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46.痛々しい君だけは、見たくなかったのに。
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「う……」
ジェリアの口から小さく漏れた声は、反響した。その波紋が、鼓膜から耳の奥まで届く。それは確実に脳を揺さぶった。
そっと、目を開ける。暗い。何も見えない。目を閉じているのと、変わりがなかった。
「っつ、」
後頭部、そして背中にひりつく痛み。それでようやく、状況を思い出した。
ここは、あの小屋ではない。明らかに連れ去られている。
「ギルヴィア……クロイア……」
喉が、擦れる。それでも。
「エリオード……!」
気配は感じ取れない。自分だけなのか、それとも別の場所に居るのか。予測がつかない。
……単純に、怖い。震えた瞬間、足音がした。そして、遠くから灯りが近付いてくる。
灯りを持っていたのは、女だった。赤毛を豊かに伸ばした、気のきつそうな顔立ちの女だ。
「あら、目覚めたの」
「貴女は……」
女は忌々しげにジェリアを見下ろす。そこでようやく、自分が両腕を縛られて転がされている事に気付いた。
女の爪先が、勢いよくジェリアの腹を蹴り上げる。呻くジェリアの腹を、女は何かを呟きながら何度も強く蹴り続けた。
何故。この女は、一体。
「何してるんだ」
聴き慣れた声。口調は穏やかだが、何故か背筋が凍りつく。
女はびくり、と身を縮ませた。
「ラ……ラルネス」
ラルネスは手に持っていた燭台を、台のようなものに置いた。そして、女の顔を……勢いよく、張り飛ばす。破裂音がこだまして、耳痛すらした。
女は悔しそうに歯を食いしばりラルネスを睨みつけたが、ラルネスが彼女に何かを囁くと一気に顔色を変えた。ジェリアを一度だけ憎悪の視線で見下ろして、足音を立てながら離れていく。
女の気配が消えた頃、ラルネスが溜息を吐いた。そのまま、ジェリアの元へと跪く。
「すまない。僕もたった今ここについたばかりで……君にこんな手荒な真似をした奴らには、きちんと制裁したから。って言っても、そんな事君には興味も無いだろうね」
「ラルネス……貴方……」
「ジェリア、一旦きちんと手当てをしよう。こちらへ」
ラルネスはジェリアを抱き上げた。華奢な体だが、その力強さに彼が男であると痛感させられる。今の自分では絶対に逃げられない。
ジェリアの居た空間は、洞窟のようなものだった。しかし不自然に取り付けられた扉の向こうは、まるで住宅のような内装だった。継ぎ接ぎのような仕組みに、混乱する。ラルネスはそんなジェリアに構わず進んだ。
まるで居間のような空間を通る時、ソファとテーブルがあるのが見えた。ソファには、一人の男性が座っている。彼はラルネスを見ると、少しだけ顔を緩めた。
「何だ、目を覚ましたのか。お姫様は」
「ああ。あと、お前の部下には悪いけれど……」
「いいいい、察した。気持ちが逸っちまったんだろ、お前を怒らせると上下の歯全部消えるって学習出来たんだからいい勉強料と思わせるさ」
話が見えないまま、ラルネスは歩き始めた。彼を見上げると、いつもの微笑みのまま口を開く。
「どこまで知ったんだい」
呑気な、言葉だった。だからこそ戸惑ったが、「貴方と、ギルヴィアの事」と返す。ラルネスはとくに驚いた様子もなく、頷いた。
「なら、もう分かってるだろう。僕がネクロマンサーと組んでいる事」
実際本人の口から聞くと、辛かった。ラルネスにしがみ付くように彼の服を握っても、ラルネスは続ける。
「教会を潰せる可能性のある存在なら、正直誰でもよかったんだ。機会に恵まれただけだったんだよ、僕は」
「……なんで……」
「知ってるんだろう、僕はあの女を」
「違うわ」
ラルネスの足が止まる。ジェリアは涙腺が痛む中で、ラルネスを見上げた。視界が涙で揺らぐ。
「何で……私に、何も話してくれなかったの……」
