勇者の妹ですが、病弱で死んでしまったら魔王が求婚して生き返らせてくれました!

かぎのえみずる

文字の大きさ
上 下
13 / 88
勇者参列編

第十三話 兄である勇者との再会

しおりを挟む
 シラユキに案内された王室に、確かに兄様とラクスター、セバスチャンはいた。
 ラクスターと目が合うと、ラクスターはにやにやと笑いながら両手でピースしたものだから私は笑ってしまった。
 ゼロの咳払いで、私ははっとし、兄様に歩み寄る。
 兄様は、じっと私を見つめると、睨み付けて隅々まで眺めて盛大なため息をついた。
 信じてくれる?
 怖い、兄様が信じてくれなかったらと思うととても怖い。
 唯一の血の繋がった家族だから、見捨てられたらと思うと怖くて身がすくむの。
 一回視線を落としてから、もう一度視線を合わせたところで、兄様はしゃんとして真面目な表情になった。

「マジにウルだ……オレの正真正銘の妹であるウルの仕草をよくするから、分かるんだ。視線の置き方も、本当にウルだ。その遠慮がちに相手を見つめる仕草だって……ウル、どうして……死なせてしまった、オレが死なせてしまったウルだ!」
 兄様が涙混じりに私を抱きしめてくれたことで、私も兄様から涙を貰ってしまい、もらい泣きした。
 静かに泣きながら、兄様を抱きしめた。

「ごめんなさい、兄様をお一人にしてしまい。苦労をおかけしました」
「いいんだよ、そんなことは! 怪我はもうないな、病もない健康体なんだな!?」
「はい、ウルはとても元気に此処で暮らしてます。皆様によくしてもらってます」
「まあよくしてもらってるっつーのはにわかに信じがたい話だが、そこの堕天使を信じてついてきて確かに良かったみたいだ」
「道中何かありましたか?」
「いや、そこの爺さんが寝るたんびに殺そうと戦いを仕掛けてくるから、手間取っていたら堕天使が助けてくれて一緒に案内するつってな」
 兄様の言葉にセバスチャンは慌てもせず、にこにことしているが、ゼロが目を細め静かに怒りを抑えた声を放つ。
「セバスチャン、どういうことだ。余は、今回に関しては丁重にもてなせと申したつもりだったが、それは余の認識とずれていたかな?」
「は、はは、老いぼれですので忘れておりましたのじゃ……」
 セバスチャンはゼロの一声ただ一つで身震いさせ、ラクスターは爆笑してる。
 ゼロはセバスチャンに下がらせると、勇者に机越しに眼差しを向ける。

「さて、勇者よ。この部屋にお前がいるのは不思議で大層な縁であるが、此度はセバスチャンが用事を告げたと思うが改めて。ウルとの婚礼の承諾を貰いたい」
「……てめえにウルが幸せに出来るのか?」
「しようとも」
「一人にもするなよ」
「お前に言われたくはない」
「てっっっめ!!!!!!! ……っち、否定したいとこだが、魔物に転生したからには、魔王の花嫁が一番安全かもしれねえのは確かだ。魔物の側にいるってんなら!」
「お兄様……!」
「くっっそむかつく相手だけど、認めてやるよ。バージンロードも歩いてやってもいい、ウルをエスコートしてな」
 私は兄様に嬉しくて抱きつくと、兄様はでれっとしてから真面目な表情に戻った。
「ただ何もお礼なしは困るな。お前にとっても悪くない話を持ってきた、魔王、引き受けて欲しい。魔崩れである……アルギス退治の協力を」
「お兄様?!!」
「はは……あの軟弱なアルギスが、結構大変なことになってるんだ、人間側にとってもな」
「申してみよ、何をあの魔崩れが行っているのか」
「……優秀な人間ばかりを狙って誘惑し、水の魔王と契約し魅了された者達が魔崩れになって人里や国を襲っている。魔崩れは、魔物じゃあない。だが間接的には関わっている。……扱いに困っているし、オレとしてもアルギスはウルの生前には大変世話になったからどうにかしたいんだ。それに情報をうちのシーフが掴んだんだが、水の魔王は近々お前の領域に何かを仕掛けるつもりらしい」
「……つまり、余にも迷惑である同胞を殺してあの魔崩れを解放させろと? 他の魔崩れも兼ねて」
「オレが世界でたった一人の大事な妹だった魂を、ゴミでくそみてぇなテメエなんざにくれてやり、妹の幸せとして心から祝福する条件がこれだ」
「……勇者としての顔だけであったら、答えは簡単で、否であった。しかしな、お前は新婦の、我が乙女の兄故に、義兄となるのよな」
「馬鹿牛ッ、オレが避けてきた単語を言うなア!! 鳥肌たつわ!!」
「いや、真面目にな。義兄としての話であれば、聞かねばな」

 にこりとゼロは笑いかけてから、薄ら笑いに変わり、冷酷な色を瞳に宿す。

「ひとつ、あの馬鹿女に戒めを与えるのに協力しよう。人相手で倒せぬのなら魔王の妨害は、お前に任せる。お前が処理をしてあいつを殺すなり捕らえるなりしろ。魔崩れは、余が何とかしよう」
「うっし、話は成立だ。それと、シーフが掴んだ情報によると……アルギスは、ウル。お前を奪おうと……攫おうと作戦を練っているらしい」
「……ッアルギスが……」
「気をつけろよ。生前にお前たちの関係は良好だったことは知ってる、恋仲にまで発展はしてなかったのもな。でも、今、アルギスは恋に狂った化け物だ。何をしてでも、魔王、てめえからウルを奪おうとするだろう」

 兄様は真剣な顔で私とゼロを交互に見やり、笑った。

「真剣な愛を育むのなら、まず排除すべきはアルギスとの問題だ。オレなんかよりもな。力尽くでウルを奪う婚礼じゃないと言うのなら、証明してみせろ魔王。ウルが、お前を選ぶのだと」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!

Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。 転生前も寝たきりだったのに。 次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。 でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。 何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。 病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。 過去を克服し、二人の行く末は? ハッピーエンド、結婚へ!

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。

晴日青
恋愛
「私の子を産んでほしい」  倒すべき相手として教えられてきた魔王は、どうやら人間の思い描いていたものとは違っていたようで。  『勇者』として相対したのに些細なことから懐かれる羽目になり――。 「どうして断られるのかわからない」 「あなたがなにを考えているか、そっちの方がわからないからよ」  天然魔王シュクルと、プリンセス兼元勇者ティアリーゼの、ズレ気味ファンタジーラブコメディ。 *** 五つの大陸を治める五人の魔王。 獣の特徴を持った亜人となにも持たぬ人間たち。 そんな世界で繰り広げられる小さな物語のひとつめ。 中央に座する白蜥の魔王の物語。 ※「小説家になろう」でも同タイトルを掲載させていただいております。 ※番外編はじめました。本編読了後にお楽しみください。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました

しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。 そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。 そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。 全身包帯で覆われ、顔も見えない。 所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。 「なぜこのようなことに…」 愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。 同名キャラで複数の話を書いています。 作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。 この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。 皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。 短めの話なのですが、重めな愛です。 お楽しみいただければと思います。 小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

処理中です...