上 下
54 / 69

53.あーもう、何から何まで急展開過ぎるんだけど!

しおりを挟む
 帰宅してから光希の作った夕飯を食べ終え、光希はすぐさま「残りの仕事がある」と自室にこもった。そのことに、燈はほんの少しだけ安心した。やはり、心が痛む。
 それから2時間ほどしてからだろうか。光希が、部屋から飛び出してきた。しかも、外出の用意をして。

「燈ごめん、ちょっとお留守番頼んでいい?」
「はい、大丈夫です」

 何かあったのか、と聞くより先に光希は家を飛び出していった。同時に、燈のスマートフォンが鳴る。出どころは、『四』のグループメッセージだった。
 なんとなく只事ではない予感がして、急いで手に取る。送信者は、日向だった。

『葉月が重傷、月夜が回収。予断を許さない状況』
「……え?」

 ぞっ、と一気に背筋が冷える。
 最後に会ってから、まだ数時間と経っていないのに。あの、悲しい目を見てから。

「……っ!」

 反射のように、燈は電話を掛けていた。応答したのは、湊だった。

『んだよブス!』
「葉月さん何があったんですか!?」

 湊の苛立ち混じりの怒鳴り声に匹敵するほどの大きな声が、勝手に出た。さすがに驚いたのか、湊は一瞬口をつぐむ。しかし一度だけ舌打ちして、声を発しだした。

『あいつ、あの会議の後単独の任務入ってたんだよ。そしたらどっかから情報が漏れてて返り討ちにあったらしい』
「そんな……」

 会議の後自分と光希と月夜は先にビルを出ていた。あの後に任務が言い渡されていたということか。

『光希と凛が今情報を漏らしたらしい裏切り者をとっ捕まえに行ってるはずだ』
「裏切り者?」
『月夜が猛ダッシュで突き止めたんだよ。今あいつ、葉月についてるけど』

 頭が、ぐるぐる回っている。その状況で絞り出した声は。

「……どこの病院にいるんですか、葉月さん」

 このまま何もせずには、いられない。何もできないのは分かっていても。
 湊は舌打ちだけして、電話を切った。彼の沸点は未だに分からない。もしかすると……これを、光希への裏切りと取ったのか。

「葉月さん……」

 あんなことをされたのに。光希のことを考えると、彼にもうこれ以上近付いてはならないのに。
 それでも……胸が、痛い。
 彼の優しさも、笑顔も、嘘では決してなかったからか。彼が、もし死んでしまったらと考えると勝手に涙がこぼれてくる。
 しかし再び、スマートフォンが振動した。慌てて涙を拭い拾い上げると、それは湊からの電話の着信だった。

『下りろ』
「え」
『あ!?お前さては何も用意してないとか言わねえだろうな!?』

 察した。慌てて「すぐ行きます」と返すと、そのまま家を出る。
 慌ててエレベーターを待ちもせず階段を駆け下りると、湊の車が停まっていた。慌てて助手席を開けると、不機嫌そうな湊が運転席に居た。

「お前はたまたま……コンビニかどっか行こうとしてて、俺が葉月の見舞いに行こうとしたらたまたまここを通りかかった。それで行くぞ」
「はい。ありがとうございます」
「あーくそっ、全部葉月のせいだ……あいつ目覚したらマジで覚えてろよ!」

 そう毒づきながらも、湊は車を発進させた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

処理中です...