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46.葉月くん過去編、そのに。
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「美味しい?」
女に薬剤入りの食事を与えるのは、いつも葉月が行っていた。店員は自分たちがサボれるから、とさして彼を止めたりしなかった。
葉月の問いかけに答えることなく、女は餌皿に食らいついていた。どうやら彼女は、葉月のことも店員のことも認識していないようだった。たまに食べてる最中の顔面を革靴の先で叩いてやれば、「お願いします」と魂のこもっていない声で返してきた。どうやら、そう躾けられているらしい。
「視野狭窄……味覚異常、あと聴力不安定……」
投与の前後3時間、計6時間。多忙の隙を無理やり縫って葉月は女を観察していた。彼の持ち込んだタブレットには、女の経過観察が毎度びっしりと書き込まれていた。
悪臭にも慣れはしたが、極力自分に会う時は事前に女を店員に洗浄させていた。それだけで、彼女はやはり美しい女なのだと分かった。そして、自分の目を強く惹くと。
何故かは、分からない。ただ彼女から、目が離せない。
「葉月くん、もう行っちゃうの?」
あの女の観察をした日は、必ず光希に頼んで女を当てがってもらっていた。光希の店はいくつもあるせいで、正直選べる女は数えきれなかった。
どんなにいい女を犯しても、乱暴なことをしても、させても、満たされなかった。今までなら、ストレスと性欲を発散させられたらそれでよかったのに。
光希に礼の連絡と送金だけして、葉月は女を無視し部屋を出た。女の暴言が聞こえてきたが、それも無視した。
「……何なんだよ」
あの女が、頭から離れない。
もっといい女なんて日常的に犯している。あんな、汚らしくて臭い女なのに……どうして、目が離せないのか。
きっと、大きな仕事に関わっているからだ。そうに決まっている。そう思いながら、葉月はそのまま帰路についた。
投薬を開始して、1ヶ月が経過した。
女への投薬はいつも、開店前に行われている。その日の葉月も、いつもと同じ時間に投薬しにきていた。
「騒がしいな」
やけに、声が聞こえる。それも揉めている声だ。なんとなく気になって、窓から外を見下ろしてみた。
「……なんであいつが」
外には、『S』であり別働部隊『五』の男が居た。彼は外で、店員と何か揉めているようだった。そもそも『五』は縄張りを県すらまたいでいるのに、どうしてここにいるのか。
念の為日向に連絡を取ろうと、『S』のスマートフォンを起動する。それを見た途端、女は口を動かした。
「……おかあ、さん」
「え?」
初めて、その女の接客用語以外を聞いた。女は開いたままの瞳孔を、葉月のスマートフォンにぴったりと向けていた。
「おかあさん」
また、そう言った。わけが分からずほんの少し苛ついて「違うよ」と突き放す。しかし彼女は、もう餌皿に見向きもしない。これでは、観察も何も無い。
仕方ないので、スマートフォンをポケットにしまった。すると女はまた「おかあさん」と呟いた。
「何で母親が……」
そこまで言って、ハッとした。再び、スマートフォンを取り出す。そして、裏面を見た。
『S』で支給されるスマートフォンには、必ずマークを付けている。一般人には分からないが、メンバーであれば紛失次第すぐ分かるようにだ。
葉月は恐る恐る女に近付き、そのマークを指差す。すると、やはり彼女はじっと見つめて。
「おかあさん」
と呟いた。
女に薬剤入りの食事を与えるのは、いつも葉月が行っていた。店員は自分たちがサボれるから、とさして彼を止めたりしなかった。
葉月の問いかけに答えることなく、女は餌皿に食らいついていた。どうやら彼女は、葉月のことも店員のことも認識していないようだった。たまに食べてる最中の顔面を革靴の先で叩いてやれば、「お願いします」と魂のこもっていない声で返してきた。どうやら、そう躾けられているらしい。
「視野狭窄……味覚異常、あと聴力不安定……」
投与の前後3時間、計6時間。多忙の隙を無理やり縫って葉月は女を観察していた。彼の持ち込んだタブレットには、女の経過観察が毎度びっしりと書き込まれていた。
悪臭にも慣れはしたが、極力自分に会う時は事前に女を店員に洗浄させていた。それだけで、彼女はやはり美しい女なのだと分かった。そして、自分の目を強く惹くと。
何故かは、分からない。ただ彼女から、目が離せない。
「葉月くん、もう行っちゃうの?」
あの女の観察をした日は、必ず光希に頼んで女を当てがってもらっていた。光希の店はいくつもあるせいで、正直選べる女は数えきれなかった。
どんなにいい女を犯しても、乱暴なことをしても、させても、満たされなかった。今までなら、ストレスと性欲を発散させられたらそれでよかったのに。
光希に礼の連絡と送金だけして、葉月は女を無視し部屋を出た。女の暴言が聞こえてきたが、それも無視した。
「……何なんだよ」
あの女が、頭から離れない。
もっといい女なんて日常的に犯している。あんな、汚らしくて臭い女なのに……どうして、目が離せないのか。
きっと、大きな仕事に関わっているからだ。そうに決まっている。そう思いながら、葉月はそのまま帰路についた。
投薬を開始して、1ヶ月が経過した。
女への投薬はいつも、開店前に行われている。その日の葉月も、いつもと同じ時間に投薬しにきていた。
「騒がしいな」
やけに、声が聞こえる。それも揉めている声だ。なんとなく気になって、窓から外を見下ろしてみた。
「……なんであいつが」
外には、『S』であり別働部隊『五』の男が居た。彼は外で、店員と何か揉めているようだった。そもそも『五』は縄張りを県すらまたいでいるのに、どうしてここにいるのか。
念の為日向に連絡を取ろうと、『S』のスマートフォンを起動する。それを見た途端、女は口を動かした。
「……おかあ、さん」
「え?」
初めて、その女の接客用語以外を聞いた。女は開いたままの瞳孔を、葉月のスマートフォンにぴったりと向けていた。
「おかあさん」
また、そう言った。わけが分からずほんの少し苛ついて「違うよ」と突き放す。しかし彼女は、もう餌皿に見向きもしない。これでは、観察も何も無い。
仕方ないので、スマートフォンをポケットにしまった。すると女はまた「おかあさん」と呟いた。
「何で母親が……」
そこまで言って、ハッとした。再び、スマートフォンを取り出す。そして、裏面を見た。
『S』で支給されるスマートフォンには、必ずマークを付けている。一般人には分からないが、メンバーであれば紛失次第すぐ分かるようにだ。
葉月は恐る恐る女に近付き、そのマークを指差す。すると、やはり彼女はじっと見つめて。
「おかあさん」
と呟いた。
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