目線の先、それはきっと暗い青。

湖霧どどめ

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1。開けた籠の向こう側も私自身も、何せ青かった。

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 色々なトップは取り続けてきたつもりだった。国数英社理の実力テストなんて、二位の奴が私に泣きながら「どうせカンニングでしょ!」と直接糾弾しにきたくらい。生憎カンニングしたのはその子本人で、よく言う「浮気を疑う奴は本人がヤッてる」を綺麗に体現していたのだった。身体的な技術が許す限りの技能的な科目もやれる限りはトップ。習い事もやれる限りで賞は取り続けた。
 すべての授賞式、賛辞の向こう側で幸福と充足感を得ていたのは母だった。よく覚えているのは、彼女は笑うと目が埋もれるということ。彼女はいつも笑顔だった。それはそうだ、だって私が笑顔にし続けてきたのだから。他の誰でもない、私が。
『かなえちゃんは本当にいい子ねえ』
 その言葉が私の生きる意義だった。子どもなんてそんなものだって、大人になった今なら言える。けれど急に気付く瞬間があって、今考えれば……あれが、私を閉じ込める窓を蹴破った瞬間だった。
『かなえちゃんはそんな子じゃないでしょう!』
 残念ながらそんな子なのよ、なんて口が裂けても言えなかった。だから、月経が数ヶ月来ていない理由を代わりに伝えたのだった。だって私は……ふと見えた、青空が急に欲しくなったのだから。
 綺麗だった。目線をいつも何か目的に誘導されていたから、窓の外なんて見る事なんてずっと無かった。けれど……ふと見やった青空を、私は忘れられなかった。その中央に座する太陽の光はあまりにも、鮮烈だった。だから私は、その陽光に処女を焼く事を許した。
 結果としてたった一回、それも膣外射精で簡単に妊娠する程運は回っていなかった。思春期によくある月経不順。でもそれは母の発狂を誘う事と男の逃亡を許す事を同時にかなえた。あの男に関しては今でも会い次第一回ぶん殴りたい。
 結果として家を追い出された私が行く先は、たった一つしかなかった。大学を卒業して大手企業への内定も貰えていたけれど、発狂した母が内定先に何かを電話で喚いたらしく白紙になった。思い通りにならないものは徹底的に潰したい、というのがあの人の信条なのだろう。厄介にも程がある。
 家無し金無し、しかし容姿はそれなり。そんな女が全てを求めてとなると、行きつく先はたった一つしかなかった。
 結果、私は足掻き続けている。青い空へ飛び立ったつもりが、きっと私は……海へと落ちた。青い、暗い海。
 男の精を導く有償ボランティア。手で、口で、ほんのたまに隠れて股で仕事をする。こんなの、昔の……青空を知る前の私なら、知りもしなかった仕事。

『かなえちゃんのおかげで私は幸せよ』
 私の事を、きっと幸せの青い鳥か何かと勘違いしていたのね。そう、きっと青い鳥なの。だから……青い空を飛んでいても、青い海へ沈んでいっても、気付いてもらえないのよ。ずっと。
 見付けてほしい。私を、見て欲しい。それだけの気持ちで、私は今生きている。
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