38 / 43
38.え、それもう言われてるようなものじゃない?
しおりを挟む
「ちょっと玲雅!あんたねえ、こんな色の配置ぐちゃぐちゃに見えちゃうじゃないの!やーねえ私の色彩感覚ちょっとは臍の緒通して分けてあげりゃよかったわ!ねえひじりちゃん!」
「はわ、はっわわわわわ」
「母さん、ひじり困ってる」
10周年ライブを大盛り上がりの内に終えて、早1ヶ月。ひじりの引っ越しが始まっていた。
本当は記者からの目も避けるくらい静かに行うつもりで、引っ越し社も事務所が手配していた。それなのに、部屋の中はあまりにも騒がしい。その原因は、一人の妙齢の女性だった。
「あらやだ!ひじりちゃんベッドシーツ買ってないの!?いいわよいいわよ!私が見繕ってあげる!色は何が好き!?やっぱりメンバーカラーのガーネットレッドかしら!ああでも仕事とプライベートは分けておきたい派?私もよ!」
「あわわわわわわわ」
「母さん帰ってくれそろそろ。父さんからずっと電話が鳴ってるんだけど」
「絶対嫌よ!母さんのこの勢いは父さん如きには止められないわ!」
……玲雅のキャラも、そこそこ濃いとは思っていた。しかし、この母親に比べればおとなしいものだ。そう、痛感していた。
玲雅の両親は、ひじりの父が退出したあとに即座に乗り込んできた。とくに母親……みやこの方はひじりを見るなり「娘がアイドルとか!最高!」とすぐさま抱きついていたのだ。比較的常識人らしき彼女の夫が謝りながら引き剥がしてくれたが。ちなみにその間の玲雅はずっとしかめ面だった。
「そもそも、今まで放ったらかしだったくせに。何で急に帰ってきたんだよ」
玲雅はどこか不機嫌そうだった。あまり見るものでないので少しびくりとしたが、みやこからすれば気にならないらしい。あっけらかんに笑いながら、バインダーとペンを用意し始めた。
「違うわよ、やっと帰ってこれるようになったのよ。私達だって反省してるのよ、会えて年に一回だったっていうこと」
「……そう」
玲雅は、自分の両親の事をあまり話したがらなかった。言いたくないのなら聞かない方がいいのか、などと思っていたが……どうやら、ちょっとした当てつけもあったらしい。
ただ、どこかそういったところが謎でしかなかった玲雅の裏側を知ってどこか嬉しい自分もいる。付き合いたての頃は、拒否反応まで出ていたというのにだ。
「心配しなくても今日の夕方には飛行機よ。父さんも空港で落ち合うわ」
「その父さんから『待ち合わせは正午』ってメッセージが来てるけど」
「そうだったかしらー!」
けらけら笑いながら凄まじいスピードでルームコーディネート案を仕上げるみやこの手つきを、ひじりは珍獣でも見るような目つきで見てしまう。Reoが見ると感動で卒倒しそうだ。
「ほらどう、ひじりちゃん!ひじりちゃんの寝室こんな感じで!好みはなんとなく衣装や服を参考にしたわ!」
「す、すすすすごく素敵です!何これ!ホテルみたい!えっこんな部屋になるんですか!?本職デザイナーすごっ!」
「ひじり、無理しなくていい」
そう言う玲雅はずっとひじりを後ろから抱きすくめていた。そんな玲雅に、みやこは「あんたのもあるわよ」ともう一枚案を見せつける。そんな彼女を、心底呆れたように玲雅は見つめた。
「こうなるからリモートで済ませたかったんだよ……なのに帰ってくるとか」
「あららやかましい息子ですこと!」
あまりの濃いキャラクターに圧倒されながらも、実際ひじりはみやこのデザインに見入っていた。デザイナーならではの個性の強さはさしおいて、本当にひじりの好みが綺麗に反映されている。素直に感動していた。
そんなひじりを嬉しそうに見ながら、みやこは「ところで」と口にした。
「あなた達、式はどうするの?」
「ふぉえっ」
「母さん」
玲雅にいさめられても、みやこは唇を尖らせるだけだった。
「だって世間様はもう認めてくれてるんでしょ?なら入籍しちゃってもいいじゃない」
「ほあ、わ、はわわわわわ」
「もしもし父さん、母さん捕まえにきて頼むから」
結局こちらへ向かってきてくれていたらしい玲雅の父がすぐさまやってきて、みやこの首根っこを掴んで玲雅の家を出ていった。ちなみに彼はずっと謝りたおしていた。
嵐が去ったかのような静寂。切り開いたのは、玲雅の方だった。
「ひじり、大丈夫?」
「だ、大丈夫です。あの……お母様、面白いですね……」
「そう?ならよかったけど」
それよりも、気になることがある。それを察したのか、玲雅は溜息を吐いた。
「こればかりは、他人の指図ではやらないから」
「そ、そうですよねっ!」
さすがにこの手の話は、心臓が持ちそうにない。しかし、玲雅の手はひじりのあごにかかった。そのまま、口付けられる。
すぐに離された唇から、言葉が漏れてきた。
「……言っておくけど、指図は受けないってだけだから。覚悟はしておいてね」
「ひゃ、ひゃい……」
だめだ、死んでしまいそうだ。そんなひじりの気を知ってか知らずか、玲雅はもう一度口付けてきた。その仕草は、まるで何かを考えているかのようだった。
