勇者の妹ですが、病弱で死んでしまったら魔王が求婚して生き返らせてくれました!

かぎのえみずる

文字の大きさ
上 下
52 / 88
畏れた心の在処編

第五十二話 木製の刻印入り指輪

しおりを挟む
 朝起きて朝支度を調えると、私達とラクスターや兄様で合流し朝ご飯を終えると、陛下へ顔見せして帰ることを伝えた。
 陛下は頷き了承すると、馬車を出そうとしたが私達はすぐに帰りたいので、自分たちの足を使うと伝え遠慮する。
 陛下は少しだけ寂しげに笑って頷き、あとは兄様との別れだけだった。

「いいか、オレのお勧めは朝昼夜の精霊はお前たち二人とあの蛇で担当し、四季の精霊をウルと魔王のバカで担当することだ。相性はきっといいはずだ、魔物だってその七つ精霊と共に生きてきたんだからな。頑張れよ」
「有難う兄様、頑張ります」
「シラユキ、それと……簡単なもんだけど、さ。これ受け取れよ」

 兄様は手からおずおずと照れた様子で木製の指輪を手から取り出し、シラユキの手に嵌める。
 木製のリングには人間達の信仰する精霊のお守りとなる印が刻まれていて、シラユキはまじまじと嬉しげに微笑んで大事そうに手を包んだ。
 木製のリングは中々調整がむずかしい、作るのも難しい指輪だと聞いたことがある。
 王子の言動に焦った兄様は、慌てて作ったのかな。

「しょうがないから受け取ってあげる。宜しいこと、貴方は他のに心奪われるんじゃあないわよ」
「オレの女王からの命令とあれば。その指輪は一回、厄除けになってくれるよ」

 兄様とシラユキはくすくすと互いに笑って、そこから私達魔物はサークルを描き、一瞬で魔王城へと戻った。

「あー、どこもかしこもラブラブで息しづらいわー」
「ラクスターからかわないの!」
「だってこの後は姫さんと魔王のラブラブ見るンだろ? はー、胸焼けしそう」

 ラクスターへもうっと怒ると、ラクスターはげらげらと笑っていた。
 シラユキの表情をそっと伺うと、私達の喧噪が聞こえないほど慈愛に満ちた顔で指輪を大事そうにいつまでも抱えていた。

 はっとしたシラユキが「帰りましょう」と慌てて魔王の城の中へ入った。
 城の中へ入れば、魔物達がどうだった? と尋ねるように姿を見かける度噂をする。

 詳しいことは後でね、と皆に手を振ってゼロのいる執務室へ向かう。
 執務室には、ゼロが唸りながら書類を見ていて判子を片手にくるくると回していた。
 私達に、いえ、私に気づくなりゼロは穏やかに笑みを浮かべて出迎えてくれた。

「おかえり、さてゆっくりと話をしよう、ウル。遠いところまでよくぞ行ってくれた」
「それ、オレ達もなんだけどなあ」
「先陣をきったのはウルであろう? シラユキも何かいいことがあったのか、随分と朗らかな顔をしている」
「勇者といちゃついてたんだよ、シラユキ姐は」
「ラクスター、余計なことは仰らないでくださいませ! 謹んでご報告申し上げますわ、全ての顛末を。お時間宜しいでしょうか、魔王様」
「ふむ、もうすぐ茶の時間でもある、休憩がてらに聞こうか。ああ、ウル。話が終わったらお前は此処に残るように」
「? はい、分かったわ」

 にこーっと少し幼い笑みを浮かべたゼロは、私を見つめてから咳払いし、シラユキに話を促した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!

Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。 転生前も寝たきりだったのに。 次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。 でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。 何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。 病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。 過去を克服し、二人の行く末は? ハッピーエンド、結婚へ!

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。

緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」  そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。    私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。  ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。  その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。 「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」  お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。 「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」  

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

処理中です...