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33.泥棒扱い、してやろうか?
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二人はすぐさま動いた。大広間と同じ階だ、気取られるわけにはいかない。
シャイネが先に進む。彼は音を一切立てない。かつて彼は特殊な訓練を積んだ傭兵集団……レヂェマシュトルの一員だという事を、エリオードは知っていた。
かつてミネグブが寝室として使っていた部屋に到着した。シャイネは注意深く周囲を見渡す。そして、頷いた。手袋をつけ、そっとノブを回す。開いた扉の隙間の空気が流れ込んできた途端、シャイネは露骨に顔を歪めた。
「どうした」
念のため小声で問う。シャイネは「当たりです」と呟いた。
「……匂いがします。女と男の。それも新しい」
鼻を動かしても、エリオードには嗅ぎとれなかった。シャイネはレヂェマシュトルとしての修行を経ているので、あらゆる身体能力が人間離れしているとラチカに聞いた事がある。
音を立てないよう、より広く開く。そして、すぐさま中へと踏み込んだ。
女性らしい好みが反映されたような家具がそろえられている。そしてベッドは、若干乱れていた。エリオードはベッドへと歩み寄る。そして目を凝らした。
「……濡れてる?」
ベッドには、シミがあった。液体をまき散らした上で、少しずつ乾き始めているように見えた。
シャイネが近づいてくる。そして、鼻を動かした。指で額を押さえる仕草を見せる彼に「大丈夫か」と声をかけると、彼は頷いた。
「申し訳ありません。その、この手の匂いには……慣れていないものでして」
「じゃあ、これってやっぱり」
「恐らく間違いありません」
どんな精神構造だ、と突っ込みたくなる。つい数時間程前に、両親が殺されたばかりだというのに。他人事のはずなのに、嫌悪感がのぼってきた。
時間を遡っても、恐らくこれはフォニカのものではない。フォニカは家にいた。どこか安心してしまうが、それも一瞬で立ち消えた。
ラルネスが不埒な真似をよくする、という噂は有名だった。だからこそ、女が複数いるというのは大いにあり得る。
シャイネは出来うる限り周辺のものを触らないようにしながら、周りを見渡している。
「とくに、際だって怪しいところはありませんね。しかしまた、何故出ていかれた奥様の部屋をそのままにしているのでしょうか」
そもそも、そこだ。仮にも元妻の部屋を改装もせずに睦み事に使うとは。相手の女の神経も知れない。本当に体だけなのか、それとも……惚れた弱みなのか。
……もしフォニカが出ていって、その部屋をジェリアが使う事になれば。痕跡など一切残らない程に綺麗にしてやるのに。
「掃除は一切されていませんね。よく見れば、シーツも……替えている気配がない」
シャイネはまるで汚いものを見るかのようにベッドを見つめた。そして、ある事に気付く。
「ジルガニッレ様、その枕をどけて頂けますか」
彼の指の先には、確かに大きな枕があった。エリオードは手をのばすまでもなく触れると、首を振った。
「ベッドというかシーツにに固定されているタイプのものだ、外れない」
「でしたら、下に手を潜らせてください。何かが仕込まれているような膨らみがあります」
言われるがままに、横から手を潜らせる。柔らかな枕で、固定されているのは上部と下部のみだった。
すぐ、気付いた。シャイネを見ると、頷く。す、と腕を引いた。掴まれていたのは、一冊のノートだった。それをまじまじと見つめるエリオードへとシャイネが手を伸ばそうとするが、エリオードはそれを制した。首を傾げるシャイネに、エリオードはノートを振って見せる。
「……気配がする」
「気配、ですか」
「そうか、お前は見えないんだな」
その言葉にシャイネは「亡霊ですか」と呟く。エリオードは頷いた。