ラルネスは流石に面食らったのか、微笑みを消してしまっていた。泣きそうな顔のまま、「ごめん」と呟き歩きだす。
「でも、もう変えられないよ。ここまで来たんだ」
「ラルネス……!」
「僕は僕なりの力で、やり方で、アーネハイトを護る。教会の……ジルガニッレの好きになんて、させてたまるものか」
……そうか。やはり、それが一番大きく絡んでいたのか。
「私が……エリオードを、愛してしまったから……」
ジェリアの言葉に、ラルネスは首を振る。
「それだけじゃない。けれど、確かにそれも大きい。だから気持ちが逸ったのはあるかな」
「私の、せいなのね」
「違うっ!」
大きな声だった。びくり、と身を縮ませたジェリアに「すまない」と取り繕うラルネスは、もう笑顔でいる事をやめていた。
「ジェリアは悪くないんだよ、本当だ。誑かしたあの男が悪いんだ」
もう、その怒りに囚われきってしまっているのか。彼は、根本から歪んでしまっていたのか。
「本当は、いち早く始末したかった。あんな約束を反故にしてでも」
「約束……」
「フォニカからの手紙を読んだんだろう」
ハッとする。まさか、さっきの女か。
扉がひとつ、開かれた。奥にはベッドがあり、瓶の入った棚がいくつも置かれている。医務室か何かだろうか。ラルネスはジェリアを椅子に座らせ、背もたれにその身を安定させた。手の後ろの縄は、未だ解かれない。
ジェリアの頭の様子を見ながら、ラルネスは続ける。
「悪いけど、流石に彼女には全部話したよ。君とエリオードくんの事」
「な、何で……」
「単に僕の都合さ。僕まで怒られた、『自らの一族から淫売を出した』とか言われたよ。ちなみにエリオードくんから仕掛けた、っていうのは一切疑ってなかったらしい。余程自分の管理に自信があったんだろうね」
……だからこそのあの行動か。確かに納得はいった。
「でもどうも、彼女は……いや、やめておこう。この状況で言ったところでややこしくなるだけだ」
そう独りごちるラルネスをじっと見詰めながら、ジェリアは後ろ手をそっと揺らした。それを見て、ラルネスは首を振る。
「それはまだ解けない。万が一逃げられたら堪らないからね。君にはここに居てほしいんだ」
「どうして」
「ここが一番、安全だからだよ」
それはそうだろう、黒幕本人が居るのだから。
しかしフォニカからの手紙には、少なくともエリオードはあそこに残るように指示があった。どういう事なのか。ジェリアの思考を読んだのか、ラルネスは微笑んだ。余裕を取り戻してきたらしい。
「ああ、フォニカは騙しやすい女だからね。今回もうまく乗ってくれたよ」
「え……」
「まあ安全だよ。『僕の差し向けた刺客に勝つ事が出来れば』だけどね」
傷とはまた違う頭痛が起こってきた。しかしどうにも出来ない。
今すぐの脱出は少なくとも不可。あちら方に関しては、エリオード達を信じるしかない。自分に何かできるわけでもないのに、不安でしかなかった。
それでも……信じると、決めたのだ。
「うおー用意周到」
馬車の中から外を覗き込みながら、ギルヴィアは呆れ気味につぶやいた。エリオードは最早溜息しかつけなくなっている。
鳩を追い到着した場所は、恐らく建物だったのだろう。完全に、焼失していた。鳩も戸惑っているかのように上空をくるくる飛んでいる。クロイアが窓から手を伸ばすと、大人しくクロイアの手に停まった。
「さーて八方塞がり。どうするか」
「……いや、そうだ。もし隠れ家がフォニカの手引きで……タロニの管轄だとしたら」
エリオードはクロイアを見た。クロイアも察したのか、頷く。
クロイアはぎゅっと、目を閉じた。そして、開く。ミネグブの目だった。
「あらあら、お久し振りね。あら、あの女の子は?」
「あいつのために聞きたい事があるんだ、あんたに」
エリオードの雰囲気からして只事ではないと察したのか、ミネグブは黙った。
「タロニが持ってる隠し別荘、記憶にないか。とくに、今勝手に使っても足がつかないようなところだ。あんたの知ってるところ、全部教えてくれ」
