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27.確かその店の古株はみんな「お手つき」だったかな?

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「というわけで今日はこの子が臨時で入るから。皆、優しくしてあげて」
「よ、よろしくお願いします」

 あの後はすぐさま行動に移された。
 光希の特権であの後の予約はすべてキャンセルさせられ、そのまま光希の管轄だという「キャロット」というバーへ連れてこられた。
 到着したのは17時で、開店の21時まで時間があるのもあり幹部クラスの黒服と店に寝泊まりしている数人のキャストしかいなかった。

「志賀さん、じゃあもうフィッティングから始めても?」
「よろしく、ああ耳はこっちで研修用のものを用意してるからボンテージだけ」
「はぁい」

 意図はまだ全然分からない。もしかして、移籍でもさせるつもりなのだろうか。そうソワソワしていたものの、すぐにその考えは打ち砕かれた。

「燈、これ着けて」

 衣装のサイズ合わせがてらの着替えが終わってそうそう、光希は燈を店内のボックス席へと連れ出した。清掃も完了しているのか、誰もいない。
 胸元や尻をほぼ丸出しにしているようなボンテージスーツをまといながら隣に座った燈に、光希はウサギの耳を手渡した。白くてふわふわしている、カチューシャタイプのものだ。豚小屋でかつて客に遊びで着けさせられたものに似ているが、受け取って気付く。

「……なんだか重いんですね」
「でしょ。で、ここからが本題。今から言うことは誰にも言わないで」

 声が、いきなり小さくなった。察して頷くと、光希の口が耳へと寄る。

「その耳の中に、小型マイクを仕込んでるんだ。他のキャストのにはない、それにだけ」

 柔らかい、発情の欠片もない……普通の吐息。それでもなぜか、どきりとする。胸の奥が、熱くなる。

「とある知り合いからの依頼で、この店に常連で来てる政治家の裏ネタを録りたい」

 なるほど、そういうことか。やっとすべてに納得がいき、安心する。そして……自分が頼られている、という高揚感。

「接客に関しては、先輩たちからマニュアルを教わって。それだけでいい」
「分かりました」
「これがその男」

 光希が見せてきたのは、いかにも政治家という風格を漂わせた60代ほどの男性だった。空いた脳のスペースに印象を押し込んで、頷く。

「こいつは常連だから、新人を見たらきっと気が行くはずだ。そこに潜り込んで。燈は会話に入らなくてもいい、同行者とそいつの会話を拾って」
「同行者はどんな人が?」
「それはまだ分からない。でも、絶対に一人で来ることはない。で、こういう店に連れ込むって時点で……まともな話ではないはずだよ」

 それはそうだ。もっと言えば、このバーの構造的にボックス席はかなり奥まっている。確かに内緒話が出来る空気感ではある。

「終わったらその耳は俺に渡して。閉店くらいに俺もここに来るから、迎えついでに」
「はい」
「面倒なこと頼んでごめんだけど、よろしく」

 首を振ると、光希は安心したかのようにほんの少しだけ目もとを緩ませて立ち上がった。
 入れ違いのように、光希から教育を任されたらしい女性が駆け寄ってくる。彼女もすでに、支度を終えているらしくバニーの姿だった。

「今日はよろしくね。今日一日だけだろうけど覚えること色々あるから頑張って」
「はい、よろしくお願いします」

 必死に受け答えをする燈を見て、彼女はくすりと笑う。

「あなた、志賀さんのお気に入りなのね」
「え」

 そう言えば、光希の仕事の姿はあまり知らないかもしれない。そもそも彼が『S』であることや、燈と同居していることなどこういった女性たちは知っているのだろうか。

「志賀さん、エッチ上手でしょ」

 不意に投げ込まれた言葉に、一瞬喉が詰まる。その様子を見逃さなかったのか、彼女はにこりと笑いながら「ごめんね」と囁いた。

「そっかぁ、あなたまだしてないんだ?」
「……そ、その」
「覚悟しておいた方がいいわよ、かなりクセになっちゃうから」

 そうとだけ言って、彼女はマニュアルの説明を始めた。燈も平静を装ってはいたが……手の震えは、隠しきれていなかった。
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