ノートから感じる、怖気。皮膚がぴりぴりとする。これは、エクソシストなど見える者にしか分からないだろう。
「でも、反応がすごく弱い。ネクロマンサーに召喚されると、ほぼ確実に亡霊として形を成すものだが……これは、自然発生だな。余程の未練があるか」
「とりあえずかなりの曰く付き、というわけですね」
「恐らくな。ちょっとこれ、拝借していくか」
シーツもろくに替えないような奴だ、恐らく抜き取られても気付く事はないだろう。そもそもこのノートの存在自体知らないかもしれない。
エリオードは持ち込んだ鞄にノートを詰めた。
「大事を取って、中身はうちで開ける」
「かしこまりました。しかしジルガニッレ様、そろそろ時間が」
「ああ、悪かった付き合わせて」
結局フォニカとの繋がりは一切見えなかった。しかし、これは恐らく別件にしてもなかなかの代物だろう。持っておいて損はない。
シャイネが先に、部屋を出る。エリオードも続こうとしたが、その際足に何か引っかかったのを感じた。見下ろし、そして拾う。一気に吐き気がのぼった。
「ジルガニッレ様、それは」
振り返るシャイネに見せつける。
それは、青いガーターだった。嫁入り道具として……フォニカが、持ち込んできたものだ。名前の刺繍も確認出来た。
「最後の最後で、うまいこといくもんだ」
もはや笑いすらこみ上げてきた。シャイネもどこか、表情を柔くする。同情なのかユーモアなのかは、さすがに察しきれなかった。
二人で本来教会として調べるはずだった部屋を、一旦調べて回った。そして、証拠は一切出てこなかった。
「では、行きましょう」
最後の部屋を確認し終えると、シャイネが足早に先を行った。早くラチカに合流したいのだろう。
広間の扉が開かれる。二人の配置は、広間を出たときと変わらなかった。
「お嬢様」
ラチカはこちらを振り向いた。すると手を振ってくる。異変は何も感じられない。
「お疲れさま。もう少し待ってて」
「はい、チェックメイト」
「もう大丈夫ー」
よく見るとテーブルにはチェス盤が置かれていた。ラチカは立ち上がると、ラルネスにお辞儀をした。
「情報、ありがとうございました。犯人の捕縛に、私たちも尽力させて頂きます」
ラチカの恭しい言葉に、ラルネスはソファに座ったまま微笑む。
「ありがとう、レディ。またお会い出来るのを楽しみにしているよ」
ちらり、と扉に控えているエリオードを見てきた。言葉を交わす気は起こらなかった。
扉を閉める。するとラチカはシャイネを呼んだ。
「もう時間だね、全員呼んで馬車の用意してて」
「かしこまりました」
シャイネが歩き出す。彼の背が見えなくなった頃合いに、ラチカはエリオードに「どうだった」と声をかける。エリオードはため息混じりに口を開いた。
「クロだ、証拠品も見つけた」
「わあ」
「それと、これ」
鞄から、ノートを取り出す。ラチカの眉がひそめられた。
「……何か、いるね」
「だろ。うちで開ける、ちょっと気になる事があるんだ」
「教会にばれたくないってこと?」
小さく、頷く。
「ばれたくないというよりは、引っかかる事がある。俺の個人的な理由なんだが……師匠からの叱責は覚悟しておくさ」
「はいはい、じゃあ私は何も聞かなかった事にしておくね」
「助かる。お前こそ、どうだった」
エリオードの言葉に、ラチカは露骨に顔を歪めた。そこで何となく、ラチカがシャイネを先に行かせた理由を察した。
「まさか」
「……本当あの人、頭おかしいんじゃないかな」
周囲を見渡す。シャイネはいない。
「皆と分かれて二人きりになって、最初は本当にちゃんと情報収集してた。内容はまた後で教会に提出する」
「それで」
「……部屋に、誘われた。どうせまだ時間がかかるだろうって」
部屋。それは即ち……そういう事だ。
「あの人ちょっと不謹慎過ぎる。両親が殺されてるんだよ、だって。そんな状況で……もしかして、そういう逃避なのかな」
「それにしてもおかしいだろうよ」
