【R18】どうせなら、君を花嫁にしたかった。

湖霧どどめ

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35.気持ちだけは裏腹に進んでいく。

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 ミネグブの部屋に入りドアを閉めると、ラルネスはベッドを顎でさした。ジェリアは恐る恐る従う。ベッドに腰掛けると、ラルネスも隣に来た。
 ふと、彼の手を見る。震えていた。

「……何でこうなるんだろう」

 ぼそり、と彼は呟いた。

「僕は当主として、頑張っているつもりだったんだ。でも、それが……仇になった。僕がここに残っていれば、少なくとも……状況は、少しでも……ましだったんじゃ、ないかって」

 微笑んではいる。しかしもう、泣きそうだった。
 ジェリアは彼の手をそっと握る。冷たかった。ラルネスはそっと、顔をジェリアに向けた。ジェリアは、何も言えなかった。ラルネスはそんなジェリアに「すまない」と呟く。

「……君にとっても、伯父と伯母だ。悲しいのは同じなのに」
「あなたこそよ」

 きっと、この数日大変だったはずだ。葬儀の手配やら何やらまで、全部彼ひとりで行っていた。その疲労もあるだろうに……この後、更に埋葬まで彼が行う事になっている。自身の両親を土に還すという所行を、行わなければならないのだ。
 ラルネスの体が、もたれかかってきた。そっと、抱き留める。

「大丈夫、私がいるわ」

 ……かつて、彼が自分にしてくれたように。その言葉を、囁く。すると、ラルネスの頷く気配があった。そしてそのまま。

「ありがとう」

 どさり、と。柔らかな音を立て、ジェリアはベッドに押し倒された。それも、ラルネスに密着されたまま。彼の体重が、しっかりと伝わってくる。
 声をかけようとしたら、彼は泣いていた。微笑みながら。

「……僕を、助けてほしい。頼む、ジェリア」

 その声はあまりにも悲痛で、頷かざるをえなかった。しかしすぐに、意味を察する。
 ジェリアはそっと、ラルネスを押しのけようとした。しかし彼は、離してくれない。まずい、これは。

「ジェリア」

 顎を指で固定される。そのまま、唇が重なった。

「……っ!」

 エリオードのものよりも、少しだけ厚い。そしてその分、柔らかい。柔らかい舌の圧を感じて、戸惑いながらも僅かに隙間を開いた。ぬるり、と入り込んでくる。

「あ、ふ、ぅん……っ」

 漏れ出す声を掬い取るように、優しく舌で口内を掘ってくる。エリオードの激しい口づけとは全然違った。
 やっと、離れる。ラルネスはまだ泣きそうな目でジェリアを見ていた。そして。

「……ラルネス、駄目っ」

 ジェリアの上擦った制止を聴く事なく、ラルネスはジェリアの耳に触れた。もう片方の手で、尻を撫でさすってくる。その手つきは、とても手慣れているようだった。しかし、震えている。

「すまない、ジェリア」

 その声は、あまりにも悲痛だった。そんな恩人を……ジェリアは、拒みきれなかった。
 四つん這いにさせられる。そのまま、スカートに手を入れられた。太股に触れる事なくスムーズに、彼の手は下着にかけられる。そして、下ろされた。
 息を呑むジェリアの割れ目を、そっと指でなぞられる。唐突なのと……エリオードのような前戯が無いせいで、乾いていた。ラルネスは人差し指を舐めて唾液を付着させると、改めてジェリアの割れ目に触れた。

「んんっ……」

 快感ではなく、異物感だった。エリオードの時のような、身を焼かれそうになるような熱は存在しない。
 ラルネスは局部を露出させると、ジェリアの尻肉を開きそのままあてがった。みしり、と乾いた音が鳴りそうな程の摩擦だった。

「ひぎっ……」

 破瓜の時と同じ。体勢も、やり方も。ラルネスは変わっていなかった。
 唾液でどうにか滑りを得た肉棒が、少しずつ侵入してくる。その異変を察知したのか、子宮の奥が急に潤いだした。もう遅いのに。

「っく、う、うっ……」

 ラルネスの低い呻きが響く。それに合わせて、膣の内部へと突進してくる。
 ……苦痛だった。エリオードのような甘さも、胸の奥の熱も、何もない。ただの接合でしかない。それでもジェリアは、こんな苦しげなラルネスを拒めない。

「っ、はあ、あっ……ジェリア、すまない……っ」

 謝りながらも、ラルネスは腰の動きを止める事はない。ジェリアはただ、早く終わる事を祈っていた。
 快感は一切無い。擦れる痛みと違和感、そして……エリオードへの、罪悪感。涙が、ぼたぼたとこぼれ落ちる。ラルネスには見えていないはずだった。
 エリオードがもし、実際妻を抱いているのならば……この気持ちを、彼も味わっていたのだろうか。

「っ、出すよ」

 頷く。ラルネスは歯を食いしばると、最後に強く一度突き込んだ。そのまま、ジェリアの中に体液を放出する。
 その中には、精子は一匹もいない。それは、アーネハイトでは周知の事実だった。だから、拒まなかった。しかし、エリオードの時のように……望みも、しなかった。

