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改めて、鏡を見る。結婚式場に来た経験は何度もあるが、この式場は初めてだった。
「あっちゃん」
声がした方を見る。そこには、黒いスーツを綺麗に纏った焔がいた。他の招待客の、とくに女性が何度もちらちら彼を見ていた事に熱田は気付いていた。
「よっす。会えた?」
「まあ、身内だし。あっちゃん席俺の隣だよ」
「えっ、俺藍澤家の一員状態なの?てか藍澤パパもママもめちゃくちゃ泣いてたねさっき」
焔は熱田の身支度を見届けると、一緒に手洗い場を出た。待ち構えていた女性達を適当にあしらいながら、二人で歩く。
「そういやお前、いつ結婚すんの?もう同棲してるんだろ」
「何それ、姉ちゃん情報?ちょっとごたついててまだしばらく無理かな、俺は早くしたいけど」
どうやら彼はこの2年の間に運命の相手と出会ったらしく、今まで以上に他の女性に対して冷淡になっていた。その彼女を見てみたいと言うと、すごく冷たい視線を射られた。
席には、まだ人がまばらだった。2人で並んで、綺麗なクロスの敷かれたテーブルを前に着席する。
「あっちゃんはどうなの、いい人いないの。姉ちゃん言ってたけど、彼女いた事無いんでしょ」
「あかりんくっそお喋りじゃん。まあそだけど」
「モテそうなのに」
それをお前が言うか、と言いたかったのを笑いとともに堪えながら、熱田は「ほむほむには言っちゃおうかなあ」と呟いた。
「俺、恋愛出来ないの。あの感情を分かってないだけかもだけど、どうもしっくり来ないんだよねえ。セックスだけならいくらでも出来るんだけど、マジで性欲処理としか思えなくてさ」
「その性欲が恋愛、とかでなく?」
「って思おうと思ったりしたことが俺にもありました」
気を利かせた職員が、食前酒としてグラスを持ってきた。ありがたく受け取って、口を付ける。
「でもさ。あかりんに恋するひーとひーに恋するあかりんを見て、その希望も潰えたよねえ」
「へえ」
「どっちも好きだよ、限りなく。ほむほむもね。でも恋愛じゃないんだって、あの二人を見てるとすっげー思うわけよ。だからこそ、あの二人を観察してたってのはある」
焔はグラスを空けると、図々しくも次を注いでもらっていた。そのまま、うなずく。
「俺はあの二人それぞれに感情移入して、自己投影して擬似恋愛をしてた気分になってたってこと」
「なるほど、つまりマルチタイプの生霊って事か」
「……ほむほむの彼女さん本当すごいなって、ほむほむと話してると思うよ」
少しずつ、招待客達が席に着き始めた。灯の両親が嬉し泣きしている向こう側に、ちらりと見覚えのある中年女性が見えた。和解したのかな、と思いながらも口は閉じておいた。
『お待たせいたしました』
お喋りしていた招待客が皆、口を閉じた。一瞬のしんとした空気の中、扉がゆっくり開く音が響く。二人が、やってきた。
ウエディングドレスとタキシードからお色直しを終えた二人は、どこか緊張した面持ちだった。それでも、幸せが滲み出ているのが分かる。
「はは、ひーも泣いてたんじゃん」
響の目には、化粧で誤魔化したらしき涙の跡があった。それは、長年一緒にいた熱田だからこそ分かった。
「おめでと、ひーもあかりんも」
_初味ジャムと折れたスプーン_
(2023.4.30から「初味ジャムと折れたスプーン~焔~」が始まります。
別冊なので、作者ページからリンクへとんでくださると幸いです)
「あっちゃん」
声がした方を見る。そこには、黒いスーツを綺麗に纏った焔がいた。他の招待客の、とくに女性が何度もちらちら彼を見ていた事に熱田は気付いていた。
「よっす。会えた?」
「まあ、身内だし。あっちゃん席俺の隣だよ」
「えっ、俺藍澤家の一員状態なの?てか藍澤パパもママもめちゃくちゃ泣いてたねさっき」
焔は熱田の身支度を見届けると、一緒に手洗い場を出た。待ち構えていた女性達を適当にあしらいながら、二人で歩く。
「そういやお前、いつ結婚すんの?もう同棲してるんだろ」
「何それ、姉ちゃん情報?ちょっとごたついててまだしばらく無理かな、俺は早くしたいけど」
どうやら彼はこの2年の間に運命の相手と出会ったらしく、今まで以上に他の女性に対して冷淡になっていた。その彼女を見てみたいと言うと、すごく冷たい視線を射られた。
席には、まだ人がまばらだった。2人で並んで、綺麗なクロスの敷かれたテーブルを前に着席する。
「あっちゃんはどうなの、いい人いないの。姉ちゃん言ってたけど、彼女いた事無いんでしょ」
「あかりんくっそお喋りじゃん。まあそだけど」
「モテそうなのに」
それをお前が言うか、と言いたかったのを笑いとともに堪えながら、熱田は「ほむほむには言っちゃおうかなあ」と呟いた。
「俺、恋愛出来ないの。あの感情を分かってないだけかもだけど、どうもしっくり来ないんだよねえ。セックスだけならいくらでも出来るんだけど、マジで性欲処理としか思えなくてさ」
「その性欲が恋愛、とかでなく?」
「って思おうと思ったりしたことが俺にもありました」
気を利かせた職員が、食前酒としてグラスを持ってきた。ありがたく受け取って、口を付ける。
「でもさ。あかりんに恋するひーとひーに恋するあかりんを見て、その希望も潰えたよねえ」
「へえ」
「どっちも好きだよ、限りなく。ほむほむもね。でも恋愛じゃないんだって、あの二人を見てるとすっげー思うわけよ。だからこそ、あの二人を観察してたってのはある」
焔はグラスを空けると、図々しくも次を注いでもらっていた。そのまま、うなずく。
「俺はあの二人それぞれに感情移入して、自己投影して擬似恋愛をしてた気分になってたってこと」
「なるほど、つまりマルチタイプの生霊って事か」
「……ほむほむの彼女さん本当すごいなって、ほむほむと話してると思うよ」
少しずつ、招待客達が席に着き始めた。灯の両親が嬉し泣きしている向こう側に、ちらりと見覚えのある中年女性が見えた。和解したのかな、と思いながらも口は閉じておいた。
『お待たせいたしました』
お喋りしていた招待客が皆、口を閉じた。一瞬のしんとした空気の中、扉がゆっくり開く音が響く。二人が、やってきた。
ウエディングドレスとタキシードからお色直しを終えた二人は、どこか緊張した面持ちだった。それでも、幸せが滲み出ているのが分かる。
「はは、ひーも泣いてたんじゃん」
響の目には、化粧で誤魔化したらしき涙の跡があった。それは、長年一緒にいた熱田だからこそ分かった。
「おめでと、ひーもあかりんも」
_初味ジャムと折れたスプーン_
(2023.4.30から「初味ジャムと折れたスプーン~焔~」が始まります。
別冊なので、作者ページからリンクへとんでくださると幸いです)
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