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32.今日絶対ラスソン取って、明日労わせてやる。

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「『大物政治家、違法献金を隠蔽』か。大きな見出し作ったね」
「あ、それこないだみっちゃんが依頼受けたやつ?」
「そう、燈がめちゃくちゃ頑張った」
「そんな、私はただ……書類盗み見ただけで」
「あー、あれか!燈がバニーやってたってやつ。俺も行きたかったなー!湊は見たんでしょ?」

 日差しが強い。そんな中を、日向が運転する大きなワゴンが進んでいた。燈を含めて、そのワゴンに乗っている全員がネットニュースを読んでいる月夜を中心に和気藹々と会話しているが……ただ一人、湊だけは例外だった。

「見てねえし。そんな奴のバニーなんか見ても何も興奮しねえし」
「日向も見たんでしょ?写真撮ってないの?」
「言っておくけどチェキ1枚6000円だから」
「光希の店たまにとんでもないぼったくりのところあるよね?」
「おい光希って呼ぶなよ!」

 日向が運転、そして助手席には月夜。さらに後ろでは湊と光希、そして燈が並んでいる。
 向かっている先は……毎年『四』が使っているという、温泉旅館だ。

「あ、今葉月からメッセージ来た!予定通り今日の夜出るって」
「了解。凛は何時に来るんだっけ?」
「確か夜だから、葉月と一緒に来させれば?」

 光希の言葉に、月夜は「それもそうね」と呟きながらメッセージを打ち出した。
 今日は、『四』が毎年行っているという年に一度の二泊三日慰労旅行だ。さすがに仕事の都合上全員がぴたりと予定が合うことはないので、葉月と凛だけは明日の朝合流することになっている。

「というか湊はさっきから何スネてんの」

 月夜の言葉に「スネてねえし」と不貞腐れたように言い返す。しかしそんな彼に、光希が「ごめんね」と返した。

「旅行行きたそうだったから『いっそ慰労旅行早めに行こう』って日向に提案しちゃったから……二人がいいっていうの聞き逃してた」
「お前のそういうところ本当嫌い」
「とか言って大好きなくせにぃ」
「うるっせーよ目元スケベ野郎!」

 目元スケベ野郎こと月夜は「これで何人の女の子落としてきたと思ってんの」とむくれながら、日向のためのペットボトルを開けてやっていた。暑さが厳しく、クーラーをつけていても車内は蒸し暑い。
 外の景色をじっと見つめる燈に、日向が「酔った?」と聞くものの燈は首を振った。

「いえ……そういえば住んでる街以外の景色って見たことなかったので」
「もうすぐ海が見えてくるよ、海も初めて?」
「写真は見たことありますけど、本物は」

 目をきらきらさせながら答える燈に、湊は「はんっ」と鼻を鳴らす。

「そんなんじゃサーフィンする光希なんて見たら失神すんじゃねえの、お前」
「サーフィン?」
「燈もやってみたいなら教えてあげるよ、俺と日向で」
「しれっと戦力外通告された……」

 そう言いながらも月夜は前を見て「あ、海見えてきた」と指差した。その途端、一気に海辺の景色が広がった。

「わっ……」

 あまりにも、美しい海だった。日差しをきらきら弾いて、あまりに眩しい。言葉を失うくらい見入る燈に、光希は「綺麗でしょ」と声をかけた。

「チェックインしたらちょっと近くまで降りてみようか。遊ぶのは明日全員揃ってから」
「はい!」
「声でっか」

 湊の声は無視して、燈はただこの旅行への希望に胸を躍らせていた。



 日差しが強い。そのせいか、椅子に座る彼の姿は逆光に包まれていた。
 先ほど部下から手渡された資料を、改めて読み返す。どれも厄介な内容ではある、が……少し手間が増えるだけで、自分に対しては問題ない。
 社長と会長はすでに、自分の手のひらの上だ。いかようにも転がせるが、今回はさすがに手間を感じてしまう。これさえなければ、早くにこの会社を出られたというのに。

「じゃあ、このリスト通りに」
「あの……本当に、やるんですか」
「仕方ないだろ、もうここまで出ちまってんだぞ。早く動かねえと会社潰れるって分かって文句言ってんのか?あ?」

 脅し混じりの言葉に、リストを受け取った部下は焦りながら頷いた。その慌ただしい背中を目で追いながら、ため息を吐く。

「……早く会いたい」

 その言葉は、熱かった。
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