ミネグブはすぐさま「いくつもあるわよ」と答える。周りをきょろきょろ見回す動作をする彼女を見て、「西部寄りの南部にいる」とギルヴィアが声を掛ける。それを聞き、ミネグブは首を捻った。
「そうね。ここから一番近いところなら南部の中に二つあるわ。一つは大きな屋敷で、でも使用人が絶対在中してるからこっそり使うのは難しいわ」
「もう一つは」
「……待って、そこは確かハロイナードお姉様が正規で買ったんだったわ。駄目、絶対使えない」
「ああ、あのブスね。南部以外である?」
ミネグブはさらに頭を使っているのか、唸る。そして思いついたのか、頷いた。
「なら、西部に入っちゃうけれど一つあるわね。私が西部に昔お見合いに来た時見付けた」
「見付けた、ってそもそも知らなかったのか」
「ええ、かなり老朽化してるから放置されてたのよね。場所が場所だから買い手もつかなかったはず。今は分からないけれど」
「そんな辺鄙なところにあるのか」
エリオードが地図を広げながら問う。ミネグブは首を振った。
「いいえ、位置で言えば行きやすいくらい。けれど、山に隣接する形で作ってるから洞窟に半分食い込んでるのよね」
「大当たりだな」
ギルヴィアの言葉に、エリオードも頷く。ミネグブが「そうなの?」とギルヴィアに問いかけると彼女は頷いた。
「洞窟とかそういう自然の空間っていうのは、召喚にはうってつけなんだよ。もしくは完全屋外。人工建築物内は何故だか亡霊が好かん。だからエヴァイアンの教会は、洞窟という洞窟全部封鎖か改装して回ってる」
「そんな事するから金欠になるんじゃないの、教会」
「しかしタロニ凄いな、洞窟に食い込んで家を造るなんて違法建築だろそれ。教会突っ込んでも立件出来る」
「まあ金に汚い家だから着服なんていくらでも出来るのよね、私からすればもうあんな家どうなってくれてもいいんだけど」
一周まわって和気藹々と会話する二人に、エリオードは「ともかく」と声を掛ける。
「ミネグブ、道案内を頼む。急ぐぞ」
ジェリアの口から小さく漏れた声は、反響した。その波紋が、鼓膜から耳の奥まで届く。それは確実に脳を揺さぶった。
そっと、目を開ける。暗い。何も見えない。目を閉じているのと、変わりがなかった。
「っつ、」
後頭部、そして背中にひりつく痛み。それでようやく、状況を思い出した。
ここは、あの小屋ではない。明らかに連れ去られている。
「ギルヴィア……クロイア……」
喉が、擦れる。それでも。
「エリオード……!」
気配は感じ取れない。自分だけなのか、それとも別の場所に居るのか。予測がつかない。
……単純に、怖い。震えた瞬間、足音がした。そして、遠くから灯りが近付いてくる。
灯りを持っていたのは、女だった。赤毛を豊かに伸ばした、気のきつそうな顔立ちの女だ。
「あら、目覚めたの」
「貴女は……」
女は忌々しげにジェリアを見下ろす。そこでようやく、自分が両腕を縛られて転がされている事に気付いた。
女の爪先が、勢いよくジェリアの腹を蹴り上げる。呻くジェリアの腹を、女は何かを呟きながら何度も強く蹴り続けた。
何故。この女は、一体。
「何してるんだ」
聴き慣れた声。口調は穏やかだが、何故か背筋が凍りつく。
女はびくり、と身を縮ませた。
「ラ……ラルネス」
ラルネスは手に持っていた燭台を、台のようなものに置いた。そして、女の顔を……勢いよく、張り飛ばす。破裂音がこだまして、耳痛すらした。
女は悔しそうに歯を食いしばりラルネスを睨みつけたが、ラルネスが彼女に何かを囁くと一気に顔色を変えた。ジェリアを一度だけ憎悪の視線で見下ろして、足音を立てながら離れていく。
女の気配が消えた頃、ラルネスが溜息を吐いた。そのまま、ジェリアの元へと跪く。
「すまない。僕もたった今ここについたばかりで……君にこんな手荒な真似をした奴らには、きちんと制裁したから。って言っても、そんな事君には興味も無いだろうね」
