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22.恩はね、確かに崇拝の種だよ。
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湊と葉月と臨んだあの取引から、早一ヶ月。
「また来るよ」
「はい、楽しみにしています」
週に5日の出勤、相手取るのは毎回平均3人ほど。少しずつ、光希の店にも慣れてきた。
光希自身はもう少し減らしてもいい、と言っていたものの少しでも光希のためになりたいという気持ちだけで燈は業務に当たっていた。そしてそれを、数日前来た葉月に伝えると彼は何故か一瞬だけ辛そうな顔をしていた。
「ふう……」
『S』のメンバーで言えば月夜が一度だけ、そして葉月が週に一度ほどやってくる。二人とも決して店の御法度である本番強要に触れることなく、ただの良質な風俗客として「遊んで」帰っていった。月夜いわく、「光希の店でそんな狼藉ははたらけない」とのことだった。
実際この店は高級店志向というのもあってか、本番行為は発覚次第客にも嬢にも厳罰だそうだ。余程引っ張りたい客であれば光希に要相談、とのことらしい。しかし未だ、幸い燈にはそういった客はついていなかった。
「あ……ローション、ストックが……」
事務所に電話してローションの在庫を伝えると、すぐに凛がやってきた。空いたローションボトルを回収し、手際よく新たなローションを設置する。
整理を終えると、凛は改めて燈を見た。不思議に思って見つめ返すと、凛は薄い表情のまま「変わったね」と呟いた。
「なんか、声も顔も明るくなった感じ」
「そうかな」
凛は歳が近いというのもあってか、敬語が抜けていた。この店の嬢とも少しずつ話せるようにはなっていたが、それでも……光希のお気に入り、と思われているのかどこか嫌な棘を感じないこともなかった。とはいえ、主に個室でプレイするのもあってか嫌がらせなどは受けずに済んでいる。
「あ、そういえばね。みっちゃんからさっき連絡あったんだけど夜ノーチェ開けるってさ」
「ノーチェ?」
「あれ、知らない?みっちゃんのお店の一つなんだけど」
光希は繁華街にいくつも、どころでは済まないほどの店を持っている。そのうちの一つなのだろう。
凛は「じゃあせっかくだし」と呟くと、持っていたタブレットを操作しだした。
「今ね、ともちゃんのスマホに位置情報送っておいた。もうともちゃん予約入ってないから、先に行ってなよ」
「いいの?光希さんは」
「俺から言っておくし、あの人がともちゃん拒むわけないっしょ。もう締めてあがりなよ、そのまま向かえばいいし」
その言葉に、何だか嬉しくなる。「ありがとう」と返すと、着替えをするためにプレイルームを出た。
途端に、凛の業務用スマートフォンが音を鳴らす。
「あ、もしもし?葉月くん?ああうんともちゃん?たった今あがっちゃった、……はは、露骨にしょげるじゃん」
スマートフォンは光希に支給された。豚小屋時代はもちろん持たせてもらえなかったので最初は操作に四苦八苦したが、今では最低限の機能を使えるようになっている。
凛が話を回してくれていたおかげか、締め作業を終えて店を出た時にはすでに光希から「場所分からなかったらすぐ連絡して」と来ていた。
……彼からのメッセージを見るだけで、胸が躍る。あの優しい声で実際囁かれているような気分に陥る。
地図を頼りに、軽い足取りで燈は歩き出した。
「また来るよ」
「はい、楽しみにしています」
週に5日の出勤、相手取るのは毎回平均3人ほど。少しずつ、光希の店にも慣れてきた。
光希自身はもう少し減らしてもいい、と言っていたものの少しでも光希のためになりたいという気持ちだけで燈は業務に当たっていた。そしてそれを、数日前来た葉月に伝えると彼は何故か一瞬だけ辛そうな顔をしていた。
「ふう……」
『S』のメンバーで言えば月夜が一度だけ、そして葉月が週に一度ほどやってくる。二人とも決して店の御法度である本番強要に触れることなく、ただの良質な風俗客として「遊んで」帰っていった。月夜いわく、「光希の店でそんな狼藉ははたらけない」とのことだった。
実際この店は高級店志向というのもあってか、本番行為は発覚次第客にも嬢にも厳罰だそうだ。余程引っ張りたい客であれば光希に要相談、とのことらしい。しかし未だ、幸い燈にはそういった客はついていなかった。
「あ……ローション、ストックが……」
事務所に電話してローションの在庫を伝えると、すぐに凛がやってきた。空いたローションボトルを回収し、手際よく新たなローションを設置する。
整理を終えると、凛は改めて燈を見た。不思議に思って見つめ返すと、凛は薄い表情のまま「変わったね」と呟いた。
「なんか、声も顔も明るくなった感じ」
「そうかな」
凛は歳が近いというのもあってか、敬語が抜けていた。この店の嬢とも少しずつ話せるようにはなっていたが、それでも……光希のお気に入り、と思われているのかどこか嫌な棘を感じないこともなかった。とはいえ、主に個室でプレイするのもあってか嫌がらせなどは受けずに済んでいる。
「あ、そういえばね。みっちゃんからさっき連絡あったんだけど夜ノーチェ開けるってさ」
「ノーチェ?」
「あれ、知らない?みっちゃんのお店の一つなんだけど」
光希は繁華街にいくつも、どころでは済まないほどの店を持っている。そのうちの一つなのだろう。
凛は「じゃあせっかくだし」と呟くと、持っていたタブレットを操作しだした。
「今ね、ともちゃんのスマホに位置情報送っておいた。もうともちゃん予約入ってないから、先に行ってなよ」
「いいの?光希さんは」
「俺から言っておくし、あの人がともちゃん拒むわけないっしょ。もう締めてあがりなよ、そのまま向かえばいいし」
その言葉に、何だか嬉しくなる。「ありがとう」と返すと、着替えをするためにプレイルームを出た。
途端に、凛の業務用スマートフォンが音を鳴らす。
「あ、もしもし?葉月くん?ああうんともちゃん?たった今あがっちゃった、……はは、露骨にしょげるじゃん」
スマートフォンは光希に支給された。豚小屋時代はもちろん持たせてもらえなかったので最初は操作に四苦八苦したが、今では最低限の機能を使えるようになっている。
凛が話を回してくれていたおかげか、締め作業を終えて店を出た時にはすでに光希から「場所分からなかったらすぐ連絡して」と来ていた。
……彼からのメッセージを見るだけで、胸が躍る。あの優しい声で実際囁かれているような気分に陥る。
地図を頼りに、軽い足取りで燈は歩き出した。
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