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31.ベタ惚れじゃんね、なんかもう。
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あの後すぐに光希の指示で、燈は退勤させられた。光希に連れられて出ていく燈を、教育係だった女は無言で見つめていた。
光希の車は、とある公園へと向かった。駐車場に車を停めると、燈に後部座席に移るように指示をした。わけが分からないまま、隙間に入り込むようにして移動する。その間、光希はずっとスマートフォンを触っていた。
それから20分程して、別の車が隣に停まった。そして、運転席から出てきた若い男が光希の車の助手席の扉を開けた。
「よっ」
「早く入って」
男は助手席に乗り込んだ。光希はそんな彼を指差しながら、「こいつは古元」と燈に告げる。
「新聞記者で、主に政治関係の担当してる」
「は、初めましてっ」
「おー、この子が今日やってくれた子?」
古元の言葉に、光希は頷く。そのまま、先ほどまで燈が使っていた兎の耳を取り出した。中から黒い塊を取り出すと、何やらまさぐりだす。
そのまま録音の音声が再生され、まずはバーの喧騒が聞こえ始めた。そこから少しずつ、状況が流れ出す。
「あ、日向来たんだ」
「はい、すぐ帰られましたけど」
日向とのやりとりの後に聞こえてきた、あの男たちの声。それに、古元の眉が動いた。どうやら、あの男たちで正解だったようだ。分かってはいたが、改めて安心する。
そして、燈の記憶を掘り起こす朗読が始まった。古元は熱心に聞いている。
数分に渡る朗読が終わったあと、光希が再生を切った。
「ここまで録って撤退させた。どう?」
「完璧。というか、書類入手したならそれを渡してくれてもいいんだけど何で声?」
「あ、それは」
古元の当然の疑問に、あれがすべて記憶を起こしたものだと説明する。それを聞き、古元はあんぐりと口を開けた。
「何それ、君天才?ってかそれ本当に大丈夫?見間違いはない?」
「燈に限ってそれはない、元々記憶力については何度もテストしてるから信憑性は高い」
「まあ、いざとなればどうにでも出来るな。情報としては……これはやばいな、かなり」
何だか考え込んでいるそぶりを見せながら、古元は何度も頷いた。そして、光希からマイクを受け取る。
「いやあ、しかし助かった。えっと、燈さんだっけ?ありがとう」
「いえ、その……私、本当にお役に立てたんでしょうか」
燈の言葉に、古元は一瞬きょとんとした。しかしすぐに、にかっと明るく笑う。
「めちゃくちゃ!まあ世論の反応次第では追加でイロつけて渡すから」
「それは楽しみだ」
光希の言葉に「燈さんへの手当てだから」と古元は呆れたように返した。
そのまま古元はマイクを持って、車から降りた。そのまま自分の車に乗り込み、走り出す。それを見計らってから、光希も車を走らせた。
「役に立ってたってさ」
改めて助手席に座り直した燈に、光希はそう言った。
「ありがたいです。けど……」
「けど?」
実際、嬉しかった。それでも。
「私は、光希さんの役に立ちたいです」
その言葉に、光希は黙る。しかし、一瞬だけくすりと笑った。
「自分で聞いておいて」
「あ、そ、そうですよね。失礼ですよね」
「いや、俺としては嬉しいよ」
その柔らかい声が、嬉しかった。だからこそ、蘇る。
……何故、自分は。彼に抱いてもらえないのだろう。
性欲を発散させる相手には困っていないから?それとも、自分がまだそれに見合う女ではないから?
