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68.一妻多夫ね、最高じゃん。
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それから1年後。
「燈、そっちできた?」
「あと少しです」
「ん、ありがとう」
燈と光希は相変わらず同じ家で過ごしている。しかし燈は、店を辞めていた。それも光希が『S』の上層部に真っ向から取引をしたのだとか湊が言っていたが……光希は詳細を語らなかった。
かわりに今は光希の事務仕事を手伝う形で過ごしている。そして他の『四』も、何ら変わりなく過ごしている。
「ちょっと休憩しよっか」
「はい……きゃっ」
椅子ごと、後ろから抱きすくめられる。そして、耳に口付けられた。びくり、と反応する燈に光希はくすくす笑う。
「もうあとちょっとだから、時間のゆとりはあるよ」
「あの、光希さっ……」
光希の手が燈のあごに触れた途端、インターホンが鳴った。しかも、一度ならず何度も。
相手を察したものの「近所迷惑だよもはや」と呟きながら、光希は渋々離れる。解放された燈は、慌てて玄関へ向かった。そして、玄関を開く。
「やっ」
「こんにちは、葉月さん」
消えた中指と人差し指は、どうしても目に入る。それでも葉月は気持ちを暗くすることなく過ごしていた。
奥から光希が顔を出すが、やはり不機嫌そうだった。
「……来るのあと2時間後って言ってたじゃん」
「仕事早く仕上げたんだって。そもそも今日だって『仕事まだ手伝わせたいから』って言うから待ってあげてるんだけど?本当は先に家に行っててくれてもいいのに」
笑顔で圧をかけるようにしながら、葉月は光希にたたみかける。そんな葉月に「はいはい」とあしらうように言いながらも、光希はぷいっと顔を背けた。最近、こういった露骨な態度が多くなっている気がする。
「ほらほら燈ちゃん、準備は済んでる?早く行こうっ」
「あ、それだけどちょうどいい鴨仕入れたんだ。店で食べない?夕飯まだ決めてないなら」
「うう……そうやって俺と燈ちゃんの時間削ろうって作戦じゃないよね?」
そう言いながらも葉月は「じゃあ今日は三人ご飯にしよっか?」と燈を見る。燈は頷いた。
……あれから何度も、光希と葉月は燈を共に抱いた。しかし互いが独占欲を主張した結果、月夜が「そんじゃ一妻多夫制にしたら?」と言いだしたのだ。
『一ヶ月ごととかで互いの家に住む、みたいな。せっかくだし俺も立候補しちゃおっかな……ごめんごめん嘘です!俺にはすでに俺を奪い合う内縁の妻が30人ほどいますしね!』
結局「燈がどちらかだけを必要とするまで」ということで決定した。これはある意味、戸籍の無い燈だからこそ着地した結論ともいえる。
「あー嬉しいな、久々の燈ちゃんとの夫婦生活」
「まあ来月からはまた俺との夫婦生活に戻るけどね」
「……本当に遠慮しなくなったよね光希」
「悪い?」
光希の言葉に「別に」と葉月は返す。そんな彼に、葉月は微笑みかけた。
そんな二人のやりとりに気付くことなく、燈は荷物を持って葉月の待つ玄関へ向かった。
「すみません、お待たせしました」
「じゃあ行こっか。何時に店行けばいい?」
「下ごしらえとかあるからまた連絡する、早くて18時で見てて」
光希の言葉に「楽しみにしてる」と笑って、葉月は先に出た。閉まる扉を見て、光希は息をつく。
「やっぱ気つかってくれてるんだね」
「何がですか?」
「こっちの話。燈、こっち向いて」
光希に言われるがまま彼の顔を見ると、その瞬間に重なる。
一瞬だけだったが、熱かった。
「行ってらっしゃい、また来月」
「……はい」
いつも互いに対して感じる、ほんの少しの罪悪感。それでも、お互いが……切り離せないのは、事実だ。
燈はそっと、扉を開いた。
