28 / 69
27.確かその店の古株はみんな「お手つき」だったかな?
しおりを挟む
「というわけで今日はこの子が臨時で入るから。皆、優しくしてあげて」
「よ、よろしくお願いします」
あの後はすぐさま行動に移された。
光希の特権であの後の予約はすべてキャンセルさせられ、そのまま光希の管轄だという「キャロット」というバーへ連れてこられた。
到着したのは17時で、開店の21時まで時間があるのもあり幹部クラスの黒服と店に寝泊まりしている数人のキャストしかいなかった。
「志賀さん、じゃあもうフィッティングから始めても?」
「よろしく、ああ耳はこっちで研修用のものを用意してるからボンテージだけ」
「はぁい」
意図はまだ全然分からない。もしかして、移籍でもさせるつもりなのだろうか。そうソワソワしていたものの、すぐにその考えは打ち砕かれた。
「燈、これ着けて」
衣装のサイズ合わせがてらの着替えが終わってそうそう、光希は燈を店内のボックス席へと連れ出した。清掃も完了しているのか、誰もいない。
胸元や尻をほぼ丸出しにしているようなボンテージスーツをまといながら隣に座った燈に、光希はウサギの耳を手渡した。白くてふわふわしている、カチューシャタイプのものだ。豚小屋でかつて客に遊びで着けさせられたものに似ているが、受け取って気付く。
「……なんだか重いんですね」
「でしょ。で、ここからが本題。今から言うことは誰にも言わないで」
声が、いきなり小さくなった。察して頷くと、光希の口が耳へと寄る。
「その耳の中に、小型マイクを仕込んでるんだ。他のキャストのにはない、それにだけ」
柔らかい、発情の欠片もない……普通の吐息。それでもなぜか、どきりとする。胸の奥が、熱くなる。
「とある知り合いからの依頼で、この店に常連で来てる政治家の裏ネタを録りたい」
なるほど、そういうことか。やっとすべてに納得がいき、安心する。そして……自分が頼られている、という高揚感。
「接客に関しては、先輩たちからマニュアルを教わって。それだけでいい」
「分かりました」
「これがその男」
光希が見せてきたのは、いかにも政治家という風格を漂わせた60代ほどの男性だった。空いた脳のスペースに印象を押し込んで、頷く。
「こいつは常連だから、新人を見たらきっと気が行くはずだ。そこに潜り込んで。燈は会話に入らなくてもいい、同行者とそいつの会話を拾って」
「同行者はどんな人が?」
「それはまだ分からない。でも、絶対に一人で来ることはない。で、こういう店に連れ込むって時点で……まともな話ではないはずだよ」
それはそうだ。もっと言えば、このバーの構造的にボックス席はかなり奥まっている。確かに内緒話が出来る空気感ではある。
「終わったらその耳は俺に渡して。閉店くらいに俺もここに来るから、迎えついでに」
「はい」
「面倒なこと頼んでごめんだけど、よろしく」
首を振ると、光希は安心したかのようにほんの少しだけ目もとを緩ませて立ち上がった。
入れ違いのように、光希から教育を任されたらしい女性が駆け寄ってくる。彼女もすでに、支度を終えているらしくバニーの姿だった。
「今日はよろしくね。今日一日だけだろうけど覚えること色々あるから頑張って」
「はい、よろしくお願いします」
必死に受け答えをする燈を見て、彼女はくすりと笑う。
「あなた、志賀さんのお気に入りなのね」
「え」
そう言えば、光希の仕事の姿はあまり知らないかもしれない。そもそも彼が『S』であることや、燈と同居していることなどこういった女性たちは知っているのだろうか。
「志賀さん、エッチ上手でしょ」
不意に投げ込まれた言葉に、一瞬喉が詰まる。その様子を見逃さなかったのか、彼女はにこりと笑いながら「ごめんね」と囁いた。
「そっかぁ、あなたまだしてないんだ?」
「……そ、その」
「覚悟しておいた方がいいわよ、かなりクセになっちゃうから」
そうとだけ言って、彼女はマニュアルの説明を始めた。燈も平静を装ってはいたが……手の震えは、隠しきれていなかった。
