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16.もはや本業が裏方みたいになってない?
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「で、泣かされてはないけど鳴かされたわけかー。いやむしろ鳴かせたってこと?」
「あの本当もうやめて下衆過ぎる」
玲雅の家で、初めて彼と繋がってから数日。ひじりはオフだったが、とある公園にいた。公園を出た車道の先では、大人数のスタッフがせかせかと働いている。
ひじりはブランコを揺らしていた。その隣では、Reoがたい焼きを咥えながら大人しくブランコに座っている。
「つーかわざわざ俺の撮影現場まで来るとか。お前1日オフ久々だってのに」
「いやちょっと、Reoくん捕まえるとしたらこのタイミングしかないかなって。ごめんね忙しいのに」
「まあ今回俺主演じゃないしいつもよりは楽だよ。そうでなきゃこんな休憩時間もらえないって」
ひじりが現場に来た時、Reoはそれなりに驚いてはいた。ひじりはあまり演技に携わる仕事をしていないので、撮影見学に来る事自体が稀なのだ。だからこそ察したReoは、気を利かせて誰も今いない公園にひじりを連れてきたわけだが。
「今回の撮影、男ばっかだから精神的に参ってたんだよ。だから来てくれて嬉しい。いくらかぼちゃやじゃがいもでも、おしべとめしべじゃ価値が違うからな」
「こんなに人を引っ叩きたくなったの、何日か前にTakaに差し入れのお菓子取られた時以来」
そう言いつつ、ひじりは溜息を吐いた。そんなひじりに、Reoは新しいたい焼きを渡した。
「……Reoくんはさ、今まで業界人何人と付き合った?」
Reoは両手の指を折り出した。二巡目に入ったあたりで「もういい」と止めると、Reoは察したようにひじりを見た。
「あー、あれか。どうやったらバレないように付き合えるかを聞きたいんだな?」
「うん。その、こんなん言っちゃあれだけどIzumiちゃんの時バレてえらい事になったじゃん。そこからNaokiくんも厳しくなってるしさ」
「あれはやばかったもんな。ファンも互いの事務所も大荒れ。俺もあれ見てマジで気つけるようになったもん」
Reoは3個目のたい焼きに手をつけた。そう言えば、この男がカロリー制御などしているのを今まで見た事がない。もう10年近く一緒にいるのに。
「とりあえずお前は元々『IC Guys』のヲタクなんだから、そのスタンスを崩さなきゃ大丈夫だろ。お前のあんな素なんて、付き合い出したから消えるとかないだろうよ」
「うん、それは自信ある」
あれから、実際『IC Guys』のコンテンツは観られるようになった。そしてやはり、玲雅は憧れから揺らいでいなかった。ライブ映像を見て大はしゃぎするひじりを見て、たまたま近くにいたNaokiが引いていたくらいだった。
しかし、玲雅との出来事はやはり現実だった。朝も彼と電話したばかりだ。
「あれもファン特典のモーニングコールと思えば最高に激る」
「ファン特典じゃなくて彼女特典なはずなんだけどなあ」
しかし、少し安心できた。2個目のたい焼きをもらおうとしたら、袋の中身は空っぽだった。元々彼が買ったものなので、文句は言えなかった。
「あ、そういや今の内に聞きたいんだけど10周年ライブの衣装だけどさ」
日常は変わらない。ほんの少し、日々の生活に存在していた輝きが強まったくらいの感覚だ。けれどそれがたまらなく、幸福なものに思えた。
しばらくして、Reoに招集がかかった。せっかくなので、彼の演技も見学していく事にした。
Reoは、あらゆる意味で演技のプロだ。あの彼のポーカーフェイスを見習えば、ある程度なんでも騙せそうな気がする。そう思っていたら、背後に人が立っていた。はっとして振り向くと、顔見知りだった。
「Hijiriちゃん来てたんだねえ。Reoくんの見学?」
「はい、そうなんです。ご無沙汰してます。すみません、ご挨拶行こうにもお忙しそうだったので」
彼は、ひじりも世話になった事のある演出家だ。今回この撮影にも関わっている、というのはReoから一応聞いていた。
「いやいや、気つかわないで。そういやHijiriちゃん、丁度いいや。明日くらいに連絡しようとしてたんだよ、チーマネさんに」
「はあ」
彼は分厚い手帳を手に取った。すると、とある日にちを指さす。
「これちょっとまた正式依頼かけようと思うんだけどさ、ワークショップ出てほしくてさ」
「ワークショップ?」
「うん、演出のね。俺、劇団も抱えてるでしょ。裏方の新人たち向けで、照明音響複合でやろうと思っててさ。そこでゲスト講師やってほしい」
「えっ、私が?」
ありがたい話ではある。まさかここまで本格的に繋がってくるとは。
「スケジュールさえ合えば是非やりたいです、私も勉強したいですし」
「ありがとうね。まあ他にも何人か呼ぶ予定だから、そんな気は張らなくていいよ。じゃあ一回チーマネさんに話通さなきゃだね、Hijiriちゃんの許可もらったっていうのは言ってもいい?」
