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27.気をつけて行ってらっしゃい、色々な意味で。
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玲雅の寝支度が整うと、彼はひじりの手を引いた。どうやら、一緒のベッドで眠る気らしい。それでも広いベッドで、距離は取られていた。彼なりの気遣いなのだろう。
雪斗との電話を思い返し、ひじりの心は沈んでいた。玲雅に背を向けたまま、ひりひりと痛む胸の奥を抱きしめる。
……このまま、雪斗にいいようにされたところで。彼を愛する自信なんてないのに。それでも勝算があるのか。
「ひじり、寝た?」
唐突な声。身をよじると、玲雅がこちらを見ていた。
「起きてたんだ」
「……眠れないんです」
「何か悩み事?」
やはり、それくらいには気付くか。何も言えずにいたら、玲雅は「おいで」と腕を広げた。躊躇っていると、彼からやってきた。
包まれる感触。その温もりと香りは、ひじりを満たしていく。そして、溢れた。
震えながら泣くひじりを、玲雅は優しく撫でる。その感触が、あまりにも温かい。
玲雅の口から、聞いた事のないメロディが聞こえた。彼の声が、そっと耳を滑ってくる。この声が、いつも自分を救ってくれた。
「っ、う、うっ……」
しゃくりあげるひじりのために紡がれるメロディは、少しずつ止まって。そして、また紡がれて。それを、繰り返す。やがて、終わった。まだ、ひじりはしゃくりあげている。
「調子狂ってたね、俺。ごめん」
「な、何であや、まっ……」
「どんなひじりも好きだけど、やっぱり泣いてるのを見てると辛いな」
そんな事を言われてしまえば、こちらは泣くしかないのに。こんな人を、自分は裏切っている。
「大丈夫。俺がひじりを守るよ」
その声は、あまりにも優しかった。
翌日。この日は『SIX RED』総出でダンスレッスンだった。全員が揃う事など滅多に無いのだが、この日は全員で合わせた。かつて踊った曲も、時たま復習しないと体が忘れてしまう。
主にIzumiが主導、Naokiがサブとしてレッスンをコーチングする。ひじりは下手ではないが上手くもないため、高確率で目をつけられやすかった。
「うん、何とか感覚戻ってきたんじゃねえ?」
Naokiがそう言う頃には、全員がへとへとだった。何人かは床に突っ伏している。
「よし、Takaはソロのとこもう一回やっとくか」
「メインボーカルなのにソロフリ多いの疑問でしかない……」
ぶつくさ言いながらもNaokiに見守られレッスンを続けるTakaの脇で、ひじりはIzumiに恐る恐る近付いた。
「Izumiちゃん、夜時間ある?その、相談があって」
「いいけど、今日旦那帰ってくるんだよね。うちでもいい?」
「旦那さんがいいのであれば……」
Izumiの夫は、一般の男性だ。だからこそ荒れたのもある。
「何、彼氏の事?じゃあ旦那にも意見聞いてみる?」
「あ、その……どっちかといえば、Izumiちゃん個人に聞きたい事があって」
Izumiは不思議そうな顔をしたが、頷いてくれた。そしてそのまま、Takaのレッスンに入っていった。
さすがにこれ以上広げるのはよくない、とは思う。それでも、少し意見は聞きたかった。雪斗の事さえ言わなければ大丈夫だとも思った。
「Hijiri、『幸運剤』の俺らのところさあ」
こうやって仕事に打ち込んでいる方が、忘れられる気もする。ある意味、逃避だった。その分もあって打ち込めた分、今回はあまりあの二人に注意はされていないのだが。
体が動けなくなるまでひたすらフリの復習、そして次の曲のメロディの確認をNaokiとSouの3人で行う。休憩を挟むのが惜しい程、ひたすら動いていた。
そして、17時を少し過ぎた頃。慌ただしい足音と共に、チーフマネージャーがスタジオに駆け込んできた。
「Hijiriちゃん!大変です!みんなも聞いて!」
只事でない様子に、全員が背筋を伸ばす。チーフマネージャーが、床に何枚もの紙を置いた。全員が屈んで目を向ける。一番最初に声を上げたのは、Naokiだった。
「あいつ!!何で!?は!?」
Hijiriも、言葉を失っていた。全員が同じだったらしく、視線をHijiriに向けた。そして、チーフマネージャーも普段からは考えられないくらいの狼狽した様子で頭を抱える。
「……っIzumiちゃんの時より悪質ですよ、これ!一体なんで……そもそも、何で撮らせたんですか!」
「いや、これどう見てもHijiri寝てるだろ。これはあっちが売ったな。どう見てもこれ、自撮りだろ。あいつの」
Reoのある意味呑気な言葉が浮いてしまう程の、ひりついた空気だった。
ひじりは混乱していた。あまりに想定外過ぎる。慌てて、スマートフォンを取りにいく。着信は……雪斗から、数十件入っていた。
何故、こんな事を。
「おいHijiri!」
Naokiの言葉に、慌てて振り返る。彼は余程苛ついているらしく、犬歯を剥き出しにまでしていた。
