【R18あり】推しに溺愛されるのが私とか!

湖霧どどめ

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38.え、それもう言われてるようなものじゃない?

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「ちょっと玲雅!あんたねえ、こんな色の配置ぐちゃぐちゃに見えちゃうじゃないの!やーねえ私の色彩感覚ちょっとは臍の緒通して分けてあげりゃよかったわ!ねえひじりちゃん!」
「はわ、はっわわわわわ」
「母さん、ひじり困ってる」

 10周年ライブを大盛り上がりの内に終えて、早1ヶ月。ひじりの引っ越しが始まっていた。
 本当は記者からの目も避けるくらい静かに行うつもりで、引っ越し社も事務所が手配していた。それなのに、部屋の中はあまりにも騒がしい。その原因は、一人の妙齢の女性だった。

「あらやだ!ひじりちゃんベッドシーツ買ってないの!?いいわよいいわよ!私が見繕ってあげる!色は何が好き!?やっぱりメンバーカラーのガーネットレッドかしら!ああでも仕事とプライベートは分けておきたい派?私もよ!」
「あわわわわわわわ」
「母さん帰ってくれそろそろ。父さんからずっと電話が鳴ってるんだけど」
「絶対嫌よ!母さんのこの勢いは父さん如きには止められないわ!」

 ……玲雅のキャラも、そこそこ濃いとは思っていた。しかし、この母親に比べればおとなしいものだ。そう、痛感していた。
 玲雅の両親は、ひじりの父が退出したあとに即座に乗り込んできた。とくに母親……みやこの方はひじりを見るなり「娘がアイドルとか!最高!」とすぐさま抱きついていたのだ。比較的常識人らしき彼女の夫が謝りながら引き剥がしてくれたが。ちなみにその間の玲雅はずっとしかめ面だった。

「そもそも、今まで放ったらかしだったくせに。何で急に帰ってきたんだよ」

 玲雅はどこか不機嫌そうだった。あまり見るものでないので少しびくりとしたが、みやこからすれば気にならないらしい。あっけらかんに笑いながら、バインダーとペンを用意し始めた。

「違うわよ、やっと帰ってこれるようになったのよ。私達だって反省してるのよ、会えて年に一回だったっていうこと」
「……そう」

 玲雅は、自分の両親の事をあまり話したがらなかった。言いたくないのなら聞かない方がいいのか、などと思っていたが……どうやら、ちょっとした当てつけもあったらしい。
 ただ、どこかそういったところが謎でしかなかった玲雅の裏側を知ってどこか嬉しい自分もいる。付き合いたての頃は、拒否反応まで出ていたというのにだ。

「心配しなくても今日の夕方には飛行機よ。父さんも空港で落ち合うわ」
「その父さんから『待ち合わせは正午』ってメッセージが来てるけど」
「そうだったかしらー!」

 けらけら笑いながら凄まじいスピードでルームコーディネート案を仕上げるみやこの手つきを、ひじりは珍獣でも見るような目つきで見てしまう。Reoが見ると感動で卒倒しそうだ。

「ほらどう、ひじりちゃん!ひじりちゃんの寝室こんな感じで!好みはなんとなく衣装や服を参考にしたわ!」
「す、すすすすごく素敵です!何これ!ホテルみたい!えっこんな部屋になるんですか!?本職デザイナーすごっ!」
「ひじり、無理しなくていい」

 そう言う玲雅はずっとひじりを後ろから抱きすくめていた。そんな玲雅に、みやこは「あんたのもあるわよ」ともう一枚案を見せつける。そんな彼女を、心底呆れたように玲雅は見つめた。

「こうなるからリモートで済ませたかったんだよ……なのに帰ってくるとか」
「あららやかましい息子ですこと!」

 あまりの濃いキャラクターに圧倒されながらも、実際ひじりはみやこのデザインに見入っていた。デザイナーならではの個性の強さはさしおいて、本当にひじりの好みが綺麗に反映されている。素直に感動していた。
 そんなひじりを嬉しそうに見ながら、みやこは「ところで」と口にした。

「あなた達、式はどうするの?」
「ふぉえっ」
「母さん」

 玲雅にいさめられても、みやこは唇を尖らせるだけだった。

「だって世間様はもう認めてくれてるんでしょ?なら入籍しちゃってもいいじゃない」
「ほあ、わ、はわわわわわ」
「もしもし父さん、母さん捕まえにきて頼むから」

 結局こちらへ向かってきてくれていたらしい玲雅の父がすぐさまやってきて、みやこの首根っこを掴んで玲雅の家を出ていった。ちなみに彼はずっと謝りたおしていた。
 嵐が去ったかのような静寂。切り開いたのは、玲雅の方だった。

「ひじり、大丈夫?」
「だ、大丈夫です。あの……お母様、面白いですね……」
「そう?ならよかったけど」

 それよりも、気になることがある。それを察したのか、玲雅は溜息を吐いた。

「こればかりは、他人の指図ではやらないから」
「そ、そうですよねっ!」

 さすがにこの手の話は、心臓が持ちそうにない。しかし、玲雅の手はひじりのあごにかかった。そのまま、口付けられる。
 すぐに離された唇から、言葉が漏れてきた。

「……言っておくけど、指図は受けないってだけだから。覚悟はしておいてね」
「ひゃ、ひゃい……」

 だめだ、死んでしまいそうだ。そんなひじりの気を知ってか知らずか、玲雅はもう一度口付けてきた。その仕草は、まるで何かを考えているかのようだった。
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