ーーーーー拾い上げたソリチュードごと、溶かしてあげる。~秘密結社に拾われた風俗嬢~main storyーーーーーー
「燈、そっちできた?」
「あと少しです」
「ん、ありがとう」
燈と光希は相変わらず同じ家で過ごしている。しかし燈は、店を辞めていた。それも光希が『S』の上層部に真っ向から取引をしたのだとか湊が言っていたが……光希は詳細を語らなかった。
かわりに今は光希の事務仕事を手伝う形で過ごしている。そして他の『四』も、何ら変わりなく過ごしている。
「ちょっと休憩しよっか」
「はい……きゃっ」
椅子ごと、後ろから抱きすくめられる。そして、耳に口付けられた。びくり、と反応する燈に光希はくすくす笑う。
「もうあとちょっとだから、時間のゆとりはあるよ」
「あの、光希さっ……」
光希の手が燈のあごに触れた途端、インターホンが鳴った。しかも、一度ならず何度も。
相手を察したものの「近所迷惑だよもはや」と呟きながら、光希は渋々離れる。解放された燈は、慌てて玄関へ向かった。そして、玄関を開く。
「やっ」
「こんにちは、葉月さん」
消えた中指と人差し指は、どうしても目に入る。それでも葉月は気持ちを暗くすることなく過ごしていた。
奥から光希が顔を出すが、やはり不機嫌そうだった。
「……来るのあと2時間後って言ってたじゃん」
「仕事早く仕上げたんだって。そもそも今日だって『仕事まだ手伝わせたいから』って言うから待ってあげてるんだけど?本当は先に家に行っててくれてもいいのに」
笑顔で圧をかけるようにしながら、葉月は光希にたたみかける。そんな葉月に「はいはい」とあしらうように言いながらも、光希はぷいっと顔を背けた。最近、こういった露骨な態度が多くなっている気がする。
「ほらほら燈ちゃん、準備は済んでる?早く行こうっ」
「あ、それだけどちょうどいい鴨仕入れたんだ。店で食べない?夕飯まだ決めてないなら」
「うう……そうやって俺と燈ちゃんの時間削ろうって作戦じゃないよね?」
そう言いながらも葉月は「じゃあ今日は三人ご飯にしよっか?」と燈を見る。燈は頷いた。
……あれから何度も、光希と葉月は燈を共に抱いた。しかし互いが独占欲を主張した結果、月夜が「そんじゃ一妻多夫制にしたら?」と言いだしたのだ。
『一ヶ月ごととかで互いの家に住む、みたいな。せっかくだし俺も立候補しちゃおっかな……ごめんごめん嘘です!俺にはすでに俺を奪い合う内縁の妻が30人ほどいますしね!』
結局「燈がどちらかだけを必要とするまで」ということで決定した。これはある意味、戸籍の無い燈だからこそ着地した結論ともいえる。
「あー嬉しいな、久々の燈ちゃんとの夫婦生活」
「まあ来月からはまた俺との夫婦生活に戻るけどね」
「……本当に遠慮しなくなったよね光希」
「悪い?」
光希の言葉に「別に」と葉月は返す。そんな彼に、葉月は微笑みかけた。
そんな二人のやりとりに気付くことなく、燈は荷物を持って葉月の待つ玄関へ向かった。
「すみません、お待たせしました」
「じゃあ行こっか。何時に店行けばいい?」
「下ごしらえとかあるからまた連絡する、早くて18時で見てて」
光希の言葉に「楽しみにしてる」と笑って、葉月は先に出た。閉まる扉を見て、光希は息をつく。
「やっぱ気つかってくれてるんだね」
「何がですか?」
「こっちの話。燈、こっち向いて」
光希に言われるがまま彼の顔を見ると、その瞬間に重なる。
一瞬だけだったが、熱かった。
「行ってらっしゃい、また来月」
「……はい」
いつも互いに対して感じる、ほんの少しの罪悪感。それでも、お互いが……切り離せないのは、事実だ。
燈はそっと、扉を開いた。
ーーーーー拾い上げたソリチュードごと、溶かしてあげる。~秘密結社に拾われた風俗嬢~main storyーーーーーー
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