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11.相変わらず、小さい背中。
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「待って待って待ってどういうこと」
タクシーで向かった先は、事務所だった。そもそも今日は、作曲担当のSouと二人で新曲の打ち合わせの日だった。沈んだ様子で事務所にやってきたひじりに驚いた彼は、まずひじりを誰もいない面談室に呼び出した。そして、事のてん末を聞いて頭を抱えた。
「『IC Guys』のライブ行って?打ち上げ参加して?薬盛られて?そしたら三田玲雅に持ち帰られて?何もしなくて?で、逃げてきた?」
Souの事実確認の羅列に、ひじりはぼんやりと頷くしか出来なかった。Souは、大きくため息を吐く。
「いやまあ、確かにバーテンの時点でやられたら対処なんて出来ないよね。そればかりは確かにそんなスタッフを抱えたあっちがクソなわけだけど……いや待って。とりあえずそれは他のメンバーに絶対内緒にしよう。僕で留めよう。とくにNaokiくんが知ったら確実にカチコミいっちゃう」
「うん……ごめんSouくん」
「いいんだけど。いや、でも本当にどういうこと?っていうか、何で逃げてきたの?」
Souの言葉に、ひじりは詰まった。そんなひじりの背を、Souは優しくさすってくる。これは、メンバー全員がへこむと他のメンバーがやるグループ内での習慣だ。不思議と、これで落ち着いてくる。
ひじりはそっと、口を開いた。
「すごく、最低なんだけど。玲雅様じゃなかった」
「ん?」
「私の、私がずっと追ってた玲雅様じゃなかったの。表情なんて変えずに、クールに歌って。輝いていて。勿論……プライベートでも、格好良かったの。でも、違ったの」
Souは「あー」と口にした。そんな彼の手は、まだひじりをさすっている。
「なるほどね。でも、謝った方がいいよ。さすがにその対応は、助けてくれた人に対して失礼」
「そうだよね……本当私ファン失格だよ。それどころか、人としても……」
Souに促され、携帯を開く。すると、一件のメッセージが来ていた。玲雅からだった。
『ごめん』
それだけ、だった。それを見た瞬間、一気に涙が溢れてくる。そんなひじりの背を、Souは摩り続けた。
悲しかった。人としての倫理を忘れる程、ショックだった。そんなの、玲雅からすれば知った事ではないのに。
ただ、それでも。あれは……自分の愛している玲雅ではなかった。自分の愛している玲雅が打ち壊されたようで、恐ろしかった。
「……で、そんな凹んでるんだ」
「へこんでるように見えるんだ」
「メンバーですから。ゆっきにも多分バレると思うよ」
雪斗は、現在海外にて仕事中だ。雪斗を気に入っているデザイナーが、前から彼を押さえていた。次全員が揃うのは、次のライブ開催日である翌々日だ。
玲雅の携帯に届いた「本当にごめんなさい、失礼な事をして」という文面を見てタクヤは玲雅の頬を突いた。
「でも珍しい。やっぱHijiriちゃんに対して何か玲雅思い入れあるよね」
タクヤの言葉に、玲雅は口をつぐんだ。そんな彼を面白そうに見ながら、タクヤは続ける。
「何、初恋?」
「うん」
「……マ?」
「マ」
タクヤは一つ息を吐いて、玲雅の向かいに改めて掛け直した。そして、彼を真剣に見る。
「いつから?」
「『ギジデート』前の情報収集の時」
「マ!?」
「マ」
タクヤは慌てて、周囲を見渡した。しかし、何も見つからない。その事に安堵して、息を吐く。
「……えっと。とりあえずバレないようにな……?」
「分かってる」
そう言う玲雅の表情は、いつもと変わらない。でも、もはや家族のように一緒に過ごしているタクヤは声で玲雅の表情を見分ける事ができるようになっていた。しかも……彼は別に、隠しているわけではない。簡単に、顔が動かないだけだ。余程の事があれば歪むのを、メンバーはよく知っている。
「で、どうすんの」
「それを教えてほしい。俺よりは恋愛経験あるだろ。実際今お前彼女いるし」
「ははっ残念!先々週フラれたばっかでーす!あーやってらんねー!」
「何かごめん」
『IC Guys』は、女性の若年層に人気が高い。それもあり事務所の意向で、恋愛ごとなどは他の芸能人よりも注意させられていた。とはいえ、タクヤはバレないように努めながらもそれなりに楽しんではいたが。
タクヤは自分のスマートフォンを開いた。そして、操作を始める。
「うーん、俺からそれとなくHijiriちゃんにフォロー入れる?」
「いい。原因分からないし」
「あー、まあそうねえ。じゃあどうするよ」
タクヤの言葉に、玲雅は再び俯く。これは何か考え込んでいるな、と思いながらタクヤは改めてスマートフォンを確認しだした。どうせ、考え事の内容なんてたかがしれている。玲雅という男は、案外単純だ。
「うん、再来週。『春季音楽祭』の収録だな」
「時間帯は」
「被る。同じ20時台。あっちの仕事具合は分からないけど、うちは終われる。どうする?探っとく?」
「……Takaクンの連絡先分かるんだっけ」
「任せとけ」
