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41.俺の思い出話、開幕。

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「……えーっと、これマジでどういう状況?」

 凛はいつも飄々としていて、ある意味感情の起伏が見受けられない印象だった。しかし、今回ばかりはさすがに戸惑っているのが目に見えて分かった。
 燈が光希の手回しで店を休み始めて4日。つまり、月末。それはホストである凛からすれば月のどこよりも大切な日だった。
 そしてそんな慌ただしい日、急遽回された卓には……ホストクラブとは無縁そうな燈が、一人で座っていた。

「あの……光希さん今日ここで仕事するって言ってて」
「ああそうだろうね、事務関係で顔出すからね毎月。いやだからってなんでともちゃんがいるの?客として」

 あれから光希は、常に燈と行動を共にしたがった。外出も「外で客と会うかも」と一人では行かせてくれなくなった。今までそんなことはなかったのに。
 そして今日も、彼の仕事に付随する形でやってきたのだった。

「あー、それで俺に付けさせたんだね。事務室狭いから」
「うん、ここで凛くんといてって。ヘルプつけちゃダメだよって」
「じゃあ遠慮なく休憩卓にさせてもらおっと」

 聞いたところによると、彼はすでにボトルを何本も空けているとのことだった。その割には以前のように酔っている様子はなく、それを追及すると「コツがあるの」と微笑んでいた。
 そのまま燈のための酒を作りながら、凛は「ところで」と口にした。

「みっちゃんとヤッたんでしょ」
「えっ!?」

 大きな声が出た。しかし、もともと騒がしいホストクラブでは燈の叫びなど瑣末なものだったらしく凛は驚きもしなかった。

「な、何で知って」
「あー、えーと、その、うん、カン。なんかそんな気がしたっていうか。みっちゃん見てて分かったというか」

 そんなことで分かるものなのか、とは思った。しかし同時に、ある疑問も湧いた。

「あの……凛くんと光希さんって、なんで一緒に仕事してるの?他の人はみんな仕事バラバラなんだよね、『S』として以外は」
「え?あ、そっか。みっちゃん言ってないんだ……まあ別に隠すようなことでもないけど、え……あんまいい思い出じゃないけど……どうしても聞きたい?」

 やけに渋るな、と思ったがそれもあってか余計に気になった。そのため頷くと、凛はほんの少し眉をひそめるようにしながら話しだした。

「えっとね、まず前提として俺ってともちゃんの前に入ったんだよね、『S』に。だからめちゃくちゃ新人なの、あの中では」

 そういえば、そのあたりの事情も何も知らない気がする。それでも凛は続けた。

「入った経緯は多分みんな同じなんだよ、『S』の上層部が関係ある子どもを探してーって」
「じゃあ皆、戸籍は……」
「偽装で作ってるよ、一応。そういうのがうまい知り合いが上層部にいるとかで。多分ともちゃんも言ったら作ってもらえると思うけど、結構厄介らしいから世間的な必要性がないと渋られるかもね」

 差し出された酒を受け取りながら、燈はぼんやりと考えていた。
 もし、戸籍があったら。何が出来るのだろう。まだそのあたりの想像はあまり働かない。そもそも「普通」の生活自体がほぼ記憶に無いので仕方ない話なのだが。
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