そこからはすぐに彼が呼ばれてしまい、話は終わった。スタッフがばたつきだしたので、さすがにひじりも遠慮してその場を後にした。
「あの本当もうやめて下衆過ぎる」
玲雅の家で、初めて彼と繋がってから数日。ひじりはオフだったが、とある公園にいた。公園を出た車道の先では、大人数のスタッフがせかせかと働いている。
ひじりはブランコを揺らしていた。その隣では、Reoがたい焼きを咥えながら大人しくブランコに座っている。
「つーかわざわざ俺の撮影現場まで来るとか。お前1日オフ久々だってのに」
「いやちょっと、Reoくん捕まえるとしたらこのタイミングしかないかなって。ごめんね忙しいのに」
「まあ今回俺主演じゃないしいつもよりは楽だよ。そうでなきゃこんな休憩時間もらえないって」
ひじりが現場に来た時、Reoはそれなりに驚いてはいた。ひじりはあまり演技に携わる仕事をしていないので、撮影見学に来る事自体が稀なのだ。だからこそ察したReoは、気を利かせて誰も今いない公園にひじりを連れてきたわけだが。
「今回の撮影、男ばっかだから精神的に参ってたんだよ。だから来てくれて嬉しい。いくらかぼちゃやじゃがいもでも、おしべとめしべじゃ価値が違うからな」
「こんなに人を引っ叩きたくなったの、何日か前にTakaに差し入れのお菓子取られた時以来」
そう言いつつ、ひじりは溜息を吐いた。そんなひじりに、Reoは新しいたい焼きを渡した。
「……Reoくんはさ、今まで業界人何人と付き合った?」
Reoは両手の指を折り出した。二巡目に入ったあたりで「もういい」と止めると、Reoは察したようにひじりを見た。
「あー、あれか。どうやったらバレないように付き合えるかを聞きたいんだな?」
「うん。その、こんなん言っちゃあれだけどIzumiちゃんの時バレてえらい事になったじゃん。そこからNaokiくんも厳しくなってるしさ」
「あれはやばかったもんな。ファンも互いの事務所も大荒れ。俺もあれ見てマジで気つけるようになったもん」
Reoは3個目のたい焼きに手をつけた。そう言えば、この男がカロリー制御などしているのを今まで見た事がない。もう10年近く一緒にいるのに。
「とりあえずお前は元々『IC Guys』のヲタクなんだから、そのスタンスを崩さなきゃ大丈夫だろ。お前のあんな素なんて、付き合い出したから消えるとかないだろうよ」
「うん、それは自信ある」
あれから、実際『IC Guys』のコンテンツは観られるようになった。そしてやはり、玲雅は憧れから揺らいでいなかった。ライブ映像を見て大はしゃぎするひじりを見て、たまたま近くにいたNaokiが引いていたくらいだった。
しかし、玲雅との出来事はやはり現実だった。朝も彼と電話したばかりだ。
「あれもファン特典のモーニングコールと思えば最高に激る」
「ファン特典じゃなくて彼女特典なはずなんだけどなあ」
しかし、少し安心できた。2個目のたい焼きをもらおうとしたら、袋の中身は空っぽだった。元々彼が買ったものなので、文句は言えなかった。
「あ、そういや今の内に聞きたいんだけど10周年ライブの衣装だけどさ」
日常は変わらない。ほんの少し、日々の生活に存在していた輝きが強まったくらいの感覚だ。けれどそれがたまらなく、幸福なものに思えた。
しばらくして、Reoに招集がかかった。せっかくなので、彼の演技も見学していく事にした。
Reoは、あらゆる意味で演技のプロだ。あの彼のポーカーフェイスを見習えば、ある程度なんでも騙せそうな気がする。そう思っていたら、背後に人が立っていた。はっとして振り向くと、顔見知りだった。
「Hijiriちゃん来てたんだねえ。Reoくんの見学?」
「はい、そうなんです。ご無沙汰してます。すみません、ご挨拶行こうにもお忙しそうだったので」
彼は、ひじりも世話になった事のある演出家だ。今回この撮影にも関わっている、というのはReoから一応聞いていた。
「いやいや、気つかわないで。そういやHijiriちゃん、丁度いいや。明日くらいに連絡しようとしてたんだよ、チーマネさんに」
「はあ」
彼は分厚い手帳を手に取った。すると、とある日にちを指さす。
「これちょっとまた正式依頼かけようと思うんだけどさ、ワークショップ出てほしくてさ」
「ワークショップ?」
「うん、演出のね。俺、劇団も抱えてるでしょ。裏方の新人たち向けで、照明音響複合でやろうと思っててさ。そこでゲスト講師やってほしい」
「えっ、私が?」
ありがたい話ではある。まさかここまで本格的に繋がってくるとは。
「スケジュールさえ合えば是非やりたいです、私も勉強したいですし」
「ありがとうね。まあ他にも何人か呼ぶ予定だから、そんな気は張らなくていいよ。じゃあ一回チーマネさんに話通さなきゃだね、Hijiriちゃんの許可もらったっていうのは言ってもいい?」
そこからはすぐに彼が呼ばれてしまい、話は終わった。スタッフがばたつきだしたので、さすがにひじりも遠慮してその場を後にした。
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