「はわ、はっわわわわわ」
「母さん、ひじり困ってる」
10周年ライブを大盛り上がりの内に終えて、早1ヶ月。ひじりの引っ越しが始まっていた。
本当は記者からの目も避けるくらい静かに行うつもりで、引っ越し社も事務所が手配していた。それなのに、部屋の中はあまりにも騒がしい。その原因は、一人の妙齢の女性だった。
「あらやだ!ひじりちゃんベッドシーツ買ってないの!?いいわよいいわよ!私が見繕ってあげる!色は何が好き!?やっぱりメンバーカラーのガーネットレッドかしら!ああでも仕事とプライベートは分けておきたい派?私もよ!」
「あわわわわわわわ」
「母さん帰ってくれそろそろ。父さんからずっと電話が鳴ってるんだけど」
「絶対嫌よ!母さんのこの勢いは父さん如きには止められないわ!」
……玲雅のキャラも、そこそこ濃いとは思っていた。しかし、この母親に比べればおとなしいものだ。そう、痛感していた。
玲雅の両親は、ひじりの父が退出したあとに即座に乗り込んできた。とくに母親……みやこの方はひじりを見るなり「娘がアイドルとか!最高!」とすぐさま抱きついていたのだ。比較的常識人らしき彼女の夫が謝りながら引き剥がしてくれたが。ちなみにその間の玲雅はずっとしかめ面だった。
「そもそも、今まで放ったらかしだったくせに。何で急に帰ってきたんだよ」
玲雅はどこか不機嫌そうだった。あまり見るものでないので少しびくりとしたが、みやこからすれば気にならないらしい。あっけらかんに笑いながら、バインダーとペンを用意し始めた。
「違うわよ、やっと帰ってこれるようになったのよ。私達だって反省してるのよ、会えて年に一回だったっていうこと」
「……そう」
玲雅は、自分の両親の事をあまり話したがらなかった。言いたくないのなら聞かない方がいいのか、などと思っていたが……どうやら、ちょっとした当てつけもあったらしい。
ただ、どこかそういったところが謎でしかなかった玲雅の裏側を知ってどこか嬉しい自分もいる。付き合いたての頃は、拒否反応まで出ていたというのにだ。
「心配しなくても今日の夕方には飛行機よ。父さんも空港で落ち合うわ」
「その父さんから『待ち合わせは正午』ってメッセージが来てるけど」
「そうだったかしらー!」
けらけら笑いながら凄まじいスピードでルームコーディネート案を仕上げるみやこの手つきを、ひじりは珍獣でも見るような目つきで見てしまう。Reoが見ると感動で卒倒しそうだ。
「ほらどう、ひじりちゃん!ひじりちゃんの寝室こんな感じで!好みはなんとなく衣装や服を参考にしたわ!」
「す、すすすすごく素敵です!何これ!ホテルみたい!えっこんな部屋になるんですか!?本職デザイナーすごっ!」
「ひじり、無理しなくていい」
そう言う玲雅はずっとひじりを後ろから抱きすくめていた。そんな玲雅に、みやこは「あんたのもあるわよ」ともう一枚案を見せつける。そんな彼女を、心底呆れたように玲雅は見つめた。
「こうなるからリモートで済ませたかったんだよ……なのに帰ってくるとか」
「あららやかましい息子ですこと!」
あまりの濃いキャラクターに圧倒されながらも、実際ひじりはみやこのデザインに見入っていた。デザイナーならではの個性の強さはさしおいて、本当にひじりの好みが綺麗に反映されている。素直に感動していた。
そんなひじりを嬉しそうに見ながら、みやこは「ところで」と口にした。
「あなた達、式はどうするの?」
「ふぉえっ」
「母さん」
玲雅にいさめられても、みやこは唇を尖らせるだけだった。
「だって世間様はもう認めてくれてるんでしょ?なら入籍しちゃってもいいじゃない」
「ほあ、わ、はわわわわわ」
「もしもし父さん、母さん捕まえにきて頼むから」
結局こちらへ向かってきてくれていたらしい玲雅の父がすぐさまやってきて、みやこの首根っこを掴んで玲雅の家を出ていった。ちなみに彼はずっと謝りたおしていた。
嵐が去ったかのような静寂。切り開いたのは、玲雅の方だった。
「ひじり、大丈夫?」
「だ、大丈夫です。あの……お母様、面白いですね……」
「そう?ならよかったけど」
それよりも、気になることがある。それを察したのか、玲雅は溜息を吐いた。
「こればかりは、他人の指図ではやらないから」
「そ、そうですよねっ!」
さすがにこの手の話は、心臓が持ちそうにない。しかし、玲雅の手はひじりのあごにかかった。そのまま、口付けられる。
すぐに離された唇から、言葉が漏れてきた。
「……言っておくけど、指図は受けないってだけだから。覚悟はしておいてね」
「ひゃ、ひゃい……」
だめだ、死んでしまいそうだ。そんなひじりの気を知ってか知らずか、玲雅はもう一度口付けてきた。その仕草は、まるで何かを考えているかのようだった。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛
冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる