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66.結局この日は28人タコ殴りにしたのでした。

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「増援がどこから入ってくるかにもよるよね、でも二班あるなら出入り口固めてくるか」
「迎撃しても多分キリがないぞこれ」

 光希と日向の会話は、緊張感のある内容のはずなのにもはや気の抜けたものになっていた。
 なんとか回復してきた燈は日向におろしてもらうと、「あの……」と恐る恐る口にした。

「多分、大丈夫です」
「大丈夫って、何が……」

 光希は言葉を終える前に、声のまた発せられた機器に耳を寄せた。日向もまた耳を寄せる。

『A班、ぜ、全滅!うわああああ!』

 まるで悲鳴だった。同時に聞こえる、罵声。そして、殴る音。
 やがて何も聞こえなくなった頃、『あー、テステス』とよく知った声が聞こえてきた。

『やっほ、全員無事?』
「凛!?」

 日向の声に凛もまた『凛でーす』と返してくる。

『無事って信じて簡潔に言うね。多分最初裏口1-1から入ったっしょ。そっちまでいかずにここ……1-3か、こっちから出てきて』
「凛、なんで……」
『あ、ちゃんと2000達成してきたからね。後で超褒めてよ?じゃあ待ってまーす』
『発見!一人だけだ!』
『あーうるさいなあ、全員一気に来いよ』

 また、殴り合いの音が聞こえる。日向と光希はアイコンタクトして頷くと、歩きだした。燈もそれに続く。

「何で凛が……というかそもそもタイミングが良過ぎる」

 日向の言葉に「それなんですけど」と燈が口を開く。

「金庫の中に、外との通信盤?があって。それでまず、ここの消防センターに火事が起きたって嘘を伝えたんです」
「そうか、だからあのスプリンクラーか」

 あれであのコンシェルジュの気を逸らせなければ、少なくとも光希は撃たれて終わっていただろう。燈は続ける。

「あと、あの通信盤って外に電話も出来たんです。それで湊さんに繋ぎました」
「は?それなのに俺たちスマホ没収されたのか?」
「あくまでガチで銀行側の都合で取り付けたんでしょ」

 確かスマートフォンの没収はコンシェルジュではなく、銀行入り口の共用金庫によって行われた。銀行備え付けなので無事な確率は高いだろう。

「まあまず言えるのは、あいつらは銀行じゃないね。漁夫の利を狙っただけの第三者の組織の可能性が高いか」
「そのへんも全部月夜に聞き取りさせるとして……あった、あれだ」

 日向が指さしたのは、大きく1-3と書かれた扉だった。唯一まともに両手の空いている燈が、扉を押し開く。そこに、広がっていたのは。

「お、ナイスタイミング」
「凛くん!」

 凛はいつものように涼しい顔をして、燈のかわりに扉を開いてくれた。扉の向こう、外の地面には数十人の男が意識を失って転がっていた。

「これ……凛くんが一人で?」
「ん、伊達に鍛えられてないからね」

 そう言いながら光希を見る凛に、「スジがいいから強くなったんだよ」と光希は返す。それに凛は苦笑する。

「えっとね、そんじゃ1-1側に連絡とらなきゃ」
「え、誰かきてるのか?」
「光希ー!!」
「あ、いらないっぽい」

 外から、湊が走ってくる。息切れしながら、扉の前で止まった。

「よかった……無事だったか……」
「湊、きてくれたんだね」
「当たり前だろ、お前が危ないってこのブスが言うから!って葉月大丈夫かよ!」

 光希の背におぶられた、未だ意識の無い葉月を見て湊が声を上げる。そんな湊に「静かに」と光希が告げた。

「とりあえず一回退散、詳しい話はあとでする。月夜こっちいる?」
「いや、アジトでお前らと入れ違いにならないように待ってる。部下は40人貸してくれたから、それであっち迎撃してた」
「済み次第退却しよう、凛いける?」
「ブラック企業で訴える準備だけしていってきまーす」
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