42 / 43
42.計画始動中。
しおりを挟む
「ふーん、いいんじゃない。外には出せないけど」
「それっていいに入るの……!?」
久々にSouとオフが重なったひじりは、彼を家に呼んでいた。何だかんだ、引っ越してからメンバーを家に呼ぶのは初めてになる。玲雅はこちらを見ながら、キッチンで珈琲を淹れていた。
ひじりの書いた譜面を改めて見返しながら、Souは何度も頷く。
「いや、真面目に初の作曲にしてはいいとこいってると思うよ。何で作ったの?弦?」
「う、ううん。打ち込み。Souくんの真似した」
「なんか最近やたら背後に視線感じると思ったらそういうことだったんだ。別に言ってくれれば教えたのに。というか打ち込みの譜をわざわざ紙に写すとか」
ひじりは作詞はするものの、作曲に関しては初めての挑戦だった。しかし作曲に関して業界からも一定の評価を得ているSouにボロクソ言われなかっただけで、安心してしまう。
玲雅がコーヒーを運んできた。そのまま、Souの背後に寄る。
「そろそろ俺も見たいんだけど。あ、Souクン砂糖とミルクは?」
「ブラックで大丈夫、ありがとう」
「あ、あの。修正箇所終わってからでもいいでしょうか……」
その後Souの手伝いをもらいながら、違和感ある箇所を修正していった。正直楽器もPCも無しに修正指示を出来るSouは、本当に天才だと思った。しかし実際その内容で打ち込みをしてみると、一気に曲の質が上がったのを実感した。
改めて完成した曲を、玲雅は何度もリピートして聞き直していた。ひじりはそんな彼をハラハラしながら見守るも、彼の口もとが緩んでいることになんだか安心した。
「じゃ、俺帰るね」
「Souくんありがとう、ごめんねオフなのに」
「貸し1ね」
そう言って彼が出て行ってから、ひじりは改めて玲雅の作業部屋に入った。玲雅はすでに、デスクに向き直っている。ヘッドホンを付けながら、テーブルにペン先をコンコン叩きつけていた。なのでひとまず、ひじりは作業部屋を出た。
……二人で、曲を作ろうと言い出したのは玲雅だった。自分がひじりのものであるという証明をしたいと言われた時、ひじりは申し訳ないやら嬉しいやらで気が狂いそうだった。
発表したての『IC Guys』のニューアルバムを再生する。以前言っていたボーナストラックを流しながら、ひじりは目を閉じた。
……三田玲雅は。『IC Guys』のボーカルであり、ひじりの恋人。その二つが、ここ最近でようやくきちんと結びついた気がした。
「あー!?Hijiriてめえ!お前さてはちょっと肥えたな!?」
「わーんごめんなさい幸せ太りですううう」
今日は、Reo主催の衣装作成会だ。ステージがなくても、Reoは衣装のデザインをこまめに変えたがる。そのため、時間のあるメンバーは時折呼ばれて測定などをしているのだが。
「うるっせえ言い訳すんな!落とせ!あと2キロは落とせ!お前スタイル悪くないんだから維持に力注げ!」
「いや胸はもっと増やした方がいい」
「Souお前もだぞ!お前は逆に痩せすぎ、もっと食え!この後二人で焼肉はしごすんぞ!」
「私は!?」
「お前は水以外禁止!」
いつに無く、Reoはどうも檄をとばしているように見える。普段は比較的温厚なのに、どこか不思議だった。
そもそも10周年ライブを終えてから、今はほんの少しの休養期間として意識的に表舞台に出る仕事をセーブしている状態だ。それなのになぜ、急にこんなにはりきりだしているのだろうか。
Reoの指示を受けてNaokiが作成したダイエットメニューを見てげんなりしながら、ひじりは溜息を吐いた。
『Hijiriちゃん、ちょっとお話があるんですけど』
「え、え、何ですか」
急に、チーフマネージャーから電話がかかってきた。その神妙な声に、どうも冷や汗をかいてしまう。すると、チーフマネージャーが重々しく口を開いた。
『あのですね、明日から二週間。お休みしてください』
「えっ……め、珍しい。なんでですか?そんなの、おばあちゃん亡くなった時以来じゃ」
『Reoくん指示です。「あいつロケ弁で多分肥えてる」と』
「理由くだらな!!」
しかし、チーフマネージャーにまでそんな指示を出させるとは。そんなにまずいのだろうか、と思いながらひじりは脇腹を摘んだ。確かに、ここ数年の中ではつまめる体型にはなっているかもしれない。
……玲雅には何も言われない。そして玲雅の体型は一切変化が無い。その事に、逆に危機感が生まれてきた。
「わ、分かりました。頑張って痩せます!」
『その意気です!ちなみにReoくんはそのために新衣装作ってるらしいので、それを頭に入れておけって言ってました』
「何であの人そんなにガチなの!?」
訳が分からない。しかし、仕方ない。何だかんだメンバーで一番怒ると怖いのは彼だ、あまり敵に回したくはない。
『あと、Izumiさんの伝手でエステのチケットもらったのでそれも送ります。お休み中行ってきてくださいとの事です』
「あ、それ旦那さんのお店じゃ!?いいんですか!?」
『あとTakaくんが「お前俺を売りやがったな!」って言ってましたけど何したんですか?』
「……あー、の、ノーコメントで……」
「それっていいに入るの……!?」
久々にSouとオフが重なったひじりは、彼を家に呼んでいた。何だかんだ、引っ越してからメンバーを家に呼ぶのは初めてになる。玲雅はこちらを見ながら、キッチンで珈琲を淹れていた。
ひじりの書いた譜面を改めて見返しながら、Souは何度も頷く。
「いや、真面目に初の作曲にしてはいいとこいってると思うよ。何で作ったの?弦?」
「う、ううん。打ち込み。Souくんの真似した」
「なんか最近やたら背後に視線感じると思ったらそういうことだったんだ。別に言ってくれれば教えたのに。というか打ち込みの譜をわざわざ紙に写すとか」
ひじりは作詞はするものの、作曲に関しては初めての挑戦だった。しかし作曲に関して業界からも一定の評価を得ているSouにボロクソ言われなかっただけで、安心してしまう。
玲雅がコーヒーを運んできた。そのまま、Souの背後に寄る。
「そろそろ俺も見たいんだけど。あ、Souクン砂糖とミルクは?」
「ブラックで大丈夫、ありがとう」
「あ、あの。修正箇所終わってからでもいいでしょうか……」
その後Souの手伝いをもらいながら、違和感ある箇所を修正していった。正直楽器もPCも無しに修正指示を出来るSouは、本当に天才だと思った。しかし実際その内容で打ち込みをしてみると、一気に曲の質が上がったのを実感した。
改めて完成した曲を、玲雅は何度もリピートして聞き直していた。ひじりはそんな彼をハラハラしながら見守るも、彼の口もとが緩んでいることになんだか安心した。
「じゃ、俺帰るね」
「Souくんありがとう、ごめんねオフなのに」
「貸し1ね」
そう言って彼が出て行ってから、ひじりは改めて玲雅の作業部屋に入った。玲雅はすでに、デスクに向き直っている。ヘッドホンを付けながら、テーブルにペン先をコンコン叩きつけていた。なのでひとまず、ひじりは作業部屋を出た。
……二人で、曲を作ろうと言い出したのは玲雅だった。自分がひじりのものであるという証明をしたいと言われた時、ひじりは申し訳ないやら嬉しいやらで気が狂いそうだった。
発表したての『IC Guys』のニューアルバムを再生する。以前言っていたボーナストラックを流しながら、ひじりは目を閉じた。
……三田玲雅は。『IC Guys』のボーカルであり、ひじりの恋人。その二つが、ここ最近でようやくきちんと結びついた気がした。
「あー!?Hijiriてめえ!お前さてはちょっと肥えたな!?」
「わーんごめんなさい幸せ太りですううう」
今日は、Reo主催の衣装作成会だ。ステージがなくても、Reoは衣装のデザインをこまめに変えたがる。そのため、時間のあるメンバーは時折呼ばれて測定などをしているのだが。
「うるっせえ言い訳すんな!落とせ!あと2キロは落とせ!お前スタイル悪くないんだから維持に力注げ!」
「いや胸はもっと増やした方がいい」
「Souお前もだぞ!お前は逆に痩せすぎ、もっと食え!この後二人で焼肉はしごすんぞ!」
「私は!?」
「お前は水以外禁止!」
いつに無く、Reoはどうも檄をとばしているように見える。普段は比較的温厚なのに、どこか不思議だった。
そもそも10周年ライブを終えてから、今はほんの少しの休養期間として意識的に表舞台に出る仕事をセーブしている状態だ。それなのになぜ、急にこんなにはりきりだしているのだろうか。
Reoの指示を受けてNaokiが作成したダイエットメニューを見てげんなりしながら、ひじりは溜息を吐いた。
『Hijiriちゃん、ちょっとお話があるんですけど』
「え、え、何ですか」
急に、チーフマネージャーから電話がかかってきた。その神妙な声に、どうも冷や汗をかいてしまう。すると、チーフマネージャーが重々しく口を開いた。
『あのですね、明日から二週間。お休みしてください』
「えっ……め、珍しい。なんでですか?そんなの、おばあちゃん亡くなった時以来じゃ」
『Reoくん指示です。「あいつロケ弁で多分肥えてる」と』
「理由くだらな!!」
しかし、チーフマネージャーにまでそんな指示を出させるとは。そんなにまずいのだろうか、と思いながらひじりは脇腹を摘んだ。確かに、ここ数年の中ではつまめる体型にはなっているかもしれない。
……玲雅には何も言われない。そして玲雅の体型は一切変化が無い。その事に、逆に危機感が生まれてきた。
「わ、分かりました。頑張って痩せます!」
『その意気です!ちなみにReoくんはそのために新衣装作ってるらしいので、それを頭に入れておけって言ってました』
「何であの人そんなにガチなの!?」
訳が分からない。しかし、仕方ない。何だかんだメンバーで一番怒ると怖いのは彼だ、あまり敵に回したくはない。
『あと、Izumiさんの伝手でエステのチケットもらったのでそれも送ります。お休み中行ってきてくださいとの事です』
「あ、それ旦那さんのお店じゃ!?いいんですか!?」
『あとTakaくんが「お前俺を売りやがったな!」って言ってましたけど何したんですか?』
「……あー、の、ノーコメントで……」
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m

地味女だけど次期社長と同棲してます。―昔こっぴどく振った男の子が、実は御曹子でした―
千堂みくま
恋愛
「まりか…さん」なんで初対面から名前呼び? 普通は名字じゃないの?? 北条建設に勤める地味なOL恩田真梨花は、経済的な理由から知り合ったばかりの次期社長・北条綾太と同棲することになってしまう。彼は家事の代償として同棲を持ちかけ、真梨花は戸惑いながらも了承し彼のマンションで家事代行を始める。綾太は初対面から真梨花に対して不思議な言動を繰り返していたが、とうとうある夜にその理由が明かされた。「やっと気が付いたの? まりかちゃん」彼はそう囁いて、真梨花をソファに押し倒し――。○強がりなくせに鈍いところのある真梨花が、御曹子の綾太と結ばれるシンデレラ・ストーリー。○第15回恋愛小説大賞に参加しています。もしよろしければ応援お願いいたします。
禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる