勇者の妹ですが、病弱で死んでしまったら魔王が求婚して生き返らせてくれました!

かぎのえみずる

文字の大きさ
上 下
36 / 88
星流れのデート編

第三十六話 一人の辛さとトラウマ

しおりを挟む
「思い出せなかったのか、ウル。君がずっとずっと一人になる日だったんだよ。僕がきて、君は泣いて喜んだね。有難う有難うって」
「黙れアルギス」
「あの頃は可愛かったなア、僕がいなければ何一つ出来ない可哀想な女の子でした」
「アルギス、ウルの顔を見ろ!」

 私が真っ青になってくらくらとしてる様子に、アルギスは気づくと今までのは悪気がなかったのか少しだけ大人しくしょんぼりとした。

「一人がそんなに怖い? ウル」
「……やめて、アルギス。聞かないで」
「質問を拒絶するくらいに? 勇者に置いて行かれたことは相当なトラウマとなっているみたいですね。……ウル、君は僕のこと関係なしに今後考えなくちゃいけないんだよ。立ち向かわなくちゃいけないんだよ、いつしか人間は一人となる」
「ちがう、違うわ、私、魔物、になったんだもの」
「それでもね。君は一人の時間、ずっと恐れたままでいいのか? ずっと魔王ゼロにべったりというわけにもいかないでしょう」
「……一人、じゃないわ、私には、もう、みんながいる」
「泣きそうな顔で言われても説得力ないんだよ、ウル」

 アルギスは片手をゆるりと差し出し微笑みかけてきた。

「この手を取れば、ずっと僕が監視して見守っていてあげますよ、ウル」
「要するにお前の我が儘だな、ウルの弱味につけ込んだとんだセールストークだ」

 ゼロの言葉にげらげらとアルギスは笑うと、服が乾いたのを確認し、干し肉を食べているのに使ってた小枝を火に投じて一瞬火は燃えさかった。

「君にはないのかい、ウルに向けてのアピールやセールストークは」
「そんなものなくとも、ウルは余を選ぶ」
「一見自信に満ちた返答だ。その裏で、ウルが事実そうであるのか不安が見えて確認するのが怖いとも受け取れる返答だな」
「……貴様は人間でなく、根っからの魔崩れだな。人間にしては嫌な観察眼をしている。人間とはもっと真っ直ぐなものではないのか」
「人間は卑しくてゲスな生き物ですよう、さてと」

 アルギスは乾いた上着を着ると、衣服を整え山小屋から出て行こうとする。

「地図は東向きにして進んだ方が君たちの城に、あの橋を使わなくても帰れるでしょう。ウル、風邪を絶対に引かないように。それでは、星流れの二日目にお約束通り迎えに行きますね、それではさようなら、お先に。雨もあがりましたし」
「何故雨があがったと分かる」
「最初から僕の仕掛けた魔法だったからですよ、簡単に引っかかってくれて有難う。約束も取り付けたし、今日は引き下がります。ウルの顔色も宜しくないのは本意じゃないんでね」

 アルギスはにこりと微笑むとそのまま静かに去って行った。
 私は頭の中でアルギスの背を見送りながら、兄様が勇者として巣立っていく姿をその背に重ねて、目から涙が溢れた。

「ウル! ウル、大丈夫だ、余が居る!」
「あ……あ……、ゼロ……私、いったい」
「ウル、一人ではない、一人にはさせぬよ」
「……有難う、有難う」

 私は大粒の涙を零しながら、ゼロに抱きついて寂しさと恐怖を埋めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!

Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。 転生前も寝たきりだったのに。 次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。 でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。 何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。 病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。 過去を克服し、二人の行く末は? ハッピーエンド、結婚へ!

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。

緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」  そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。    私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。  ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。  その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。 「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」  お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。 「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」  

処理中です...