね」
「そう、ですね。シラユキさんには幸せになってほしいし」
「それもそうだが……勇者は抜け目ないね。さりげなく、心配させずに守ろうとしていたね。シラユキが嬉しそうにしていた指輪の文様に、人間からの寵愛を示す物が刻まれていた。あの刻印が、恐らく、何かあればシラユキを守ってくれるだろうね。指輪の加護は内緒だよ、きっと勇者も気づいて欲しくないだろう。何事もなければ、あれはただの贈り物の嬉しい指輪だね」

 相当用心深い性格だよあれは、と若干嬉しそうにミディ団長は笑った。

「そういえば僕なりにあいつのこと調べてみたよ、聞いてみたいかね、奥方様」
「あいつ? 何方かしら」

「アルギスのことだね」

 ミディ団長は私を気遣うような少し悲しげな笑みを浮かべて、手を伸ばした。
 私の頬をあやすように撫でてから、どうする? とミディ団長は問いかけてきた。

 知らないままでいていいとは思えない。

「ゼロが聞いてることなら、私も聞きたいです」
「宜しい。魔王様には君たちがいない間に報告しておいたね。さて、奥方様、少し地下についてきてくれないかな、一緒に」

 以前ゼロから地下の話を聞いたことがある。
 地下には恐ろしい秘術や、人々に知れ渡ってはいけない書物がある図書室のような場所があると。
 私は小さく、頷き勇気を示した。



 地下への階段は、ゼロと兄様がいつも闘う王座の後ろに隠れていて、足でスイッチを押せばゴゴゴと地下室への階段が見えてきた。
 地下室への階段を下りる途中に歩く度に通路に灯りが灯り、足下に気をつける行為が出来た。

 図書室以外にも財宝の間や、墓などもある様子だったけれど、ミディはすんなりと図書室にだけ通してくれた。

 図書室の中は、室内めいっぱいに高く連なる本棚に、中央にはくるくると青い宝石が煌めいていて不思議な輝きをしていた。
 その輝きがあるお陰で、図書室は暗いとは思わなかった。

「この宝石は特別な働きをしていてね、この城の核のようなものだね。さて、此方へ座っておいで」

 ミディ団長は宝石の近くにあるテーブルセットを示すと、私を椅子に座らせてから本を取りに行った。
 取りに行った本はミディ団長の背丈よりも高く積み重なっていて、ミディ団長は戻ってくると私の机にどさりと下ろし、幾つかの段に分けた。

「まずこれが魔崩れの歴史について。これが魔崩れの主人の変え方について。魔崩れがね、意思をきちんと保てば主人を変えることができるんだね――たとえば、奥方様にね」
「え? それって……アルギスを救えるってことですか? 倒さずに」
「それは奥方様が交渉に成功すればね。この本全部読んで、知識を頭にたたき込めば、魔崩れに関しては貴方は誰かを従えることも、作ることも出来る」
「……私が魔力を送り込む、ということですか」
「知識を持たずに答えを作るのと、知識を持ったうえで答えを選択するのでは全然選択肢の数が違うんだね。だから、僕からはこれらを読むとイイっていうのが僕からの親切だね。勿論、これはあなた方の問題なのだから、魔王様に頼ったっていいとも思うね。でもさ、少し癪じゃないかね? 困ったときに泣きついて何とかして貰うだけのお姫様に収まりたい貴方とは思えないんだね」
「ふふ、そうですね。有難う、ミディ団長。大事に読ませて頂きます。ねえ、此処にこれだけ本があるなら……七つ精霊のこともありそうね」
「そうだね、明日から僕は此処に入り浸るけど、奥方様もくるかい? 僕がいるなら、魔王様も許すだろう。何より、魔法の知識だって増やせる。治癒力をあげる行為だって出来るかも」
「それは助かるわ。そうしてもいいかしら? 私も、勉強して、力をつけたいの。そうしたら、他の何かあったときにでも選択肢が増やせるでしょう?」
「勿論。では、少し一緒に読んだらあとは次の日にして、一緒に地下図書室へ通い詰めしようね。……ねえ。あのね、それでもね、僕から個人的なお願いをするならば」

 ミディ団長は、俯いて祈るような声色で呟いた。

「最終的には魔王様を選んでね、とても僕たちには大事な御方だから……幸せになってほしいね」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。

緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」  そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。    私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。  ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。  その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。 「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」  お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。 「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」  

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました

しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。 そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。 そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。 全身包帯で覆われ、顔も見えない。 所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。 「なぜこのようなことに…」 愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。 同名キャラで複数の話を書いています。 作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。 この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。 皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。 短めの話なのですが、重めな愛です。 お楽しみいただければと思います。 小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!

処理中です...