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42.最高記録、全治二ヶ月。

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「俺の母親は風俗嬢で、こっそり産んでこっそり育ててた。でもいつの間にか店から逃げてて、そこからは店の手伝いしながら生きててさ。ハタチになってから見つかって、『S』に入った」
「皆はもっと前からいるってこと?」
「俺の前がみっちゃんみっくんだったけど、あの二人は確か中学生からいたっていうからかなり前だよね」

 凛からしてもそのあたりは不明瞭らしく、どこか思い出すようにしながら語っていた。片手に水を持ちながら、再び顔を渋らせる。

「俺が入った時みっちゃんはもうこの街の夜の店三分の一くらいはシメてて、しかも若い分かなり凶暴だったんだよね」
「凶暴……それは湊さんじゃなくて?」
「みっくんはやかましいだけで別に凶暴ではないでしょ。で、みっちゃんは俺の教育係になったんだけど……」

 どうも言いにくいのか、口をもごもごさせだした。しかし燈は気になってしまっているせいで凛から目を逸らせず。結局凛は溜息まじりに口を開いた。

「……まああれは俺も悪かったんだよ、今に比べればガキだったし。まあクソガキの躾としたら、そりゃ殴る蹴るが早いよねって話」
「それは湊さんじゃなくて?」
「ともちゃんみっくんに対してイメージ悪過ぎない?」

 店内の喧騒は、止む気配がない。光希の命令もあってか、誰もが凛を気にしながらも呼びにくる様子はなかった。

「で、俺もクソガキだったからムカついてさ。一回みっちゃんの背後襲ったんだよね、鉄パイプ持って」

 さすがに息を呑んだ。こんなゆるい青年が、そんなことをするようには全然見えなかった。

「でも普通に失敗して、その場で殴り合いしてさ。で、結局俺が負けて絶対服従になっちゃった」
「そんなことが……」
「でもあの人の下で働くとね、やっぱりあの人すげーなって思ったよ。理不尽は絶対無いし、優しいしね」

 それは心の奥底から頷ける。あの人は、温かい。それはまるで、

「……?」
「ともちゃん?」
「あ、うん、何もない」

 何が浮かびそうになったか、それすらも分からなかった。慌てて首を振ると、凛は追加の酒を作り出した。

「まあみっちゃんも大概尖ってたらしいからね。だから誰も喧嘩売らないらしいよ」
「誰が尖ってたって?」
「うっっっそでしょ」

 いつの間にか、ソファの背後に光希が立っていた。彼は溜息を吐きながら、凛の頭をぐしゃぐしゃ撫でる。

「何か変なこと吹き込んでない?」
「俺のクソガキ時代の話だから大丈夫だって」
「燈、ほんと?」

 とりあえず頷くと、光希は凛の頭から手を離した。そして溜息を吐きながら、燈を見る。

「燈ごめん、一瞬だけ店に顔出しに行ってほしい。何か燈指名の客がかなり厄介な詰め方してきてるらしくて」
「え、どゆこと?」
「なんかもう日本を出るからどうしても最後に燈を買いたいんだってさ。で、金も4倍なら出せるって言ってて」

 渋い顔をしている光希を安心させようと「行けます」と答えると、彼は思いの外喜びはしなかった。また、溜息を吐く。

「表に迎え来させてるから、そいつの車で行って」
「光希さんは……」
「ごめん、行けない。こっちの仕事が溜まりまくってる」

 そもそも、そのために燈まで連れてこられたのだ。それだけ切羽詰まっているということなのだろう。
 ひとまず用意をして、慌ててホストクラブを出ることにする。「行ってきます」と言いながらホストクラブを出る燈を見送りながら、光希は頭を抱えた。

「……きつい」
「やっぱ辞めさせた方がいいんじゃない?どうにかしてでも」
「だね。とりあえず目の前の仕事終わらせて、手を考えるよ」
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