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21.面の皮の下、やけにどす黒いね。
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「うっ……」
玲雅の家で目覚めた時より、頭が重い。しかし、どうも感覚が似ていた。
慌てて顔を起こすと、もうそれは車ではなかった。知らない空間が広がっている。暗い部屋だ。しかし、自分はまたもやベッドに寝かせられていた。しかも、裸で。服は一切まとっていない。
「な、何これっ……!?」
慌てて、雪斗を探す。するとすぐに見つかった。ひじりの手首を、シーツの中から掴んでいた。彼もまた、裸だった。その表情は、暗くて見えない。ただ、おそらく微笑んでいるのだろうとは気配で分かった。
「おはよ、ひじり」
「ゆ、雪斗くんっ……これって」
「ひどいじゃん、ひじり」
どさり、と音を立てて雪斗はひじりを押し倒した。優しく見えて、拒否を許さないような力だった。
ふう、と小さな息が聞こえた。
「まだ俺の事思い出せない?顔変えた程度で分からなくなってるの?」
「な、何言ってるの……?」
「んー、じゃあこれで思い出すかな?」
照明がついた。あまりの眩しさで目が眩むも、すぐに視界があらわになる。その瞬間、血の気が引いた。
壁一面に貼られた写真。Hijiriとしてのものは、少なかった。むしろ、ほとんどが……鳥川ひじりの、学生時代のものばかりだった。自分の記憶ですら危うい程の。
絶句するひじりを置いて、雪斗はベッドから降りた。そして、部屋に置かれた電子キーボードの前に座る。そして、指をかけはじめた。
流れるメロディ。流暢に紡がれる、荒削りだが特徴的な音。一気に、冷や汗が流れた。
「な、何で……その曲っ……」
「はは、嬉しいな!やっぱり覚えててくれてた!」
「なんで!?なんで雪斗くんが!?」
声は、もはや金切り声だった。
開けてはいけない扉。それを、あらゆる武器でねじ開かれるような感覚。不快極まりない。血の気が引き、吐き気が上ってくる。
やっと、雪斗は演奏を終えた。そして、再びベッドにのぼってくる。そして、ひじりの肩を掴んだ。その目は、熱い。
「嬉しい……ひじり、やっとひじりが俺をまた……」
「待って、本当に待って、やだっ!」
「あー、悲しいなあ。そんな顔して。でも相変わらず可愛い」
身をよじる。すると、液が漏れてきた。絶望が、やってくる。
「久しぶりの再会なんだよ?俺、感動して二発も出しちゃった」
再び、押し倒される。その目は獣のそれだった。記憶にあるそれとは形が違うのに、何故だか分かった。
「椎名くんっ……?」
「あたり!ふふ、はは!あーっ、はは!やば、また勃った!」
頭が真っ白になった。
いつも、玲雅の隣でギターを弾いていて。柔らかく、微笑んでいて。巷では「王子様」まで呼ばれていたこの男は。
急に記憶が塗り替えられていく。いや、浮上してくるという方が正しいのか。
雪斗はひじりを抱きしめた。急いで逃げようとしても、力ではかなわない。未だに頭がふらつく。そんなひじりを抱き止めるようにして、雪斗はひじりを閉じ込める。
「……見守るだけで、俺はずーっと満足出来てたんだ。あの時の思い出だけで、俺は幸せに暮らせてたんだよ。なのになんで、他の男のものになるかなあ……?」
「あ、あれ、は!忘れてって!い、言ったのに……!」
「は?無理に決まってんじゃん。俺の人生で一番大切な想い出なんだよ?」
雪斗の舌が、ひじりの指を舐めるその動きだけで、ぞっとした。
「……君が、玲雅と結ばれなんて、しなければ。俺はずっと、有野雪斗として生き続けるつもりだったよ。でも駄目だ、もう」
「は、離して……」
「だって、『IC Guys』が好きならさ。俺でもよかったわけじゃん……っ」
「違う!そんなんじゃない!」
初めて、大きな声を出せた。雪斗の目は、とても冷えていた。それなのに、嫌な熱。
「……そうだね。でも、駄目だよひじり。君は、俺のものなんだよ。誰のものでもない限り、君は俺のものだったんだ……だって、俺だけだったでしょ?俺全部、見てきたから知ってるよっ……」
「椎名くん、離してっ……」
「嫌だ。俺の、俺の女なんだから!ひじりはずっと!中三のあの時、俺達は結ばれたでしょ!?」
どれだけ暴れても、緩んではくれない。むしろ、侵食されていくような。そんな、嫌な気配が這い寄ってくるような感覚。
玲雅の顔が、頭に浮かぶ。ぼろぼろ泣いてしまうひじりの目に、雪斗は口づけた。そのまま、舌で涙を拭う。
「大丈夫、今なら間に合う。俺が、玲雅に言ってあげる。『やっぱり玲雅様と付き合えないです』って。大丈夫、大丈夫だから」
「やめてっ!それだけは!」
「やめない。だって、最初に俺を裏切ったのは君なんだから。ほら、いい子で待ってて。スマホ取ってくるからさ」
そう言って、雪斗はひじりを解放した。ベッドに転がるひじりを名残惜しそうに見詰めて、彼はベッドから降りる。行かせてはならない、と本能で悟った。それが、いけなかった。
「椎名くん、待って!お願い!な、何でもするからっ……」
