33 / 88
星流れのデート編
第三十三話 魔物である時間を忘れて
しおりを挟む
ふかふかのパンが焼き上がって、とても良い匂いがする。
味見をすれば、とてもふんわりとして美味しいものができた。
レシピをくれたのはミディ団長だった、あの人はパンに拘りがあるらしい。
お弁当の用意も調ったからバスケットに入れて、ゼロの元に行こうとしたの。
ゼロはラクスターと何かを話していた。
「お前、うちの姫さんの何がそんなに好きなんだよ。夢中にどうしてなるんだ?」
「どうした、ラクスター。珍しいな、惚気を聞きたがるとは」
「べーつに! ただ、何となく……姫さんは分かるんだ、お前に対してどうしてそういう思いを寄せるのかは。今まで散々女を侍らせていたお前がピュアな思いを突然持つ理由がわかんねえんだ。うちの姫さんからかって泣かせようってんなら容赦しねえぞ」
「……ふむ、なあラクスター。面白い出会いもあるものよの。確かに女に対してあまり興味などわいてこなかった、ウルと出会うまではな。……余は、一度、あの乙女に救われているのだよ。それが理由では不十分か?」
「だからそれが何なのかってのを……うおっ、めっちゃ良い匂いする!!」
「ラクスター、話はお終いだ。ウルがきたようだ」
私がこっそりいると知るとくすくすと可笑しげな声を漏らして、ゼロは見つけた私に近づき顔を覗き込む。
私が何かを言うよりも先にゼロは私を俵担ぎして、ラクスターに「いってくる!」と告げるとそのまま歩いて行った。
不満そうな、それでいて何処か寂しげなラクスターの表情が遠のいていく。
「よき弁当が出来たようだな、ウル?」
「あ、あの、私が救ったって何を……」
「お前は覚えるべき話ではない。気にするな。嗚呼、ずっと嗅いでいたいパンの香りだ」
誤魔化すようにゼロは私を外まで連れて行くと、馬車に乗せ馬車を走らせた。
馬車は最初は馬が角が三本ある魔物だったけれど、ゼロがぱちんと指を鳴らすと、一気に角は透明化して普通の馬に化けた。
「余とお前が魔物であるのは、内緒だぞ、ウル」
シィと口元に人差し指をあて目を細める姿が、色気に溢れて見えて私は二人きり、ということを意識してしまう。
(デート……するんだ、何が起きるのかな)
私は大人しくゼロの隣に座り、手をそっと重ねた。
「一人にしては嫌よ?」
「うむ、分かっているよ。心細い思いはさせぬ」
*
ゼロが私からバスケットを取ろうとするから、首を振って私が持っていたいと態度で示すとゼロはくすくすと笑って頷いた。
街に着くとゼロは指を鳴らし、私とゼロの服装を街の人たちと比べて違和感のない衣装にしてくれた。
私は町娘とおなじワンピースを着せて貰い、新鮮だった。
「この町では余のことは旦那様と呼べ」
「どうして?」
「偽名を作るのは面倒だが、あまり正体はばれたくない。折角お前と二人なのだから、静かに過ごしたいだろう? 夫婦として過ごせ」
「じゃ、じゃあゼロ……旦那様は私のこと何て呼ぶの?」
「我が妻よ、とでも呼ぼうか」
つ、妻……響きにどきっとして、両頬を咄嗟に抑えたら、ゼロはそっと私のおでこに口づけて間近で顔を覗き込みにやにやとする。
「随分反応が可愛らしいことだ」
「だ、旦那様……恥ずかしい、です」
「愛い反応でもっと見たくなる、こっちを向け、妻よ」
「ううう……旦那様の意地悪ッ」
ゼロは私の首筋に頭をすり寄せて甘えてくる。
間近に迫ったゼロの香りにドキドキしてしまい、身動きがとれなくなる。
私はゼロを押しのけようとしたのに、ゼロから「拒まないで」と小さく掠れた声で頼まれたので、すっかりそのままでいることに。
どきどきして心臓が落ち着かない。ゼロはただ只管に鎖骨をぺろりと舐めてくる。
「……良い味見であった。弁当の方も楽しみにしておこう」
「……ッ、ば、か……!」
「デートなのだから、意識してもらいたくもなるだろう? お前は雄を侮っているよ」
ゼロは身をそっと名残惜しげに離してから、馬車から先に降りると、ゼロが私の手を引いて下りる。
先行きが、心臓の鼓動がもつか不安だ――。
全身が沸騰しそうなほど恥ずかしいもの。
味見をすれば、とてもふんわりとして美味しいものができた。
レシピをくれたのはミディ団長だった、あの人はパンに拘りがあるらしい。
お弁当の用意も調ったからバスケットに入れて、ゼロの元に行こうとしたの。
ゼロはラクスターと何かを話していた。
「お前、うちの姫さんの何がそんなに好きなんだよ。夢中にどうしてなるんだ?」
「どうした、ラクスター。珍しいな、惚気を聞きたがるとは」
「べーつに! ただ、何となく……姫さんは分かるんだ、お前に対してどうしてそういう思いを寄せるのかは。今まで散々女を侍らせていたお前がピュアな思いを突然持つ理由がわかんねえんだ。うちの姫さんからかって泣かせようってんなら容赦しねえぞ」
「……ふむ、なあラクスター。面白い出会いもあるものよの。確かに女に対してあまり興味などわいてこなかった、ウルと出会うまではな。……余は、一度、あの乙女に救われているのだよ。それが理由では不十分か?」
「だからそれが何なのかってのを……うおっ、めっちゃ良い匂いする!!」
「ラクスター、話はお終いだ。ウルがきたようだ」
私がこっそりいると知るとくすくすと可笑しげな声を漏らして、ゼロは見つけた私に近づき顔を覗き込む。
私が何かを言うよりも先にゼロは私を俵担ぎして、ラクスターに「いってくる!」と告げるとそのまま歩いて行った。
不満そうな、それでいて何処か寂しげなラクスターの表情が遠のいていく。
「よき弁当が出来たようだな、ウル?」
「あ、あの、私が救ったって何を……」
「お前は覚えるべき話ではない。気にするな。嗚呼、ずっと嗅いでいたいパンの香りだ」
誤魔化すようにゼロは私を外まで連れて行くと、馬車に乗せ馬車を走らせた。
馬車は最初は馬が角が三本ある魔物だったけれど、ゼロがぱちんと指を鳴らすと、一気に角は透明化して普通の馬に化けた。
「余とお前が魔物であるのは、内緒だぞ、ウル」
シィと口元に人差し指をあて目を細める姿が、色気に溢れて見えて私は二人きり、ということを意識してしまう。
(デート……するんだ、何が起きるのかな)
私は大人しくゼロの隣に座り、手をそっと重ねた。
「一人にしては嫌よ?」
「うむ、分かっているよ。心細い思いはさせぬ」
*
ゼロが私からバスケットを取ろうとするから、首を振って私が持っていたいと態度で示すとゼロはくすくすと笑って頷いた。