そう言って、タクヤはスマートフォンを操作しだす。そんな彼に「ありがとう」と返しながら、玲雅は溜息を吐いた。
タクシーで向かった先は、事務所だった。そもそも今日は、作曲担当のSouと二人で新曲の打ち合わせの日だった。沈んだ様子で事務所にやってきたひじりに驚いた彼は、まずひじりを誰もいない面談室に呼び出した。そして、事のてん末を聞いて頭を抱えた。
「『IC Guys』のライブ行って?打ち上げ参加して?薬盛られて?そしたら三田玲雅に持ち帰られて?何もしなくて?で、逃げてきた?」
Souの事実確認の羅列に、ひじりはぼんやりと頷くしか出来なかった。Souは、大きくため息を吐く。
「いやまあ、確かにバーテンの時点でやられたら対処なんて出来ないよね。そればかりは確かにそんなスタッフを抱えたあっちがクソなわけだけど……いや待って。とりあえずそれは他のメンバーに絶対内緒にしよう。僕で留めよう。とくにNaokiくんが知ったら確実にカチコミいっちゃう」
「うん……ごめんSouくん」
「いいんだけど。いや、でも本当にどういうこと?っていうか、何で逃げてきたの?」
Souの言葉に、ひじりは詰まった。そんなひじりの背を、Souは優しくさすってくる。これは、メンバー全員がへこむと他のメンバーがやるグループ内での習慣だ。不思議と、これで落ち着いてくる。
ひじりはそっと、口を開いた。
「すごく、最低なんだけど。玲雅様じゃなかった」
「ん?」
「私の、私がずっと追ってた玲雅様じゃなかったの。表情なんて変えずに、クールに歌って。輝いていて。勿論……プライベートでも、格好良かったの。でも、違ったの」
Souは「あー」と口にした。そんな彼の手は、まだひじりをさすっている。
「なるほどね。でも、謝った方がいいよ。さすがにその対応は、助けてくれた人に対して失礼」
「そうだよね……本当私ファン失格だよ。それどころか、人としても……」
Souに促され、携帯を開く。すると、一件のメッセージが来ていた。玲雅からだった。
『ごめん』
それだけ、だった。それを見た瞬間、一気に涙が溢れてくる。そんなひじりの背を、Souは摩り続けた。
悲しかった。人としての倫理を忘れる程、ショックだった。そんなの、玲雅からすれば知った事ではないのに。
ただ、それでも。あれは……自分の愛している玲雅ではなかった。自分の愛している玲雅が打ち壊されたようで、恐ろしかった。
「……で、そんな凹んでるんだ」
「へこんでるように見えるんだ」
「メンバーですから。ゆっきにも多分バレると思うよ」
雪斗は、現在海外にて仕事中だ。雪斗を気に入っているデザイナーが、前から彼を押さえていた。次全員が揃うのは、次のライブ開催日である翌々日だ。
玲雅の携帯に届いた「本当にごめんなさい、失礼な事をして」という文面を見てタクヤは玲雅の頬を突いた。
「でも珍しい。やっぱHijiriちゃんに対して何か玲雅思い入れあるよね」
タクヤの言葉に、玲雅は口をつぐんだ。そんな彼を面白そうに見ながら、タクヤは続ける。
「何、初恋?」
「うん」
「……マ?」
「マ」
タクヤは一つ息を吐いて、玲雅の向かいに改めて掛け直した。そして、彼を真剣に見る。
「いつから?」
「『ギジデート』前の情報収集の時」
「マ!?」
「マ」
タクヤは慌てて、周囲を見渡した。しかし、何も見つからない。その事に安堵して、息を吐く。
「……えっと。とりあえずバレないようにな……?」
「分かってる」
そう言う玲雅の表情は、いつもと変わらない。でも、もはや家族のように一緒に過ごしているタクヤは声で玲雅の表情を見分ける事ができるようになっていた。しかも……彼は別に、隠しているわけではない。簡単に、顔が動かないだけだ。余程の事があれば歪むのを、メンバーはよく知っている。
「で、どうすんの」
「それを教えてほしい。俺よりは恋愛経験あるだろ。実際今お前彼女いるし」
「ははっ残念!先々週フラれたばっかでーす!あーやってらんねー!」
「何かごめん」
『IC Guys』は、女性の若年層に人気が高い。それもあり事務所の意向で、恋愛ごとなどは他の芸能人よりも注意させられていた。とはいえ、タクヤはバレないように努めながらもそれなりに楽しんではいたが。
タクヤは自分のスマートフォンを開いた。そして、操作を始める。
「うーん、俺からそれとなくHijiriちゃんにフォロー入れる?」
「いい。原因分からないし」
「あー、まあそうねえ。じゃあどうするよ」
タクヤの言葉に、玲雅は再び俯く。これは何か考え込んでいるな、と思いながらタクヤは改めてスマートフォンを確認しだした。どうせ、考え事の内容なんてたかがしれている。玲雅という男は、案外単純だ。
「うん、再来週。『春季音楽祭』の収録だな」
「時間帯は」
「被る。同じ20時台。あっちの仕事具合は分からないけど、うちは終われる。どうする?探っとく?」
「……Takaクンの連絡先分かるんだっけ」
「任せとけ」
そう言って、タクヤはスマートフォンを操作しだす。そんな彼に「ありがとう」と返しながら、玲雅は溜息を吐いた。
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