「ん、俺のスマホ鳴ってる?電話?」
「……湊さんですね」
「あ、言わずに出てきちゃったなそういえば。というか今気づいたんだ」
とりあえず光希の指示で、燈がスマートフォンを応答させる。一応スピーカーにした。
『光希どこいんだよぉ!店どこ探してもいないじゃんかぁ!俺置いて出てったのかよぉ!』
「……湊さん酔ってます?」
『え!?あ!?お前かよ!くそ!光希いんのかそこに!ってお前いるってことはもう帰ってんのか!」
「ごめんね、言うの忘れてた。今度奢るから許して」
『ふ、ふーん!?じゃあ何奢ってもらおっかな!1日は空けろよ!いや旅行もありだな!二人で行こうぜ!そいつは留守番!』
「何か言ってることシンデレラの継母みたいだね」
光希の車は、とある公園へと向かった。駐車場に車を停めると、燈に後部座席に移るように指示をした。わけが分からないまま、隙間に入り込むようにして移動する。その間、光希はずっとスマートフォンを触っていた。
それから20分程して、別の車が隣に停まった。そして、運転席から出てきた若い男が光希の車の助手席の扉を開けた。
「よっ」
「早く入って」
男は助手席に乗り込んだ。光希はそんな彼を指差しながら、「こいつは古元」と燈に告げる。
「新聞記者で、主に政治関係の担当してる」
「は、初めましてっ」
「おー、この子が今日やってくれた子?」
古元の言葉に、光希は頷く。そのまま、先ほどまで燈が使っていた兎の耳を取り出した。中から黒い塊を取り出すと、何やらまさぐりだす。
そのまま録音の音声が再生され、まずはバーの喧騒が聞こえ始めた。そこから少しずつ、状況が流れ出す。
「あ、日向来たんだ」
「はい、すぐ帰られましたけど」
日向とのやりとりの後に聞こえてきた、あの男たちの声。それに、古元の眉が動いた。どうやら、あの男たちで正解だったようだ。分かってはいたが、改めて安心する。
そして、燈の記憶を掘り起こす朗読が始まった。古元は熱心に聞いている。
数分に渡る朗読が終わったあと、光希が再生を切った。
「ここまで録って撤退させた。どう?」
「完璧。というか、書類入手したならそれを渡してくれてもいいんだけど何で声?」
「あ、それは」
古元の当然の疑問に、あれがすべて記憶を起こしたものだと説明する。それを聞き、古元はあんぐりと口を開けた。
「何それ、君天才?ってかそれ本当に大丈夫?見間違いはない?」
「燈に限ってそれはない、元々記憶力については何度もテストしてるから信憑性は高い」
「まあ、いざとなればどうにでも出来るな。情報としては……これはやばいな、かなり」
何だか考え込んでいるそぶりを見せながら、古元は何度も頷いた。そして、光希からマイクを受け取る。
「いやあ、しかし助かった。えっと、燈さんだっけ?ありがとう」
「いえ、その……私、本当にお役に立てたんでしょうか」
燈の言葉に、古元は一瞬きょとんとした。しかしすぐに、にかっと明るく笑う。
「めちゃくちゃ!まあ世論の反応次第では追加でイロつけて渡すから」
「それは楽しみだ」
光希の言葉に「燈さんへの手当てだから」と古元は呆れたように返した。
そのまま古元はマイクを持って、車から降りた。そのまま自分の車に乗り込み、走り出す。それを見計らってから、光希も車を走らせた。
「役に立ってたってさ」
改めて助手席に座り直した燈に、光希はそう言った。
「ありがたいです。けど……」
「けど?」
実際、嬉しかった。それでも。
「私は、光希さんの役に立ちたいです」
その言葉に、光希は黙る。しかし、一瞬だけくすりと笑った。
「自分で聞いておいて」
「あ、そ、そうですよね。失礼ですよね」
「いや、俺としては嬉しいよ」
その柔らかい声が、嬉しかった。だからこそ、蘇る。
……何故、自分は。彼に抱いてもらえないのだろう。
性欲を発散させる相手には困っていないから?それとも、自分がまだそれに見合う女ではないから?
「ん、俺のスマホ鳴ってる?電話?」
「……湊さんですね」
「あ、言わずに出てきちゃったなそういえば。というか今気づいたんだ」
とりあえず光希の指示で、燈がスマートフォンを応答させる。一応スピーカーにした。
『光希どこいんだよぉ!店どこ探してもいないじゃんかぁ!俺置いて出てったのかよぉ!』
「……湊さん酔ってます?」
『え!?あ!?お前かよ!くそ!光希いんのかそこに!ってお前いるってことはもう帰ってんのか!」
「ごめんね、言うの忘れてた。今度奢るから許して」
『ふ、ふーん!?じゃあ何奢ってもらおっかな!1日は空けろよ!いや旅行もありだな!二人で行こうぜ!そいつは留守番!』
「何か言ってることシンデレラの継母みたいだね」
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