街に着くとゼロは指を鳴らし、私とゼロの服装を街の人たちと比べて違和感のない衣装にしてくれた。
私は町娘とおなじワンピースを着せて貰い、新鮮だった。
「この町では余のことは旦那様と呼べ」
「どうして?」
「偽名を作るのは面倒だが、あまり正体はばれたくない。折角お前と二人なのだから、静かに過ごしたいだろう? 夫婦として過ごせ」
「じゃ、じゃあゼロ……旦那様は私のこと何て呼ぶの?」
「我が妻よ、とでも呼ぼうか」
つ、妻……響きにどきっとして、両頬を咄嗟に抑えたら、ゼロはそっと私のおでこに口づけて間近で顔を覗き込みにやにやとする。
「随分反応が可愛らしいことだ」
「だ、旦那様……恥ずかしい、です」
「愛い反応でもっと見たくなる、こっちを向け、妻よ」
「ううう……旦那様の意地悪ッ」
ゼロは私の首筋に頭をすり寄せて甘えてくる。
間近に迫ったゼロの香りにドキドキしてしまい、身動きがとれなくなる。
私はゼロを押しのけようとしたのに、ゼロから「拒まないで」と小さく掠れた声で頼まれたので、すっかりそのままでいることに。
どきどきして心臓が落ち着かない。ゼロはただ只管に鎖骨をぺろりと舐めてくる。
「……良い味見であった。弁当の方も楽しみにしておこう」
「……ッ、ば、か……!」
「デートなのだから、意識してもらいたくもなるだろう? お前は雄を侮っているよ」
ゼロは身をそっと名残惜しげに離してから、馬車から先に降りると、ゼロが私の手を引いて下りる。
先行きが、心臓の鼓動がもつか不安だ――。
全身が沸騰しそうなほど恥ずかしいもの。
0
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。
緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」
そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。
私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。
ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。
その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。
「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」
お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。
「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」

強い祝福が原因だった
棗
恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。
父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。
大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。
愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。
※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。
※なろうさんにも公開しています。

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。
彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。
そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。
やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。
大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。
同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。
*ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。
もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。

赤貧令嬢の借金返済契約
夏菜しの
恋愛
大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。
いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。
クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。
王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。
彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。
それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。
赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

【完結】婚約者なんて眼中にありません
らんか
恋愛
あー、気が抜ける。
婚約者とのお茶会なのにときめかない……
私は若いお子様には興味ないんだってば。
やだ、あの騎士団長様、素敵! 確か、お子さんはもう成人してるし、奥様が亡くなってからずっと、独り身だったような?
大人の哀愁が滲み出ているわぁ。
それに強くて守ってもらえそう。
男はやっぱり包容力よね!
私も守ってもらいたいわぁ!
これは、そんな事を考えているおじ様好きの婚約者と、その婚約者を何とか振り向かせたい王子が奮闘する物語……
短めのお話です。
サクッと、読み終えてしまえます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる