【R18あり】推しに溺愛されるのが私とか!

湖霧どどめ

文字の大きさ
上 下
21 / 43

21.面の皮の下、やけにどす黒いね。

しおりを挟む
「うっ……」

 玲雅の家で目覚めた時より、頭が重い。しかし、どうも感覚が似ていた。
 慌てて顔を起こすと、もうそれは車ではなかった。知らない空間が広がっている。暗い部屋だ。しかし、自分はまたもやベッドに寝かせられていた。しかも、裸で。服は一切まとっていない。

「な、何これっ……!?」
 慌てて、雪斗を探す。するとすぐに見つかった。ひじりの手首を、シーツの中から掴んでいた。彼もまた、裸だった。その表情は、暗くて見えない。ただ、おそらく微笑んでいるのだろうとは気配で分かった。

「おはよ、ひじり」
「ゆ、雪斗くんっ……これって」
「ひどいじゃん、ひじり」

 どさり、と音を立てて雪斗はひじりを押し倒した。優しく見えて、拒否を許さないような力だった。
 ふう、と小さな息が聞こえた。

「まだ俺の事思い出せない?顔変えた程度で分からなくなってるの?」
「な、何言ってるの……?」
「んー、じゃあこれで思い出すかな?」

 照明がついた。あまりの眩しさで目が眩むも、すぐに視界があらわになる。その瞬間、血の気が引いた。
 壁一面に貼られた写真。Hijiriとしてのものは、少なかった。むしろ、ほとんどが……鳥川ひじりの、学生時代のものばかりだった。自分の記憶ですら危うい程の。
 絶句するひじりを置いて、雪斗はベッドから降りた。そして、部屋に置かれた電子キーボードの前に座る。そして、指をかけはじめた。
 流れるメロディ。流暢に紡がれる、荒削りだが特徴的な音。一気に、冷や汗が流れた。

「な、何で……その曲っ……」
「はは、嬉しいな!やっぱり覚えててくれてた!」
「なんで!?なんで雪斗くんが!?」

 声は、もはや金切り声だった。
 開けてはいけない扉。それを、あらゆる武器でねじ開かれるような感覚。不快極まりない。血の気が引き、吐き気が上ってくる。
 やっと、雪斗は演奏を終えた。そして、再びベッドにのぼってくる。そして、ひじりの肩を掴んだ。その目は、熱い。

「嬉しい……ひじり、やっとひじりが俺をまた……」
「待って、本当に待って、やだっ!」
「あー、悲しいなあ。そんな顔して。でも相変わらず可愛い」

 身をよじる。すると、液が漏れてきた。絶望が、やってくる。

「久しぶりの再会なんだよ?俺、感動して二発も出しちゃった」

 再び、押し倒される。その目は獣のそれだった。記憶にあるそれとは形が違うのに、何故だか分かった。

「椎名くんっ……?」
「あたり!ふふ、はは!あーっ、はは!やば、また勃った!」

 頭が真っ白になった。
 いつも、玲雅の隣でギターを弾いていて。柔らかく、微笑んでいて。巷では「王子様」まで呼ばれていたこの男は。
 急に記憶が塗り替えられていく。いや、浮上してくるという方が正しいのか。
 雪斗はひじりを抱きしめた。急いで逃げようとしても、力ではかなわない。未だに頭がふらつく。そんなひじりを抱き止めるようにして、雪斗はひじりを閉じ込める。

「……見守るだけで、俺はずーっと満足出来てたんだ。あの時の思い出だけで、俺は幸せに暮らせてたんだよ。なのになんで、他の男のものになるかなあ……?」
「あ、あれ、は!忘れてって!い、言ったのに……!」
「は?無理に決まってんじゃん。俺の人生で一番大切な想い出なんだよ?」

 雪斗の舌が、ひじりの指を舐めるその動きだけで、ぞっとした。

「……君が、玲雅と結ばれなんて、しなければ。俺はずっと、有野雪斗として生き続けるつもりだったよ。でも駄目だ、もう」
「は、離して……」
「だって、『IC Guys』が好きならさ。俺でもよかったわけじゃん……っ」
「違う!そんなんじゃない!」

 初めて、大きな声を出せた。雪斗の目は、とても冷えていた。それなのに、嫌な熱。

「……そうだね。でも、駄目だよひじり。君は、俺のものなんだよ。誰のものでもない限り、君は俺のものだったんだ……だって、俺だけだったでしょ?俺全部、見てきたから知ってるよっ……」
「椎名くん、離してっ……」
「嫌だ。俺の、俺の女なんだから!ひじりはずっと!中三のあの時、俺達は結ばれたでしょ!?」

 どれだけ暴れても、緩んではくれない。むしろ、侵食されていくような。そんな、嫌な気配が這い寄ってくるような感覚。
 玲雅の顔が、頭に浮かぶ。ぼろぼろ泣いてしまうひじりの目に、雪斗は口づけた。そのまま、舌で涙を拭う。

「大丈夫、今なら間に合う。俺が、玲雅に言ってあげる。『やっぱり玲雅様と付き合えないです』って。大丈夫、大丈夫だから」
「やめてっ!それだけは!」
「やめない。だって、最初に俺を裏切ったのは君なんだから。ほら、いい子で待ってて。スマホ取ってくるからさ」

 そう言って、雪斗はひじりを解放した。ベッドに転がるひじりを名残惜しそうに見詰めて、彼はベッドから降りる。行かせてはならない、と本能で悟った。それが、いけなかった。

「椎名くん、待って!お願い!な、何でもするからっ……」

 それを聞き、雪斗は止まった。その目には、甘い熱。罠だったと悟った時には、遅かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛

冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...