吐き捨てる。
つまりあの時、下手をすればラルネスとはち合わせる可能性があったという事か。内心ひやりとした。
「そんなのバレたらシャイネと旦那に殺されるから、って逃げたけど。そしたら、一気に情報をくれなくなった。チェスで時間を潰してはくれたけど」
「……そうか。すまん、怖い思いをさせて」
本来は、シャイネが常にラチカの元についているはずなのだ。それなのに今回は、エリオードの私情のためにシャイネを借りてしまった。彼が傍にいれば、さすがにラルネスも誘いをかけなかっただろうに。ある意味、シャイネの勘は当たっていたというわけだ。しかし、隣国とはいえ現在国主夫人たるラチカを誘うとは大した度胸だ。
ラチカは首を振る。顔はいつもの明るい調子に戻っていた。
「でも、証拠見つかったならよかったじゃん。どうするの、これから」
「ちょっと教会関連の事が山積みだからな、片づけてからだ」
そうだ、これで。これで、エリオードは優位に立てる。うまくいけばフォニカと離縁に持ち込めるし、そうすれば、ジェリアと。
二人して馬車へと向かう。シャイネはもう準備を完了させていた。今日は一旦解散になるので、それぞれの家にシャイネが送る事になっている。
エリオード以外のエクソシストを送り届け、ジルガニッレ邸へ到着した。
「じゃあ、私たちは一旦このままロドハルトに戻るね」
「分かった。色々助かった、ありがとうな」
ラチカにそう告げる。シャイネの方にも声をとばすと、彼も聞こえたのか頷いた。
馬車がジルガニッレの敷地から過ぎ去っていく。エリオードはわずかにため息を吐いた。緊張が走る。
自邸よりも先に、姉のいる本邸へ向かう。使用人の挨拶も程々に、まっすぐ書斎へ向かった。一応礼儀のノックをし、返事もせず中に入る。ギルヴィアは「早いな」と呟いた。
「何か面白いものはあった?」
「盛り沢山だ」
エリオードは鞄からノートを取り出し、ギルヴィアに手渡した。ギルヴィアは訝しげにノートを睨む。
「これは」
「形成召喚、やっていいか」
ギルヴィアは一瞬悩んだ素振りを見せたが、うなずいた。
シャイネが先に進む。彼は音を一切立てない。かつて彼は特殊な訓練を積んだ傭兵集団……レヂェマシュトルの一員だという事を、エリオードは知っていた。
かつてミネグブが寝室として使っていた部屋に到着した。シャイネは注意深く周囲を見渡す。そして、頷いた。手袋をつけ、そっとノブを回す。開いた扉の隙間の空気が流れ込んできた途端、シャイネは露骨に顔を歪めた。
「どうした」
念のため小声で問う。シャイネは「当たりです」と呟いた。
「……匂いがします。女と男の。それも新しい」
鼻を動かしても、エリオードには嗅ぎとれなかった。シャイネはレヂェマシュトルとしての修行を経ているので、あらゆる身体能力が人間離れしているとラチカに聞いた事がある。
音を立てないよう、より広く開く。そして、すぐさま中へと踏み込んだ。
女性らしい好みが反映されたような家具がそろえられている。そしてベッドは、若干乱れていた。エリオードはベッドへと歩み寄る。そして目を凝らした。
「……濡れてる?」
ベッドには、シミがあった。液体をまき散らした上で、少しずつ乾き始めているように見えた。
シャイネが近づいてくる。そして、鼻を動かした。指で額を押さえる仕草を見せる彼に「大丈夫か」と声をかけると、彼は頷いた。
「申し訳ありません。その、この手の匂いには……慣れていないものでして」
「じゃあ、これってやっぱり」
「恐らく間違いありません」
どんな精神構造だ、と突っ込みたくなる。つい数時間程前に、両親が殺されたばかりだというのに。他人事のはずなのに、嫌悪感がのぼってきた。
時間を遡っても、恐らくこれはフォニカのものではない。フォニカは家にいた。どこか安心してしまうが、それも一瞬で立ち消えた。
ラルネスが不埒な真似をよくする、という噂は有名だった。だからこそ、女が複数いるというのは大いにあり得る。