「あっちの事務所行くぞ!他全員待機!いいな!」
「う、うぃっす!」
反射で返すTakaの隣で、心配そうにSouが見てきていた。慌てて身支度して、Naokiについていった。
雪斗との電話を思い返し、ひじりの心は沈んでいた。玲雅に背を向けたまま、ひりひりと痛む胸の奥を抱きしめる。
……このまま、雪斗にいいようにされたところで。彼を愛する自信なんてないのに。それでも勝算があるのか。
「ひじり、寝た?」
唐突な声。身をよじると、玲雅がこちらを見ていた。
「起きてたんだ」
「……眠れないんです」
「何か悩み事?」
やはり、それくらいには気付くか。何も言えずにいたら、玲雅は「おいで」と腕を広げた。躊躇っていると、彼からやってきた。
包まれる感触。その温もりと香りは、ひじりを満たしていく。そして、溢れた。
震えながら泣くひじりを、玲雅は優しく撫でる。その感触が、あまりにも温かい。
玲雅の口から、聞いた事のないメロディが聞こえた。彼の声が、そっと耳を滑ってくる。この声が、いつも自分を救ってくれた。
「っ、う、うっ……」
しゃくりあげるひじりのために紡がれるメロディは、少しずつ止まって。そして、また紡がれて。それを、繰り返す。やがて、終わった。まだ、ひじりはしゃくりあげている。
「調子狂ってたね、俺。ごめん」
「な、何であや、まっ……」
「どんなひじりも好きだけど、やっぱり泣いてるのを見てると辛いな」
そんな事を言われてしまえば、こちらは泣くしかないのに。こんな人を、自分は裏切っている。
「大丈夫。俺がひじりを守るよ」
その声は、あまりにも優しかった。
翌日。この日は『SIX RED』総出でダンスレッスンだった。全員が揃う事など滅多に無いのだが、この日は全員で合わせた。かつて踊った曲も、時たま復習しないと体が忘れてしまう。
主にIzumiが主導、Naokiがサブとしてレッスンをコーチングする。ひじりは下手ではないが上手くもないため、高確率で目をつけられやすかった。
「うん、何とか感覚戻ってきたんじゃねえ?」
Naokiがそう言う頃には、全員がへとへとだった。何人かは床に突っ伏している。
「よし、Takaはソロのとこもう一回やっとくか」
「メインボーカルなのにソロフリ多いの疑問でしかない……」
ぶつくさ言いながらもNaokiに見守られレッスンを続けるTakaの脇で、ひじりはIzumiに恐る恐る近付いた。
「Izumiちゃん、夜時間ある?その、相談があって」
「いいけど、今日旦那帰ってくるんだよね。うちでもいい?」
「旦那さんがいいのであれば……」
Izumiの夫は、一般の男性だ。だからこそ荒れたのもある。
「何、彼氏の事?じゃあ旦那にも意見聞いてみる?」
「あ、その……どっちかといえば、Izumiちゃん個人に聞きたい事があって」
Izumiは不思議そうな顔をしたが、頷いてくれた。そしてそのまま、Takaのレッスンに入っていった。
さすがにこれ以上広げるのはよくない、とは思う。それでも、少し意見は聞きたかった。雪斗の事さえ言わなければ大丈夫だとも思った。
「Hijiri、『幸運剤』の俺らのところさあ」
こうやって仕事に打ち込んでいる方が、忘れられる気もする。ある意味、逃避だった。その分もあって打ち込めた分、今回はあまりあの二人に注意はされていないのだが。
体が動けなくなるまでひたすらフリの復習、そして次の曲のメロディの確認をNaokiとSouの3人で行う。休憩を挟むのが惜しい程、ひたすら動いていた。
そして、17時を少し過ぎた頃。慌ただしい足音と共に、チーフマネージャーがスタジオに駆け込んできた。
「Hijiriちゃん!大変です!みんなも聞いて!」
只事でない様子に、全員が背筋を伸ばす。チーフマネージャーが、床に何枚もの紙を置いた。全員が屈んで目を向ける。一番最初に声を上げたのは、Naokiだった。
「あいつ!!何で!?は!?」
Hijiriも、言葉を失っていた。全員が同じだったらしく、視線をHijiriに向けた。そして、チーフマネージャーも普段からは考えられないくらいの狼狽した様子で頭を抱える。
「……っIzumiちゃんの時より悪質ですよ、これ!一体なんで……そもそも、何で撮らせたんですか!」
「いや、これどう見てもHijiri寝てるだろ。これはあっちが売ったな。どう見てもこれ、自撮りだろ。あいつの」
Reoのある意味呑気な言葉が浮いてしまう程の、ひりついた空気だった。
ひじりは混乱していた。あまりに想定外過ぎる。慌てて、スマートフォンを取りにいく。着信は……雪斗から、数十件入っていた。
何故、こんな事を。
「おいHijiri!」
Naokiの言葉に、慌てて振り返る。彼は余程苛ついているらしく、犬歯を剥き出しにまでしていた。
「あっちの事務所行くぞ!他全員待機!いいな!」
「う、うぃっす!」
反射で返すTakaの隣で、心配そうにSouが見てきていた。慌てて身支度して、Naokiについていった。
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