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星流れのデート編
第三十三話 魔物である時間を忘れて
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ふかふかのパンが焼き上がって、とても良い匂いがする。
味見をすれば、とてもふんわりとして美味しいものができた。
レシピをくれたのはミディ団長だった、あの人はパンに拘りがあるらしい。
お弁当の用意も調ったからバスケットに入れて、ゼロの元に行こうとしたの。
ゼロはラクスターと何かを話していた。
「お前、うちの姫さんの何がそんなに好きなんだよ。夢中にどうしてなるんだ?」
「どうした、ラクスター。珍しいな、惚気を聞きたがるとは」
「べーつに! ただ、何となく……姫さんは分かるんだ、お前に対してどうしてそういう思いを寄せるのかは。今まで散々女を侍らせていたお前がピュアな思いを突然持つ理由がわかんねえんだ。うちの姫さんからかって泣かせようってんなら容赦しねえぞ」
「……ふむ、なあラクスター。面白い出会いもあるものよの。確かに女に対してあまり興味などわいてこなかった、ウルと出会うまではな。……余は、一度、あの乙女に救われているのだよ。それが理由では不十分か?」
「だからそれが何なのかってのを……うおっ、めっちゃ良い匂いする!!」
「ラクスター、話はお終いだ。ウルがきたようだ」
私がこっそりいると知るとくすくすと可笑しげな声を漏らして、ゼロは見つけた私に近づき顔を覗き込む。
私が何かを言うよりも先にゼロは私を俵担ぎして、ラクスターに「いってくる!」と告げるとそのまま歩いて行った。
不満そうな、それでいて何処か寂しげなラクスターの表情が遠のいていく。
「よき弁当が出来たようだな、ウル?」
「あ、あの、私が救ったって何を……」
「お前は覚えるべき話ではない。気にするな。嗚呼、ずっと嗅いでいたいパンの香りだ」
誤魔化すようにゼロは私を外まで連れて行くと、馬車に乗せ馬車を走らせた。
馬車は最初は馬が角が三本ある魔物だったけれど、ゼロがぱちんと指を鳴らすと、一気に角は透明化して普通の馬に化けた。
「余とお前が魔物であるのは、内緒だぞ、ウル」
シィと口元に人差し指をあて目を細める姿が、色気に溢れて見えて私は二人きり、ということを意識してしまう。
(デート……するんだ、何が起きるのかな)
私は大人しくゼロの隣に座り、手をそっと重ねた。
「一人にしては嫌よ?」
「うむ、分かっているよ。心細い思いはさせぬ」
*
ゼロが私からバスケットを取ろうとするから、首を振って私が持っていたいと態度で示すとゼロはくすくすと笑って頷いた。
街に着くとゼロは指を鳴らし、私とゼロの服装を街の人たちと比べて違和感のない衣装にしてくれた。
私は町娘とおなじワンピースを着せて貰い、新鮮だった。
「この町では余のことは旦那様と呼べ」
「どうして?」
「偽名を作るのは面倒だが、あまり正体はばれたくない。折角お前と二人なのだから、静かに過ごしたいだろう? 夫婦として過ごせ」
「じゃ、じゃあゼロ……旦那様は私のこと何て呼ぶの?」
「我が妻よ、とでも呼ぼうか」
つ、妻……響きにどきっとして、両頬を咄嗟に抑えたら、ゼロはそっと私のおでこに口づけて間近で顔を覗き込みにやにやとする。
「随分反応が可愛らしいことだ」
「だ、旦那様……恥ずかしい、です」
「愛い反応でもっと見たくなる、こっちを向け、妻よ」
「ううう……旦那様の意地悪ッ」
ゼロは私の首筋に頭をすり寄せて甘えてくる。
間近に迫ったゼロの香りにドキドキしてしまい、身動きがとれなくなる。
私はゼロを押しのけようとしたのに、ゼロから「拒まないで」と小さく掠れた声で頼まれたので、すっかりそのままでいることに。
どきどきして心臓が落ち着かない。ゼロはただ只管に鎖骨をぺろりと舐めてくる。
「……良い味見であった。弁当の方も楽しみにしておこう」
「……ッ、ば、か……!」
「デートなのだから、意識してもらいたくもなるだろう? お前は雄を侮っているよ」
ゼロは身をそっと名残惜しげに離してから、馬車から先に降りると、ゼロが私の手を引いて下りる。
先行きが、心臓の鼓動がもつか不安だ――。
全身が沸騰しそうなほど恥ずかしいもの。
味見をすれば、とてもふんわりとして美味しいものができた。
レシピをくれたのはミディ団長だった、あの人はパンに拘りがあるらしい。
お弁当の用意も調ったからバスケットに入れて、ゼロの元に行こうとしたの。
ゼロはラクスターと何かを話していた。
「お前、うちの姫さんの何がそんなに好きなんだよ。夢中にどうしてなるんだ?」
「どうした、ラクスター。珍しいな、惚気を聞きたがるとは」
「べーつに! ただ、何となく……姫さんは分かるんだ、お前に対してどうしてそういう思いを寄せるのかは。今まで散々女を侍らせていたお前がピュアな思いを突然持つ理由がわかんねえんだ。うちの姫さんからかって泣かせようってんなら容赦しねえぞ」
「……ふむ、なあラクスター。面白い出会いもあるものよの。確かに女に対してあまり興味などわいてこなかった、ウルと出会うまではな。……余は、一度、あの乙女に救われているのだよ。それが理由では不十分か?」
「だからそれが何なのかってのを……うおっ、めっちゃ良い匂いする!!」
「ラクスター、話はお終いだ。ウルがきたようだ」
私がこっそりいると知るとくすくすと可笑しげな声を漏らして、ゼロは見つけた私に近づき顔を覗き込む。
私が何かを言うよりも先にゼロは私を俵担ぎして、ラクスターに「いってくる!」と告げるとそのまま歩いて行った。
不満そうな、それでいて何処か寂しげなラクスターの表情が遠のいていく。
「よき弁当が出来たようだな、ウル?」
「あ、あの、私が救ったって何を……」
「お前は覚えるべき話ではない。気にするな。嗚呼、ずっと嗅いでいたいパンの香りだ」
誤魔化すようにゼロは私を外まで連れて行くと、馬車に乗せ馬車を走らせた。
馬車は最初は馬が角が三本ある魔物だったけれど、ゼロがぱちんと指を鳴らすと、一気に角は透明化して普通の馬に化けた。
「余とお前が魔物であるのは、内緒だぞ、ウル」
シィと口元に人差し指をあて目を細める姿が、色気に溢れて見えて私は二人きり、ということを意識してしまう。
(デート……するんだ、何が起きるのかな)
私は大人しくゼロの隣に座り、手をそっと重ねた。
「一人にしては嫌よ?」
「うむ、分かっているよ。心細い思いはさせぬ」
*
ゼロが私からバスケットを取ろうとするから、首を振って私が持っていたいと態度で示すとゼロはくすくすと笑って頷いた。
街に着くとゼロは指を鳴らし、私とゼロの服装を街の人たちと比べて違和感のない衣装にしてくれた。
私は町娘とおなじワンピースを着せて貰い、新鮮だった。
「この町では余のことは旦那様と呼べ」
「どうして?」
「偽名を作るのは面倒だが、あまり正体はばれたくない。折角お前と二人なのだから、静かに過ごしたいだろう? 夫婦として過ごせ」
「じゃ、じゃあゼロ……旦那様は私のこと何て呼ぶの?」
「我が妻よ、とでも呼ぼうか」
つ、妻……響きにどきっとして、両頬を咄嗟に抑えたら、ゼロはそっと私のおでこに口づけて間近で顔を覗き込みにやにやとする。
「随分反応が可愛らしいことだ」
「だ、旦那様……恥ずかしい、です」
「愛い反応でもっと見たくなる、こっちを向け、妻よ」
「ううう……旦那様の意地悪ッ」
ゼロは私の首筋に頭をすり寄せて甘えてくる。
間近に迫ったゼロの香りにドキドキしてしまい、身動きがとれなくなる。
私はゼロを押しのけようとしたのに、ゼロから「拒まないで」と小さく掠れた声で頼まれたので、すっかりそのままでいることに。
どきどきして心臓が落ち着かない。ゼロはただ只管に鎖骨をぺろりと舐めてくる。
「……良い味見であった。弁当の方も楽しみにしておこう」
「……ッ、ば、か……!」
「デートなのだから、意識してもらいたくもなるだろう? お前は雄を侮っているよ」
ゼロは身をそっと名残惜しげに離してから、馬車から先に降りると、ゼロが私の手を引いて下りる。
先行きが、心臓の鼓動がもつか不安だ――。
全身が沸騰しそうなほど恥ずかしいもの。
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