「よ、よろしくお願いします」
あの後はすぐさま行動に移された。
光希の特権であの後の予約はすべてキャンセルさせられ、そのまま光希の管轄だという「キャロット」というバーへ連れてこられた。
到着したのは17時で、開店の21時まで時間があるのもあり幹部クラスの黒服と店に寝泊まりしている数人のキャストしかいなかった。
「志賀さん、じゃあもうフィッティングから始めても?」
「よろしく、ああ耳はこっちで研修用のものを用意してるからボンテージだけ」
「はぁい」
意図はまだ全然分からない。もしかして、移籍でもさせるつもりなのだろうか。そうソワソワしていたものの、すぐにその考えは打ち砕かれた。
「燈、これ着けて」
衣装のサイズ合わせがてらの着替えが終わってそうそう、光希は燈を店内のボックス席へと連れ出した。清掃も完了しているのか、誰もいない。
胸元や尻をほぼ丸出しにしているようなボンテージスーツをまといながら隣に座った燈に、光希はウサギの耳を手渡した。白くてふわふわしている、カチューシャタイプのものだ。豚小屋でかつて客に遊びで着けさせられたものに似ているが、受け取って気付く。
「……なんだか重いんですね」
「でしょ。で、ここからが本題。今から言うことは誰にも言わないで」
声が、いきなり小さくなった。察して頷くと、光希の口が耳へと寄る。
「その耳の中に、小型マイクを仕込んでるんだ。他のキャストのにはない、それにだけ」
柔らかい、発情の欠片もない……普通の吐息。それでもなぜか、どきりとする。胸の奥が、熱くなる。
「とある知り合いからの依頼で、この店に常連で来てる政治家の裏ネタを録りたい」
なるほど、そういうことか。やっとすべてに納得がいき、安心する。そして……自分が頼られている、という高揚感。
「接客に関しては、先輩たちからマニュアルを教わって。それだけでいい」
「分かりました」
「これがその男」
光希が見せてきたのは、いかにも政治家という風格を漂わせた60代ほどの男性だった。空いた脳のスペースに印象を押し込んで、頷く。
「こいつは常連だから、新人を見たらきっと気が行くはずだ。そこに潜り込んで。燈は会話に入らなくてもいい、同行者とそいつの会話を拾って」
「同行者はどんな人が?」
「それはまだ分からない。でも、絶対に一人で来ることはない。で、こういう店に連れ込むって時点で……まともな話ではないはずだよ」
それはそうだ。もっと言えば、このバーの構造的にボックス席はかなり奥まっている。確かに内緒話が出来る空気感ではある。
「終わったらその耳は俺に渡して。閉店くらいに俺もここに来るから、迎えついでに」
「はい」
「面倒なこと頼んでごめんだけど、よろしく」
首を振ると、光希は安心したかのようにほんの少しだけ目もとを緩ませて立ち上がった。
入れ違いのように、光希から教育を任されたらしい女性が駆け寄ってくる。彼女もすでに、支度を終えているらしくバニーの姿だった。
「今日はよろしくね。今日一日だけだろうけど覚えること色々あるから頑張って」
「はい、よろしくお願いします」
必死に受け答えをする燈を見て、彼女はくすりと笑う。
「あなた、志賀さんのお気に入りなのね」
「え」
そう言えば、光希の仕事の姿はあまり知らないかもしれない。そもそも彼が『S』であることや、燈と同居していることなどこういった女性たちは知っているのだろうか。
「志賀さん、エッチ上手でしょ」
不意に投げ込まれた言葉に、一瞬喉が詰まる。その様子を見逃さなかったのか、彼女はにこりと笑いながら「ごめんね」と囁いた。
「そっかぁ、あなたまだしてないんだ?」
「……そ、その」
「覚悟しておいた方がいいわよ、かなりクセになっちゃうから」
そうとだけ言って、彼女はマニュアルの説明を始めた。燈も平静を装ってはいたが……手の震えは、隠しきれていなかった。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる