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16.あ、何も言えないわけじゃないんだね。
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あの後会議はかなり難航した。難航も難航、と言えるほどだった。
ゴネる湊と光希に応えたい燈の攻防は、最終的に光希の「湊ならいけるでしょ」の一言で収まった。それでも互いに納得はいっていなかったが。
そして、当日。
「ねー湊、こっちで合ってる?」
運転手役として、葉月も参加することになった。助手席に座る湊はケースを抱えながら「おう、次は右」と指示を出す。
燈はと言えばまた光希に服を決めてもらい、男受けするような化粧をして後部座席に乗っていた。
「ねえ燈ちゃん、酔ってない?大丈夫?」
「大丈夫です」
「おい葉月、そんな気回すな!」
その怒号に、さすがにムッとした。自分が言われたのではなく、気遣いをしてくれた葉月に対して言われたことに対して苛立ったのだ。
「……光希さんと全然違う」
ぼそり、と呟く。するとそれが琴線に触れたのか、湊が振り向いてきた。
「あ?」
「光希さんはもっと優しくて、かっこよくて、いい人なのに。兄弟なんですよね?なのにそこまで違うんですか?」
「ああ!?お前なんかが口出してきてんじゃねえよ!」
「あーもう、そろそろつくよー!」
葉月の言葉にハッとしたのか、湊は正面を向いた。燈も改めて、姿勢を正す。
駐車場に入ると、葉月は丁寧な運転で駐車した。そして湊に「もういいよ」と告げる。
「見たとこ、あっちが先に来てるみたいだね」
「そりゃそうだろ。おい行くぞ」
素っ気ない声でこちらを見ることなく言われるが、仕事モードなのかさっきのような刺々しさは感じない。なのでひとまず、頷く。
自分で後部座席を開くと、葉月が「気をつけて」と微笑んでいた。その微笑みはまるであの日の店での表情と同じで、慌てて頷く。
湊は燈を見ることなく、ケースを持ってずかずか歩き始める。それを、慌てて追った。内心光希なら絶対こんなことしないだろうに、と思ったがそれを言ったところでどうせあおるだけだ。
到着したのは、小さな船着場のガレージだった。
「この中か」
踏み込もうとする湊の腕を、慌てて引っ張った。それに驚いた顔を見せたが、すぐに不機嫌そうな顔をしてくる。
「んだよ、触んな」
「嫌な音が、します」
「あ?」
耳の奥が、まるでぐらつくような。嫌な感触がする。
豚小屋で燈を犯すために待っていた男たちが、射精をしたいがために苛立って地面を擦る音と同じだった。その音だけは、何故かよく聞こえた。
「……嫌な待ち方をされてます。何かイライラしてるような」
「俺はお前の語彙力の無さにイライラしてるけど」
それでも感じるところはあったのか、湊は「来い」とだけ言って腕を振り解いた。すると入り口ではなく、裏手に回り込んだ。
「足音立てるなよ」
頷き、慎重に歩く。幸い用意されていた靴はヒールもなく、足音を消すことは容易かった。
ガレージの後ろに回ると、窓があった。老朽化のせいで割れているが、むしろ中が見やすい。湊はポケットから双眼鏡を取り出し、離れた場所から窓の中を覗いた。そして、舌打ちする。
「はっ、3人か」
双眼鏡を使わずとも、なんとなく中の影だけなら見えた。
入り口からは見えないように、壁際に3人配置されている。その手元を見れば、何を使おうとしているかなど予測は簡単に出来る。
「……おおかた、開けた途端に蜂の巣にするところって気か。かと言ってこの窓から入ったところで照準がこっち向くだけ……と」
「じゃあ取引は」
「する気なんてどう考えても無いだろ、あれは」
なんとなく気になって、燈は湊の手から双眼鏡を取った。「おい、勝手なことすんな」と噛みつく湊を無視して双眼鏡を覗き込む。
「……やっぱり、いる」
「あ?」
入り口を囲むうちの一人は、知っている顔だった。豚小屋で……かつて、燈を買ったことがある。その最中ずっと、「可愛い」と下品に笑っていた。
「前の店の、お客様がいます」
「あ?それが……」
そこまで言いかけて、理解したらしい。燈の目を探るようにして見ると、「ヘマすんじゃねえぞ」とだけ呟いた。
ゴネる湊と光希に応えたい燈の攻防は、最終的に光希の「湊ならいけるでしょ」の一言で収まった。それでも互いに納得はいっていなかったが。
そして、当日。
「ねー湊、こっちで合ってる?」
運転手役として、葉月も参加することになった。助手席に座る湊はケースを抱えながら「おう、次は右」と指示を出す。
燈はと言えばまた光希に服を決めてもらい、男受けするような化粧をして後部座席に乗っていた。
「ねえ燈ちゃん、酔ってない?大丈夫?」
「大丈夫です」
「おい葉月、そんな気回すな!」
その怒号に、さすがにムッとした。自分が言われたのではなく、気遣いをしてくれた葉月に対して言われたことに対して苛立ったのだ。
「……光希さんと全然違う」
ぼそり、と呟く。するとそれが琴線に触れたのか、湊が振り向いてきた。
「あ?」
「光希さんはもっと優しくて、かっこよくて、いい人なのに。兄弟なんですよね?なのにそこまで違うんですか?」
「ああ!?お前なんかが口出してきてんじゃねえよ!」
「あーもう、そろそろつくよー!」
葉月の言葉にハッとしたのか、湊は正面を向いた。燈も改めて、姿勢を正す。
駐車場に入ると、葉月は丁寧な運転で駐車した。そして湊に「もういいよ」と告げる。
「見たとこ、あっちが先に来てるみたいだね」
「そりゃそうだろ。おい行くぞ」
素っ気ない声でこちらを見ることなく言われるが、仕事モードなのかさっきのような刺々しさは感じない。なのでひとまず、頷く。
自分で後部座席を開くと、葉月が「気をつけて」と微笑んでいた。その微笑みはまるであの日の店での表情と同じで、慌てて頷く。
湊は燈を見ることなく、ケースを持ってずかずか歩き始める。それを、慌てて追った。内心光希なら絶対こんなことしないだろうに、と思ったがそれを言ったところでどうせあおるだけだ。
到着したのは、小さな船着場のガレージだった。
「この中か」
踏み込もうとする湊の腕を、慌てて引っ張った。それに驚いた顔を見せたが、すぐに不機嫌そうな顔をしてくる。
「んだよ、触んな」
「嫌な音が、します」
「あ?」
耳の奥が、まるでぐらつくような。嫌な感触がする。
豚小屋で燈を犯すために待っていた男たちが、射精をしたいがために苛立って地面を擦る音と同じだった。その音だけは、何故かよく聞こえた。
「……嫌な待ち方をされてます。何かイライラしてるような」
「俺はお前の語彙力の無さにイライラしてるけど」
それでも感じるところはあったのか、湊は「来い」とだけ言って腕を振り解いた。すると入り口ではなく、裏手に回り込んだ。
「足音立てるなよ」
頷き、慎重に歩く。幸い用意されていた靴はヒールもなく、足音を消すことは容易かった。
ガレージの後ろに回ると、窓があった。老朽化のせいで割れているが、むしろ中が見やすい。湊はポケットから双眼鏡を取り出し、離れた場所から窓の中を覗いた。そして、舌打ちする。
「はっ、3人か」
双眼鏡を使わずとも、なんとなく中の影だけなら見えた。
入り口からは見えないように、壁際に3人配置されている。その手元を見れば、何を使おうとしているかなど予測は簡単に出来る。
「……おおかた、開けた途端に蜂の巣にするところって気か。かと言ってこの窓から入ったところで照準がこっち向くだけ……と」
「じゃあ取引は」
「する気なんてどう考えても無いだろ、あれは」
なんとなく気になって、燈は湊の手から双眼鏡を取った。「おい、勝手なことすんな」と噛みつく湊を無視して双眼鏡を覗き込む。
「……やっぱり、いる」
「あ?」
入り口を囲むうちの一人は、知っている顔だった。豚小屋で……かつて、燈を買ったことがある。その最中ずっと、「可愛い」と下品に笑っていた。
「前の店の、お客様がいます」
「あ?それが……」
そこまで言いかけて、理解したらしい。燈の目を探るようにして見ると、「ヘマすんじゃねえぞ」とだけ呟いた。
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