シャイネは出来うる限り周辺のものを触らないようにしながら、周りを見渡している。
「とくに、際だって怪しいところはありませんね。しかしまた、何故出ていかれた奥様の部屋をそのままにしているのでしょうか」
そもそも、そこだ。仮にも元妻の部屋を改装もせずに睦み事に使うとは。相手の女の神経も知れない。本当に体だけなのか、それとも……惚れた弱みなのか。
……もしフォニカが出ていって、その部屋をジェリアが使う事になれば。痕跡など一切残らない程に綺麗にしてやるのに。
「掃除は一切されていませんね。よく見れば、シーツも……替えている気配がない」
シャイネはまるで汚いものを見るかのようにベッドを見つめた。そして、ある事に気付く。
「ジルガニッレ様、その枕をどけて頂けますか」
彼の指の先には、確かに大きな枕があった。エリオードは手をのばすまでもなく触れると、首を振った。
「ベッドというかシーツにに固定されているタイプのものだ、外れない」
「でしたら、下に手を潜らせてください。何かが仕込まれているような膨らみがあります」
言われるがままに、横から手を潜らせる。柔らかな枕で、固定されているのは上部と下部のみだった。
すぐ、気付いた。シャイネを見ると、頷く。す、と腕を引いた。掴まれていたのは、一冊のノートだった。それをまじまじと見つめるエリオードへとシャイネが手を伸ばそうとするが、エリオードはそれを制した。首を傾げるシャイネに、エリオードはノートを振って見せる。
「……気配がする」
「気配、ですか」
「そうか、お前は見えないんだな」
その言葉にシャイネは「亡霊ですか」と呟く。エリオードは頷いた。
ノートから感じる、怖気。皮膚がぴりぴりとする。これは、エクソシストなど見える者にしか分からないだろう。
「でも、反応がすごく弱い。ネクロマンサーに召喚されると、ほぼ確実に亡霊として形を成すものだが……これは、自然発生だな。余程の未練があるか」
「とりあえずかなりの曰く付き、というわけですね」
「恐らくな。ちょっとこれ、拝借していくか」
シーツもろくに替えないような奴だ、恐らく抜き取られても気付く事はないだろう。そもそもこのノートの存在自体知らないかもしれない。
エリオードは持ち込んだ鞄にノートを詰めた。
「大事を取って、中身はうちで開ける」
「かしこまりました。しかしジルガニッレ様、そろそろ時間が」
「ああ、悪かった付き合わせて」
結局フォニカとの繋がりは一切見えなかった。しかし、これは恐らく別件にしてもなかなかの代物だろう。持っておいて損はない。
シャイネが先に、部屋を出る。エリオードも続こうとしたが、その際足に何か引っかかったのを感じた。見下ろし、そして拾う。一気に吐き気がのぼった。
「ジルガニッレ様、それは」
振り返るシャイネに見せつける。
それは、青いガーターだった。嫁入り道具として……フォニカが、持ち込んできたものだ。名前の刺繍も確認出来た。
「最後の最後で、うまいこといくもんだ」
もはや笑いすらこみ上げてきた。シャイネもどこか、表情を柔くする。同情なのかユーモアなのかは、さすがに察しきれなかった。
二人で本来教会として調べるはずだった部屋を、一旦調べて回った。そして、証拠は一切出てこなかった。
「では、行きましょう」
最後の部屋を確認し終えると、シャイネが足早に先を行った。早くラチカに合流したいのだろう。
広間の扉が開かれる。二人の配置は、広間を出たときと変わらなかった。
「お嬢様」
ラチカはこちらを振り向いた。すると手を振ってくる。異変は何も感じられない。
「お疲れさま。もう少し待ってて」
「はい、チェックメイト」
「もう大丈夫ー」
よく見るとテーブルにはチェス盤が置かれていた。ラチカは立ち上がると、ラルネスにお辞儀をした。
「情報、ありがとうございました。犯人の捕縛に、私たちも尽力させて頂きます」
ラチカの恭しい言葉に、ラルネスはソファに座ったまま微笑む。
「ありがとう、レディ。またお会い出来るのを楽しみにしているよ」
ちらり、と扉に控えているエリオードを見てきた。言葉を交わす気は起こらなかった。
扉を閉める。するとラチカはシャイネを呼んだ。
「もう時間だね、全員呼んで馬車の用意してて」
「かしこまりました」
シャイネが歩き出す。彼の背が見えなくなった頃合いに、ラチカはエリオードに「どうだった」と声をかける。エリオードはため息混じりに口を開いた。
「クロだ、証拠品も見つけた」
「わあ」
「それと、これ」
鞄から、ノートを取り出す。ラチカの眉がひそめられた。
「……何か、いるね」
「だろ。うちで開ける、ちょっと気になる事があるんだ」
「教会にばれたくないってこと?」
小さく、頷く。
「ばれたくないというよりは、引っかかる事がある。俺の個人的な理由なんだが……師匠からの叱責は覚悟しておくさ」
「はいはい、じゃあ私は何も聞かなかった事にしておくね」
「助かる。お前こそ、どうだった」
エリオードの言葉に、ラチカは露骨に顔を歪めた。そこで何となく、ラチカがシャイネを先に行かせた理由を察した。
「まさか」
「……本当あの人、頭おかしいんじゃないかな」
周囲を見渡す。シャイネはいない。
「皆と分かれて二人きりになって、最初は本当にちゃんと情報収集してた。内容はまた後で教会に提出する」
「それで」
「……部屋に、誘われた。どうせまだ時間がかかるだろうって」
部屋。それは即ち……そういう事だ。
「あの人ちょっと不謹慎過ぎる。両親が殺されてるんだよ、だって。そんな状況で……もしかして、そういう逃避なのかな」
「それにしてもおかしいだろうよ」
吐き捨てる。
つまりあの時、下手をすればラルネスとはち合わせる可能性があったという事か。内心ひやりとした。
「そんなのバレたらシャイネと旦那に殺されるから、って逃げたけど。そしたら、一気に情報をくれなくなった。チェスで時間を潰してはくれたけど」
「……そうか。すまん、怖い思いをさせて」
本来は、シャイネが常にラチカの元についているはずなのだ。それなのに今回は、エリオードの私情のためにシャイネを借りてしまった。彼が傍にいれば、さすがにラルネスも誘いをかけなかっただろうに。ある意味、シャイネの勘は当たっていたというわけだ。しかし、隣国とはいえ現在国主夫人たるラチカを誘うとは大した度胸だ。
ラチカは首を振る。顔はいつもの明るい調子に戻っていた。
「でも、証拠見つかったならよかったじゃん。どうするの、これから」
「ちょっと教会関連の事が山積みだからな、片づけてからだ」
そうだ、これで。これで、エリオードは優位に立てる。うまくいけばフォニカと離縁に持ち込めるし、そうすれば、ジェリアと。
二人して馬車へと向かう。シャイネはもう準備を完了させていた。今日は一旦解散になるので、それぞれの家にシャイネが送る事になっている。
エリオード以外のエクソシストを送り届け、ジルガニッレ邸へ到着した。
「じゃあ、私たちは一旦このままロドハルトに戻るね」
「分かった。色々助かった、ありがとうな」
ラチカにそう告げる。シャイネの方にも声をとばすと、彼も聞こえたのか頷いた。
馬車がジルガニッレの敷地から過ぎ去っていく。エリオードはわずかにため息を吐いた。緊張が走る。
自邸よりも先に、姉のいる本邸へ向かう。使用人の挨拶も程々に、まっすぐ書斎へ向かった。一応礼儀のノックをし、返事もせず中に入る。ギルヴィアは「早いな」と呟いた。
「何か面白いものはあった?」
「盛り沢山だ」
エリオードは鞄からノートを取り出し、ギルヴィアに手渡した。ギルヴィアは訝しげにノートを睨む。
「これは」
「形成召喚、やっていいか」
ギルヴィアは一瞬悩んだ素振りを見せたが、うなずいた。
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