それを聞き、雪斗は止まった。その目には、甘い熱。罠だったと悟った時には、遅かった。
玲雅の家で目覚めた時より、頭が重い。しかし、どうも感覚が似ていた。
慌てて顔を起こすと、もうそれは車ではなかった。知らない空間が広がっている。暗い部屋だ。しかし、自分はまたもやベッドに寝かせられていた。しかも、裸で。服は一切まとっていない。
「な、何これっ……!?」
慌てて、雪斗を探す。するとすぐに見つかった。ひじりの手首を、シーツの中から掴んでいた。彼もまた、裸だった。その表情は、暗くて見えない。ただ、おそらく微笑んでいるのだろうとは気配で分かった。
「おはよ、ひじり」
「ゆ、雪斗くんっ……これって」
「ひどいじゃん、ひじり」
どさり、と音を立てて雪斗はひじりを押し倒した。優しく見えて、拒否を許さないような力だった。
ふう、と小さな息が聞こえた。
「まだ俺の事思い出せない?顔変えた程度で分からなくなってるの?」
「な、何言ってるの……?」
「んー、じゃあこれで思い出すかな?」
照明がついた。あまりの眩しさで目が眩むも、すぐに視界があらわになる。その瞬間、血の気が引いた。
壁一面に貼られた写真。Hijiriとしてのものは、少なかった。むしろ、ほとんどが……鳥川ひじりの、学生時代のものばかりだった。自分の記憶ですら危うい程の。
絶句するひじりを置いて、雪斗はベッドから降りた。そして、部屋に置かれた電子キーボードの前に座る。そして、指をかけはじめた。
流れるメロディ。流暢に紡がれる、荒削りだが特徴的な音。一気に、冷や汗が流れた。
「な、何で……その曲っ……」
「はは、嬉しいな!やっぱり覚えててくれてた!」
「なんで!?なんで雪斗くんが!?」
声は、もはや金切り声だった。
開けてはいけない扉。それを、あらゆる武器でねじ開かれるような感覚。不快極まりない。血の気が引き、吐き気が上ってくる。
やっと、雪斗は演奏を終えた。そして、再びベッドにのぼってくる。そして、ひじりの肩を掴んだ。その目は、熱い。
「嬉しい……ひじり、やっとひじりが俺をまた……」
「待って、本当に待って、やだっ!」
「あー、悲しいなあ。そんな顔して。でも相変わらず可愛い」
身をよじる。すると、液が漏れてきた。絶望が、やってくる。
「久しぶりの再会なんだよ?俺、感動して二発も出しちゃった」
再び、押し倒される。その目は獣のそれだった。記憶にあるそれとは形が違うのに、何故だか分かった。
「椎名くんっ……?」
「あたり!ふふ、はは!あーっ、はは!やば、また勃った!」
頭が真っ白になった。
いつも、玲雅の隣でギターを弾いていて。柔らかく、微笑んでいて。巷では「王子様」まで呼ばれていたこの男は。
急に記憶が塗り替えられていく。いや、浮上してくるという方が正しいのか。
雪斗はひじりを抱きしめた。急いで逃げようとしても、力ではかなわない。未だに頭がふらつく。そんなひじりを抱き止めるようにして、雪斗はひじりを閉じ込める。
「……見守るだけで、俺はずーっと満足出来てたんだ。あの時の思い出だけで、俺は幸せに暮らせてたんだよ。なのになんで、他の男のものになるかなあ……?」
「あ、あれ、は!忘れてって!い、言ったのに……!」
「は?無理に決まってんじゃん。俺の人生で一番大切な想い出なんだよ?」
雪斗の舌が、ひじりの指を舐めるその動きだけで、ぞっとした。
「……君が、玲雅と結ばれなんて、しなければ。俺はずっと、有野雪斗として生き続けるつもりだったよ。でも駄目だ、もう」
「は、離して……」
「だって、『IC Guys』が好きならさ。俺でもよかったわけじゃん……っ」
「違う!そんなんじゃない!」
初めて、大きな声を出せた。雪斗の目は、とても冷えていた。それなのに、嫌な熱。
「……そうだね。でも、駄目だよひじり。君は、俺のものなんだよ。誰のものでもない限り、君は俺のものだったんだ……だって、俺だけだったでしょ?俺全部、見てきたから知ってるよっ……」
「椎名くん、離してっ……」
「嫌だ。俺の、俺の女なんだから!ひじりはずっと!中三のあの時、俺達は結ばれたでしょ!?」
どれだけ暴れても、緩んではくれない。むしろ、侵食されていくような。そんな、嫌な気配が這い寄ってくるような感覚。
玲雅の顔が、頭に浮かぶ。ぼろぼろ泣いてしまうひじりの目に、雪斗は口づけた。そのまま、舌で涙を拭う。
「大丈夫、今なら間に合う。俺が、玲雅に言ってあげる。『やっぱり玲雅様と付き合えないです』って。大丈夫、大丈夫だから」
「やめてっ!それだけは!」
「やめない。だって、最初に俺を裏切ったのは君なんだから。ほら、いい子で待ってて。スマホ取ってくるからさ」
そう言って、雪斗はひじりを解放した。ベッドに転がるひじりを名残惜しそうに見詰めて、彼はベッドから降りる。行かせてはならない、と本能で悟った。それが、いけなかった。
「椎名くん、待って!お願い!な、何でもするからっ……」
それを聞き、雪斗は止まった。その目には、甘い熱。罠だったと悟った時には、遅かった。
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