「ラルネス……貴方……」
「ジェリア、一旦きちんと手当てをしよう。こちらへ」
ラルネスはジェリアを抱き上げた。華奢な体だが、その力強さに彼が男であると痛感させられる。今の自分では絶対に逃げられない。
ジェリアの居た空間は、洞窟のようなものだった。しかし不自然に取り付けられた扉の向こうは、まるで住宅のような内装だった。継ぎ接ぎのような仕組みに、混乱する。ラルネスはそんなジェリアに構わず進んだ。
まるで居間のような空間を通る時、ソファとテーブルがあるのが見えた。ソファには、一人の男性が座っている。彼はラルネスを見ると、少しだけ顔を緩めた。
「何だ、目を覚ましたのか。お姫様は」
「ああ。あと、お前の部下には悪いけれど……」
「いいいい、察した。気持ちが逸っちまったんだろ、お前を怒らせると上下の歯全部消えるって学習出来たんだからいい勉強料と思わせるさ」
話が見えないまま、ラルネスは歩き始めた。彼を見上げると、いつもの微笑みのまま口を開く。
「どこまで知ったんだい」
呑気な、言葉だった。だからこそ戸惑ったが、「貴方と、ギルヴィアの事」と返す。ラルネスはとくに驚いた様子もなく、頷いた。
「なら、もう分かってるだろう。僕がネクロマンサーと組んでいる事」
実際本人の口から聞くと、辛かった。ラルネスにしがみ付くように彼の服を握っても、ラルネスは続ける。
「教会を潰せる可能性のある存在なら、正直誰でもよかったんだ。機会に恵まれただけだったんだよ、僕は」
「……なんで……」
「知ってるんだろう、僕はあの女を」
「違うわ」
ラルネスの足が止まる。ジェリアは涙腺が痛む中で、ラルネスを見上げた。視界が涙で揺らぐ。
「何で……私に、何も話してくれなかったの……」
ラルネスは流石に面食らったのか、微笑みを消してしまっていた。泣きそうな顔のまま、「ごめん」と呟き歩きだす。
「でも、もう変えられないよ。ここまで来たんだ」
「ラルネス……!」
「僕は僕なりの力で、やり方で、アーネハイトを護る。教会の……ジルガニッレの好きになんて、させてたまるものか」
……そうか。やはり、それが一番大きく絡んでいたのか。
「私が……エリオードを、愛してしまったから……」
ジェリアの言葉に、ラルネスは首を振る。
「それだけじゃない。けれど、確かにそれも大きい。だから気持ちが逸ったのはあるかな」
「私の、せいなのね」
「違うっ!」
大きな声だった。びくり、と身を縮ませたジェリアに「すまない」と取り繕うラルネスは、もう笑顔でいる事をやめていた。
「ジェリアは悪くないんだよ、本当だ。誑かしたあの男が悪いんだ」
もう、その怒りに囚われきってしまっているのか。彼は、根本から歪んでしまっていたのか。
「本当は、いち早く始末したかった。あんな約束を反故にしてでも」
「約束……」
「フォニカからの手紙を読んだんだろう」
ハッとする。まさか、さっきの女か。
扉がひとつ、開かれた。奥にはベッドがあり、瓶の入った棚がいくつも置かれている。医務室か何かだろうか。ラルネスはジェリアを椅子に座らせ、背もたれにその身を安定させた。手の後ろの縄は、未だ解かれない。
ジェリアの頭の様子を見ながら、ラルネスは続ける。
「悪いけど、流石に彼女には全部話したよ。君とエリオードくんの事」
「な、何で……」
「単に僕の都合さ。僕まで怒られた、『自らの一族から淫売を出した』とか言われたよ。ちなみにエリオードくんから仕掛けた、っていうのは一切疑ってなかったらしい。余程自分の管理に自信があったんだろうね」
……だからこそのあの行動か。確かに納得はいった。
「でもどうも、彼女は……いや、やめておこう。この状況で言ったところでややこしくなるだけだ」
そう独りごちるラルネスをじっと見詰めながら、ジェリアは後ろ手をそっと揺らした。それを見て、ラルネスは首を振る。
「それはまだ解けない。万が一逃げられたら堪らないからね。君にはここに居てほしいんだ」
