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28.確かリーダーとみっくんは超下戸だったはず。

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 ほぼ24時間営業である風俗と違い、バーであるこの店は21時に開店すると同時に一気に賑やかになった。
 叩き込んだマニュアルはなんとか機能していて、燈はそつなく作業をこなしていた。カウンターの中で先輩キャストのドリンク作りを手伝ったり、客に愛想笑いをしたり……まさしく「初日入店の嬢」を徹底的に演じていた。
 教育してくれた嬢はどうやら人気の嬢だったようで、すぐにカウンターの中から抜け出して男性客に太ももを触らせていた。その姿を見て……先ほどの、彼女の言葉が思い浮かぶ。

『志賀さん、エッチ上手でしょ』

 あの言い振りからして、きっと彼女は光希に抱かれたのだろう。自分は、そういった色めいた形で触れられてなんていないのに。
 ……一緒に住んでしばらくになる。裸も見られている。それなのに、どうして。彼は自分を抱いてくれないのだろう。

「お客様、カウンターでよろしいでしょうか?」

 黒服の声を聞いて、ハッとした。まずい、仕事中に気が飛んでいた。
 光希のために、やらなければならないことをする。それだけだ。改めて気合いを入れ直して、通された客へと向き直る。すると、そこにいたのは。

「……カシスミルク、ミルク多めで」
「日向さん……!」

 日向は一瞬だけ燈を見ると、すぐに目を逸らした。それを見て、燈も慌ててカクテルの用意をする。作り方もすべて、開店前に叩き込まれた。
 カシスリキュールとミルクを混ぜて、グラスに注ぐ。紫がかった乳白色は、暗い店内でも不思議と目立っていた。

「お待たせいたしました」
「ありがとう。どう、調子は」
「調子って……」

 どのことを言っているのだろう、と思い悩んでいるとすぐに彼は「まだ来てないか」と呟いた。なのですぐに、頷く。

「たまたまこの後この近くの店で会食が入ったから、みっちゃんの代わりに様子を見に来た。……その、ずいぶんと過激な衣装なんだな」

 確かに、隠されているのは胸元と股の部分くらいのようなものだ。日向はどうやら、わざと直視しないように目を逸らしてくれていただけのようだった。よく見ると、耳まで赤い。
 露骨な目線を向けられる時は何も思わない。しかし業務上の制服とは言え、照れられると何故かこちらも羞恥心が湧いてしまう。そのため、カウンターの中で体を少しかがめた。

「そ、そうなんですね。あの……光希さんは」
「ああ、聞いてないか。今日は湊の取引のボディガードでついて行ってる」

 どうせ湊がワガママで引き連れて行ったのだろう。あれ以来彼には会っていないが、なんだかムッとしてしまった。とはいえ彼は光希の弟だ、自分が何かを言える立場ではない。それがどこか……また、棘として胸に刺さる。

「でも後で来るんだろ、実際今日の取引は信用置けるところとだから時間はかからないし」
「そうですか」
「……何かあったのか?」

 日向の言葉に、どきりとする。
 さすがに、光希のことを相談していいかは悩む。彼は『四』のリーダーで多忙な身だし、何より……こんな、わけのわからないものをぶつけることには気が引ける。
 この気持ちを、まだ言語化できない。

「……あれか?」

 慌てて、日向の意識の先へと目線を向けた。
 写真の男が、一人の同年代くらいの男を連れ立って来ていた。どう動くか、と意識を集中させていると……日向が立ち上がった。そのまま、そばにいた黒服に声をかける。

「チェックで。ここ空けるから、この子つけてやってよ」
「ありがとうございます」

 黒服はすぐに、日向の居た席を綺麗に掃除しだした。確か今日のことは、燈以外誰も知らない。この日向の気遣いは、明らかなチャンスだった。
 燈は慌てて「ありがとうございます」と告げる。日向は会計を終えるとこちらを見ることなく頷いて、店を出て行った。
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