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勇者参列編
第十九話 偽結婚式
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式の当日、ドレスアップを手伝ってくれるのはシラユキと侍女魔物たちだった。
真っ白いけれど、今回多少なりとも動きやすいように、とミニ丈のドレスだった。
「本番はきちんとロング丈ですのでご安心を! 此方のドレスもお似合いですわ」
とシラユキは笑いながらドレスアップにメイクも手伝ってくれた。
仕上がると、式前に入るのを許された兄様とゼロがやってくる。
二人とも感極まった様子で私に抱きつき、同時に抱きついたからか険悪になり、今にも殴り合う寸前だ。
「喧嘩は今はおやめくださいましね。さて、状況はどうです?」
「城はどうやら水の魔王の眷属と、魔崩れ達に包囲されてるようだ。式をあげればやはり乗り込んでくるだろうな。一番恋敵相手に屈辱と絶望感を与えるタイミングだろう」
ゼロは灰色のタキシードに身を包ませ、衣類を邪魔そうにしていた。
兄様は礼服が堅苦しくて慣れないのか、首元のボタンを一つあけながら、頷いた。
「オレのパーティも戦闘態勢いつでも調ってる。魔王が現れるまでは、こっちに加勢する」
「分かった、精々死にかけて城に転送されるなよ」
「うるせえ闘牛」
仲の悪さは相変わらずで私はくすくすと笑ってから、案内人の声にいよいよと婚礼の儀を始めることとした。
*
会場の魔方陣が敷かれた大きな教会を模した建物には、いつでも臨戦態勢の魔物や兄様のパーティの人たちがいた。
ゼロはバージンロードの先に居て、私と目が合うなり微笑みかけてくれた。
厳かな曲を幾つも手を持つ蜘蛛の魔物が、パイプオルガンで奏でる。
この建物、私との儀式の為にわざわざゼロが一晩で建てたって話らしい。
それを聞いた場にいたラクスターからは「愛されてるな」と茶化されたっけ。
新婦参列側には、ミディ団長とラクスター、シラユキが座っていてくれていて、席の配慮に嬉しくなった。
ミディ団長は目が合うとにこりと笑いかけてくれたし、ラクスターはけらけらと笑っている。シラユキは目に涙を浮かべ、これは偽の式だというのに感動していた。
バージンロードを兄様と歩き終わり、ゼロへ託す時に、兄様は嫌悪が現れたのか中々場から退いてくれなかった。
「兄様? ギルバート兄様?」
「くっそ、やっぱりいけすかねえがしかたねえ……」
兄様は微苦笑し私の頬にキスをして離れると、私とゼロは姿勢と立ち位置を整えて、人間で言う神父役の人の誓いを聞くこととした。
「手短に」
ゼロからの声なし指示に、神父は頷き、誓いを一気に短くした。
「汝この者を妻として迎え入れ、病めるときも健やかなるときも共に居ると誓いますか?」
「誓おう」
「汝この者を夫として迎え入れ、病めるときも健やかなるときも共に居ると誓い……」
「誓わせないよ、僕のウル」
教会の扉が大きく破壊され、中にアルギス、サキ、リデルたちが入ってきた。
三人の後ろにいるのは、……魚のような鱗を身体に模し、尾びれをくねらせる人魚。
恐らく水の魔王、ヴァルシュア。
ヴァルシュアは金色の眼差しで私を睨み付け、蒼い髪を揺らめかせた。
私は持っていたブーケに隠し持っていた、魔力を増強させる杖を手に、一同に戦闘開始の合図を促した。
「いざゆかん、我らの仲間を守り給え、金色の盾よ!」
真っ白いけれど、今回多少なりとも動きやすいように、とミニ丈のドレスだった。
「本番はきちんとロング丈ですのでご安心を! 此方のドレスもお似合いですわ」
とシラユキは笑いながらドレスアップにメイクも手伝ってくれた。
仕上がると、式前に入るのを許された兄様とゼロがやってくる。
二人とも感極まった様子で私に抱きつき、同時に抱きついたからか険悪になり、今にも殴り合う寸前だ。
「喧嘩は今はおやめくださいましね。さて、状況はどうです?」
「城はどうやら水の魔王の眷属と、魔崩れ達に包囲されてるようだ。式をあげればやはり乗り込んでくるだろうな。一番恋敵相手に屈辱と絶望感を与えるタイミングだろう」
ゼロは灰色のタキシードに身を包ませ、衣類を邪魔そうにしていた。
兄様は礼服が堅苦しくて慣れないのか、首元のボタンを一つあけながら、頷いた。
「オレのパーティも戦闘態勢いつでも調ってる。魔王が現れるまでは、こっちに加勢する」
「分かった、精々死にかけて城に転送されるなよ」
「うるせえ闘牛」
仲の悪さは相変わらずで私はくすくすと笑ってから、案内人の声にいよいよと婚礼の儀を始めることとした。
*
会場の魔方陣が敷かれた大きな教会を模した建物には、いつでも臨戦態勢の魔物や兄様のパーティの人たちがいた。
ゼロはバージンロードの先に居て、私と目が合うなり微笑みかけてくれた。
厳かな曲を幾つも手を持つ蜘蛛の魔物が、パイプオルガンで奏でる。
この建物、私との儀式の為にわざわざゼロが一晩で建てたって話らしい。
それを聞いた場にいたラクスターからは「愛されてるな」と茶化されたっけ。
新婦参列側には、ミディ団長とラクスター、シラユキが座っていてくれていて、席の配慮に嬉しくなった。
ミディ団長は目が合うとにこりと笑いかけてくれたし、ラクスターはけらけらと笑っている。シラユキは目に涙を浮かべ、これは偽の式だというのに感動していた。
バージンロードを兄様と歩き終わり、ゼロへ託す時に、兄様は嫌悪が現れたのか中々場から退いてくれなかった。
「兄様? ギルバート兄様?」
「くっそ、やっぱりいけすかねえがしかたねえ……」
兄様は微苦笑し私の頬にキスをして離れると、私とゼロは姿勢と立ち位置を整えて、人間で言う神父役の人の誓いを聞くこととした。
「手短に」
ゼロからの声なし指示に、神父は頷き、誓いを一気に短くした。
「汝この者を妻として迎え入れ、病めるときも健やかなるときも共に居ると誓いますか?」
「誓おう」
「汝この者を夫として迎え入れ、病めるときも健やかなるときも共に居ると誓い……」
「誓わせないよ、僕のウル」
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恐らく水の魔王、ヴァルシュア。
ヴァルシュアは金色の眼差しで私を睨み付け、蒼い髪を揺らめかせた。
私は持っていたブーケに隠し持っていた、魔力を増強させる杖を手に、一同に戦闘開始の合図を促した。
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