【R18】拾い上げたソリチュードごと、熔かしてあげる。〜秘密結社に拾われた風俗嬢〜

湖霧どどめ@シナリオライター

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68.一妻多夫ね、最高じゃん。

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 それから1年後。

「燈、そっちできた?」
「あと少しです」
「ん、ありがとう」

 燈と光希は相変わらず同じ家で過ごしている。しかし燈は、店を辞めていた。それも光希が『S』の上層部に真っ向から取引をしたのだとか湊が言っていたが……光希は詳細を語らなかった。
 かわりに今は光希の事務仕事を手伝う形で過ごしている。そして他の『四』も、何ら変わりなく過ごしている。

「ちょっと休憩しよっか」
「はい……きゃっ」

 椅子ごと、後ろから抱きすくめられる。そして、耳に口付けられた。びくり、と反応する燈に光希はくすくす笑う。

「もうあとちょっとだから、時間のゆとりはあるよ」
「あの、光希さっ……」

 光希の手が燈のあごに触れた途端、インターホンが鳴った。しかも、一度ならず何度も。
 相手を察したものの「近所迷惑だよもはや」と呟きながら、光希は渋々離れる。解放された燈は、慌てて玄関へ向かった。そして、玄関を開く。

「やっ」
「こんにちは、葉月さん」

 消えた中指と人差し指は、どうしても目に入る。それでも葉月は気持ちを暗くすることなく過ごしていた。
 奥から光希が顔を出すが、やはり不機嫌そうだった。

「……来るのあと2時間後って言ってたじゃん」
「仕事早く仕上げたんだって。そもそも今日だって『仕事まだ手伝わせたいから』って言うから待ってあげてるんだけど?本当は先に家に行っててくれてもいいのに」

 笑顔で圧をかけるようにしながら、葉月は光希にたたみかける。そんな葉月に「はいはい」とあしらうように言いながらも、光希はぷいっと顔を背けた。最近、こういった露骨な態度が多くなっている気がする。

「ほらほら燈ちゃん、準備は済んでる?早く行こうっ」
「あ、それだけどちょうどいい鴨仕入れたんだ。店で食べない?夕飯まだ決めてないなら」
「うう……そうやって俺と燈ちゃんの時間削ろうって作戦じゃないよね?」

 そう言いながらも葉月は「じゃあ今日は三人ご飯にしよっか?」と燈を見る。燈は頷いた。
 ……あれから何度も、光希と葉月は燈を共に抱いた。しかし互いが独占欲を主張した結果、月夜が「そんじゃ一妻多夫制にしたら?」と言いだしたのだ。

『一ヶ月ごととかで互いの家に住む、みたいな。せっかくだし俺も立候補しちゃおっかな……ごめんごめん嘘です!俺にはすでに俺を奪い合う内縁の妻が30人ほどいますしね!』

 結局「燈がどちらかだけを必要とするまで」ということで決定した。これはある意味、戸籍の無い燈だからこそ着地した結論ともいえる。

「あー嬉しいな、久々の燈ちゃんとの夫婦生活」
「まあ来月からはまた俺との夫婦生活に戻るけどね」
「……本当に遠慮しなくなったよね光希」
「悪い?」

 光希の言葉に「別に」と葉月は返す。そんな彼に、葉月は微笑みかけた。
 そんな二人のやりとりに気付くことなく、燈は荷物を持って葉月の待つ玄関へ向かった。

「すみません、お待たせしました」
「じゃあ行こっか。何時に店行けばいい?」
「下ごしらえとかあるからまた連絡する、早くて18時で見てて」

 光希の言葉に「楽しみにしてる」と笑って、葉月は先に出た。閉まる扉を見て、光希は息をつく。

「やっぱ気つかってくれてるんだね」
「何がですか?」
「こっちの話。燈、こっち向いて」

 光希に言われるがまま彼の顔を見ると、その瞬間に重なる。
 一瞬だけだったが、熱かった。

「行ってらっしゃい、また来月」
「……はい」

 いつも互いに対して感じる、ほんの少しの罪悪感。それでも、お互いが……切り離せないのは、事実だ。
 燈はそっと、扉を開いた。




ーーーーー拾い上げたソリチュードごと、溶かしてあげる。~秘密結社に拾われた風俗嬢~main storyーーーーーー
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みんなの感想(2件)

空き巣薔薇 亮司

Xの方から伺わせていただきました。

メインキャラが出揃い、物語が動き始めた感じがします。

裏社会のゴタゴタにこれから巻き込まれてゆく主人公と、裏社会特有の性と薬物の匂いが充満している感じが読みやすい文章で書かれていると思います。

今後、主人公がどんなことに関わり、どう変わっていくのか、その辺りがこの作品の面白さの根幹になって行くのかなぁと思います。

今後も頑張ってください。

読ませていただきありがとうございました。

解除
朽木貴士
2024.09.23 朽木貴士

Xから来ました!
とうとう始まる……! 期待が高まりますねぇ!! 裏社会の、暗号っていうかコードネームっていうか、そういうの好き(笑)
情景描写も緻密で良かったと思います!!

解除

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