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64.俺を何度も半殺しにした人が死ぬわけないじゃん、ね。

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「葉月さん、指……」
「あーもう、これ駄目かもね……」

 葉月の弾き飛ばされた中指と人差し指の破片は、見つからなかった。きっと金庫の外に落ちているのだろう。
 燈は持っていたハンカチを手早く葉月の右手に巻いた。うめき声を上げながら、葉月も反対側の手でハンカチ越しの右手を圧迫する。

「大丈夫だよ、この程度の出血なら。……死ぬことは、ないから」
「でも……」
「ね、不謹慎なこと言ってもいい?」

 葉月は笑っていた。額に脂汗を浮かべながら、幸せそうに。

「……燈ちゃんが俺を見て、心配してくれるの。本当に、嬉しくて……こんな状況なのに、最低だよね」

 そう言う葉月を見てると、泣きそうになる。そんな燈に「ごめん、本音」と呟きながら葉月は立ち上がった。そして、金庫の扉を蹴る。

「あーだめだ、中からじゃ開かないか……!」

 完全防音なのか、外の様子が一切聞こえない。
 日向と光希は、今どうなっているのだろう。不安になって震えが走るも、葉月は燈を見て微笑んだ。

「大丈夫、あいつらは絶対負けないよ。『四』どころか『S』の中でも二人とも筆頭の武闘派だから……っ」
「葉月さん、無理しないで!」

 ずるずると扉から滑るようにしてへたりこむ葉月をあわてて抱き抱えながら、燈は悲鳴をあげる。
 燈にもたれかかるようにして「でも不安だよね」と葉月は口にした。

「……この指じゃ、役には立てないかもだけど……何か、転機さえ生めれば……」

 あたりを見回す。
 いくら見ても、非常灯に照らされたインゴットしかない。しかし、一つあった。

「葉月さん、あれ」

 壁に備え付けられた通信用のパネルだ。恐らく業務間で使うものだろう、ナンバーキーがついている。

「……銀行内部でのやり取り用、かな。でも多分銀行員グルだろうし……」
「でもあのコンシェルジュたちをどうにか出来れば……せめて動きを止められれば!」

 葉月は一つ考え込んで「いちかばちかだ、解読からいこう」と頷いた。



「日向!返事!」
「大丈夫だ、みっちゃんは!?」

 通路を行き交いながら、声を上げる。
 通信に関する機器はスマートフォン含め、すべて入口で回収されている。それが今、最悪の状況を生み出していた。
 銃声があちこちから自分たちを狙ってくる。防犯のための入り組んだ通路のおかげで比較的逃げやすいが、いずれあちらに増援が来るのは間違いない。

「俺も大丈夫!」

 ……葉月も燈もあの中に閉じ込めて正解だった。それでも、まずい状況であることには間違いない。
 光希は息を殺して、壁の内側に引っ込んだ。すると、人が倒れる音。一瞬ぞっとするが、駆ける足音は……日向の靴のものだ。ほっと息をつく。
 この仕事をしている以上、何度もこういった危機はあった。それでも、状況的に面食らったのは事実だ。まさか『角』ではなく銀行側が裏切ってくるとは。
 急がなければ。あの金庫は恐らく真空レベルまでの密封式だ、そうなるとあの二人は。

「くそっ……」

 足音が近づいてくる。日向のものではない。
 恐る恐る抜け出そうとした時、鋭い風を感じた。ほんの一瞬だけの、風だ。それでも場数を踏んでいるおかげで、反応できた。
 慌てて腰を落とす。すると、真上に熱が走った。

「ちょこまか逃げやがって!」
「その本性でよく潜入なんて出来たね」

 光希の言葉に、コンシェルジュはにやりと笑う。しかし、それだけでもう一発発砲した。
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