「っは、はっ……」

 ずるり、と萎えた肉棒が引きずりだされる。ぼたぼたと透明な液がシーツへと垂れ落ちていった。
 ラルネスは側に置いていた布で始末をつけると、ジェリアを抱きしめた。

「……ありがとう、ジェリア」

 頷く。すると、また力が強まった。
 ラルネスはジェリアをそっと離すと、服を着始めた。その目は、暗い。それが気になって、ジェリアは声をかけた。

「楽になれた?」

 その言葉に、「かなり」とラルネスは力無く微笑んだ。

「もう君を使う気はなかったのに……相当僕は追い込まれていたらしい。本当に、すまない」
「仕方ないわ」

 ラルネスはジェリアの頭をそっと撫でた。小さく「そろそろ行こう」と呟き、ジェリアの下着を手渡してくる。受け取りながら、ジェリアは胸に落ちてきた重い影に泣きそうになっていた。
 ……エリオードがもし、これを知ったら。ラルネスから贈り物をもらっただけでも激昂するような男なのに。絶対に知られるわけにはいかない。
 そして、何より。エリオード以外の男に抱かれてこんなに苦痛を味わう事になるとは、思っていなかった。ただ何より、辛い。




 葬儀は滞りなく進んでいった。死者を悼むための歌を歌い、しっかりと閉じられた棺に一度ずつ触れる。手のひらの熱で、愛を伝えていく。
 ジェリアも触れた。ジェリアが生まれた時、伯父夫婦はとても喜んでくれたそうだ。アーネハイトは男が多い、我が一族の姫君だ……と。

「っ、ううっ……」

 泣きじゃくるジェリアの手を、クロイアがずっと握っていた。彼はアーネハイト当主夫妻と面識が無いため戸惑っているようだったが、それでもそっと棺に手を触れていた。
 参列者は多い。百名はくだらないだろう。エヴァイアン各地に点在するアーネハイトの一族が全員揃っていたが、他にもあちこちの教会関係者や近隣の者が集まっているようだった。

「ジェリアさん……」

 参列席に座ってうなだれていると、クロイアがジェリアの腕をつついてきた。彼の気まずそうな視線を追うと、そこにはエリオードがいた。彼はこちらを見ていて、小さく手を振っていた。周囲に見つからないように、ジェリアも返す。そうだ、彼も教会関係者だ。葬儀の準備役でもしていたか。
 クロイアがちらちらと交互に見てくる。エリオードはかつてジェリアを騙した事がアーネハイト家にバレている以上、今この場でジェリア達に堂々と近づけないはずだ。しかも、クロイアの父という事も内密事項でそれはクロイアも理解している。

「いってらっしゃい」

 クロイアにそっと耳打ちする。クロイアは気まずそうに、ジェリアを見上げた。

「でも」
「私は、大丈夫だから」

 クロイアは小さく頷くと、音を立てないように立ち上がった。駆けていくクロイアの背と、その先にいるエリオードを見つめながら……泣きそうになる。
 今、エリオードに顔を合わせるのが怖い。ラルネスに放出された体液が、再び子宮の中でごぽりと鳴った。
 今となっては、どうすればよかったのか本当に分からない。その場ではラルネスを救いたい一心で体を貸した。しかし今となっては、エリオードを見るだけで胸がぎりぎりと締め付けられる。
 ……本当に、取り返しのつかないところまできている。
 顔を覆いそうになったが、自分に近づいてくる音の存在に気付いた。まるで、滑車が回るかのような。この場では似つかわしくない音に顔をあげると「ここ」と女の声が聞こえた。
 席から少し離れた位置に、その女はいた。車椅子に乗った、妙に貫禄のある少女だった。いや、小柄なだけでもしかすると大人なのかもしれない。彼女はまっすぐに、その赤い目でジェリアを見ていた。恐る恐る立ち上がって、近づいてみる。女はまじまじとジェリアを見上げていた。

「ふうん。いい趣味してる」
「……ど、どういう」

 戸惑うジェリアに「こっちの話」と女は返した。まるで口笛を吹くかのような呑気さで、混乱してしまいそうになる。

「私はギルヴィア・ジルガニッレ。クロイアが世話になってるね、あとうちの愚弟も」

 その名を聴き、はっとした。そうだ、顔立ちがとてもエリオードに似ている。そしてその名も、よく知っている。ラルネスのかつての見合い相手で……かつ、エリオードの姉だ。
 戸惑うジェリアに、ギルヴィアは口を開いた。

「単刀直入に言うけど、クロイアは一旦返してもらうよ」
「え?」

 突然の申し出に、露骨に眉が歪む。

「事が終われば、またそっちに戻ってもらう。何、ちょっとした急用でね」
「そ、それは……クロイアは知ってるんですか」
「今エリオードが伝えているところ。まあ、あいつも家の事情だから断れないさ」

 どこか緊迫した言い方で、ジェリアまで緊張してしまう。そのせいで、反射的に言ってしまった。

「……どういう事なのか説明してください」

 ギルヴィアは一瞬きょとん、としたがすぐに小さく笑いを漏らした。

「なになに、あんたエリオードよりクロイアの方に首っ丈? まああいつ可愛いしね、あー可哀想な我が弟」

 この言いぶりだと、ジェリアとエリオードの関係は知られているのだろいうか。余計に混乱してきた。
 ギルヴィアは車椅子の車輪に手をかけた。

「ついておいで。あんたの家に見つかるとまずいっていうのは、あいつから聴いてる」

 ……やはり、ひとけの無いところでという事か。
 葬儀はもう終わった。あとは各々故人を悼むだけだ。ジェリアは泣きすぎて疲れ切った頭をゆっくりと回転させる。そうだ、外の風を吸いたいという名目で抜け出せばいい。
 頷いたジェリアは、車椅子を走らせ始めたギルヴィアに続いた。
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