「どうして」
「ここが一番、安全だからだよ」
それはそうだろう、黒幕本人が居るのだから。
しかしフォニカからの手紙には、少なくともエリオードはあそこに残るように指示があった。どういう事なのか。ジェリアの思考を読んだのか、ラルネスは微笑んだ。余裕を取り戻してきたらしい。
「ああ、フォニカは騙しやすい女だからね。今回もうまく乗ってくれたよ」
「え……」
「まあ安全だよ。『僕の差し向けた刺客に勝つ事が出来れば』だけどね」
傷とはまた違う頭痛が起こってきた。しかしどうにも出来ない。
今すぐの脱出は少なくとも不可。あちら方に関しては、エリオード達を信じるしかない。自分に何かできるわけでもないのに、不安でしかなかった。
それでも……信じると、決めたのだ。
「うおー用意周到」
馬車の中から外を覗き込みながら、ギルヴィアは呆れ気味につぶやいた。エリオードは最早溜息しかつけなくなっている。
鳩を追い到着した場所は、恐らく建物だったのだろう。完全に、焼失していた。鳩も戸惑っているかのように上空をくるくる飛んでいる。クロイアが窓から手を伸ばすと、大人しくクロイアの手に停まった。
「さーて八方塞がり。どうするか」
「……いや、そうだ。もし隠れ家がフォニカの手引きで……タロニの管轄だとしたら」
エリオードはクロイアを見た。クロイアも察したのか、頷く。
クロイアはぎゅっと、目を閉じた。そして、開く。ミネグブの目だった。
「あらあら、お久し振りね。あら、あの女の子は?」
「あいつのために聞きたい事があるんだ、あんたに」
エリオードの雰囲気からして只事ではないと察したのか、ミネグブは黙った。
「タロニが持ってる隠し別荘、記憶にないか。とくに、今勝手に使っても足がつかないようなところだ。あんたの知ってるところ、全部教えてくれ」
ミネグブはすぐさま「いくつもあるわよ」と答える。周りをきょろきょろ見回す動作をする彼女を見て、「西部寄りの南部にいる」とギルヴィアが声を掛ける。それを聞き、ミネグブは首を捻った。
「そうね。ここから一番近いところなら南部の中に二つあるわ。一つは大きな屋敷で、でも使用人が絶対在中してるからこっそり使うのは難しいわ」
「もう一つは」
「……待って、そこは確かハロイナードお姉様が正規で買ったんだったわ。駄目、絶対使えない」
「ああ、あのブスね。南部以外である?」
ミネグブはさらに頭を使っているのか、唸る。そして思いついたのか、頷いた。
「なら、西部に入っちゃうけれど一つあるわね。私が西部に昔お見合いに来た時見付けた」
「見付けた、ってそもそも知らなかったのか」
「ええ、かなり老朽化してるから放置されてたのよね。場所が場所だから買い手もつかなかったはず。今は分からないけれど」
「そんな辺鄙なところにあるのか」
エリオードが地図を広げながら問う。ミネグブは首を振った。
「いいえ、位置で言えば行きやすいくらい。けれど、山に隣接する形で作ってるから洞窟に半分食い込んでるのよね」
「大当たりだな」
ギルヴィアの言葉に、エリオードも頷く。ミネグブが「そうなの?」とギルヴィアに問いかけると彼女は頷いた。
「洞窟とかそういう自然の空間っていうのは、召喚にはうってつけなんだよ。もしくは完全屋外。人工建築物内は何故だか亡霊が好かん。だからエヴァイアンの教会は、洞窟という洞窟全部封鎖か改装して回ってる」
「そんな事するから金欠になるんじゃないの、教会」
「しかしタロニ凄いな、洞窟に食い込んで家を造るなんて違法建築だろそれ。教会突っ込んでも立件出来る」
「まあ金に汚い家だから着服なんていくらでも出来るのよね、私からすればもうあんな家どうなってくれてもいいんだけど」
一周まわって和気藹々と会話する二人に、エリオードは「ともかく」と声を掛ける。
「ミネグブ、道案内を頼む。急ぐぞ」
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