勇者の妹ですが、病弱で死んでしまったら魔王が求婚して生き返らせてくれました!

かぎのえみずる

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畏れた心の在処編

第五十話 魔物の美しさに心奪われた王子

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 城の中をメイドさんに案内され客室を目指している途中で、見るからに王子様の出で立ちの人、二人が通路に立っていた。
 二人とも金髪に青目という見事なまでに、物語に登場しそうな絵に描いた美形である。
 煌びやかな衣装を翻し、私達と近づくと片方の王子様はシラユキの腕を取ったので私達は驚いて足を止める。呆然としているともう片方の王子様は今度は私の腕を取った。

「随分と美しい魔物だ」
「お離しください」
「殿下その方達は大事な使者です、お離しを」
「そう騒ぐな勇者よ。私は真剣に驚いているのだ、このように美しい魔物に会ったことがない。其方の噂の妹君も可憐だが、此方の水色の髪をした魔物は妖艶だ。それでいて下品さや媚びがなく、高潔としている。今も王子である私に、牙を剥きそうな睨みを効かせている。実に、不思議な気分だ」
「兄上、此方の噂の妹君も実に可愛らしい。私の体温で溶かしてぐずぐずにさせたらどうなるか気になる程だ。儚さも秘めていて、守りたくなる顔をしている」

 私とシラユキは困ったように視線を交わした。
 要するに、王子二人はそれぞれ私とシラユキに興味があるらしい。
 真っ先に動いたのはラクスターだった。いつもの大筒は私を口説く王子に照準をあてる。兄様はシラユキを庇い、シラユキを背に隠す。

「堕天使が脅してくるぞ、兄上。っはは、希有な体験だ」
「今は殺せないってこと分かった上でのちょっかいだろ、離せよ、その汚い手を退けろ。うちの魔王の奥様だぞその方は」
「やれやれ、悲しいな。口説きたいのに人の物とは」

 私を口説いていた王子は私を諦めたようだったが、シラユキを口説いていた王子は様子が違う。
 兄様とにらみ合っている。

「勇者よ、そこを退いてくれないか。美しい顔を堪能したいのだ」
「この方は男性にとんと疎くてね、殿下が見つめるだけで震えてしまうようなか弱い方なのです」
「なるほど、それならば引くが、……気に入ったな。妾にしたいくらいだ」
「……ご冗談を」

 兄様も王子様も視線が笑っていなかった。
 こほんと咳払いが私を口説いていた王子様からされて、改めて自己紹介をされた。

「私はアルベルトだ、此方は私の兄上であるジェネットだ」
「……ええと」
「名前を教えてくれ、可憐な人」
「…………ウルシュテリアです」
「素敵な名前だ、確か四年に一回だけ咲く花の名前だったね。そちらの魔物の方の名前は?」
「シラユキですわ、此方の堕天使はラクスター。とても乱暴者ですから、うっかりと何か粗相をしでかすかもしれませんわね。私達に何かするのであれば」

 シラユキの目は警戒に満ちていた。
 兄様の背中の衣服を掴んで、ほんの少し威嚇していた。
 そこがまた猫のようだと捉えたのか、ジェネットは嬉しそうにシラユキを見つめる。

「アルベルト、気に入ったぞ! シラユキを、私の妾にできないか父上に頼もう」
「あら、私には直接伺わないのですか。ふられるのがわかりきってるから?」
「いいや、お前の意思がどうであろうと父上が言えばお前は断れないからだよ、シラユキ。人間と魔物の友好の証となるだろう?」
「……本当に。まったく。……私、失念しておりましたわ。それはそれは幸せな環境で、人間に接してもギルバートやウル様みたいな御方ばかりだったから、ゲスな人間がいるということを忘れておりました。人間の王からは既に条件は出たのでそこには追加条件は認められませんわ。それ以上をお望みであれば、貴方という個でご来訪くださいますよう。きっぱりお断りしてさしあげますから。失礼遊ばせ」
 にこりと冷ややかな笑みに私もラクスターも、シラユキがかつてないほどに怒っているのだと分かった。
 あまりの氷の微笑にアルベルトは固まり、ジェネットは言葉を失って唖然としていたがすぐにぎらついた目になる。
 それでも無視して私達は部屋に向かおうと歩くと、ジェネットは後ろから声をかけてきた。

「私は諦めないぞ、シラユキ」
「叶わない思いでも宜しければご自由に……物好きな御方」

 冷ややかな声に、兄様への声色とだいぶ違うと改めて再確認する。
 兄様は自分との落差に、少しだけ浮かれ、シラユキの手を繋いで歩く。
 少しだけジェネットに振り返って、すまなさそうに笑いかけてから改めて兄様はシラユキを見つめるとシラユキは兄様の手に対しては柔らかに微笑んでいた。

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