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8.Takaは小さいのコンプレックスだから。
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「は!?楽屋招待!?」
「しーっ!」
ひじりは慌ててTakaの口を押さえた。察したTakaは慌てて「ごめん」と返す。
今日は、ひじりが唯一当選した『IC Guys』のライブの2日目だ。本当は内容が特別になりやすい初日か最終日がよかったが、こればかりはわがままを言えない。そして複数回の参戦など、『IC Guys』の人気からしてまず望めない。一応チケットはTakaと協力して全日程2枚ずつ応募したが、Takaの方はすべて落選していた。
「終わってからスタッフさんが手引きしてくれる事になってるから」
「マジか……うわ、めちゃくちゃドキドキしてきた」
そう言いながら、Takaはグッズであるタオルを首に巻いた。
ちなみに二人は変装しているものの、雰囲気やシルエットから速攻でバレてしまっていた。そのため、さっきから何度もファン対応に見舞われている。
「きゃーHijiriちゃんだ!好きです!」
「Takaくん可愛いー!実際見ると小さいー!」
「うるせえ!!」
しかし今日の目玉は勿論『IC Guys』である。自分達が出しゃばるわけにはいかない。あらためて、ひじりは帽子を深く被り直した。
実際、他のファン……とくに女性ファンからの痛い視線が、ない事もない。恐らく、先日の『ギジデート』の影響だろう。何せ、滅多に女性との絡みが見つからない玲雅との連絡先交換という行為がばれてしまっているのだから。
しかしひじりからしても、あれは想定外だったのだ。ファンとしての罪悪感は、ある。
「っつーか、それって玲雅くんが誘ってくれたの?」
さすがに小声で聞いてくるTakaに、頷く。
あれから一度だけ、玲雅からメッセージが来た。ライブが終わった後の手引きを事務的に送られてきて、そこに了承の返事をしたら既読で終わっている。それでいい。ただ、反射的にスクリーンショットは同じ内容にもかかわらず30枚程撮影した。
チケットを見せ、中へと入る。アリーナではないが、双眼鏡無しでも見える位置だった。これはかなり運がいい。
「お前何回も来てるんだっけ?」
「今のところ一回もメジャーデビューからは逃してない」
「クジ運どうなってんだよ、怖すぎるよお前」
そういうTakaは初参戦で、どこか落ち着きの無い様子だった。しかしひじりも、こればかりは毎回緊張無しではいられない。
初めてライブ参戦した時を思い出す。あの時は、号泣してしまった。初めて生で聴く玲雅の歌声が、鼓膜に触れた途端にすべての世界が輝いたのを覚えている。帰りに当時一緒に来てくれていたIzumiがなだめてくれている様子を週刊誌に撮られ、話題にもなった。あればかりはさすがに恥ずかしかった。
会場の照明が落とされた。そして、歓声が湧く。数秒後に、スクリーンに映像が流れ始めた。その時点で、涙が伝う。この空気感が、ひじりを揺さぶっていた。
ツアータイトルの表記と同時に、スポットライトが光る。下には、『IC Guys』の3人とサポートのベースがいた。
「よい夜にしよう」
たった一言。それだけなのに、会場が揺れる。大歓声の中、雪斗のギターが響き始めた。Takaがそれを見て、口元を押さえて震え出す。
熱い声。軽やかなギターサウンドと、重いドラム。そこに、不思議と調和するベース。夢が始まった心地だった。
玲雅は、汗だけを浮かべて表情を崩しはしなかった。そんな彼に、ひじりは全神経を集中させていた。
あの輝き。あの熱。それはやはり、ひじりの心を独占して離してくれない。初めて見たあの衝撃を、玲雅はずっとひじりに打ち込み続けている。だからこそ、あの『ギジデート』の収録自体が……異質だったのだ。二人の世界が溶け合うことなど、そもそもおかしい話だった。
「格好良すぎる……」
Takaの漏らした言葉に何度も頷きながら、ひじりは決してステージから目を離さなかった。
MCのタイミングでも、玲雅は表情を崩さない。雪斗やタクヤのように、笑ったりはしない。それでも、楽しそうなのは伝わってくる。
彼は、歌っている時が一番輝く。それでも、普段から輝きを纏っているようなものだった。
後半は、前半よりしっとりとしたバラードが続いた。雪斗がギターをアコースティックに変えたり、何故かタクヤがトライアングルに持ち替えたりと飽きさせない内容が続く。
そして最後、3人が並んで挨拶をしてはけていく。そして、すべての照明が点灯した。
「……良過ぎた」
Takaの呟きの隣で、ひじりは何度も頷いた。顔には、ハンカチが張り付いている。絞れる程濡れていた。
「俺さー、いつもお前の事馬鹿にしてたけどあれちょっと謝るわ……」
「土下座して謝れ……私ちょっと化粧直す……」
「うっわお前超ブスになってんぞ!」
幸い、まだ呼び出されるまで時間がある。二人とも会場から出て、外のベンチに座った。風に当たりながら、ひじりは必死に化粧を直していく。
「もう本当良過ぎた……まさか『カトレア』やってくれるって思ってなかった。あそこで涙腺死んだわ」
「お前あの曲一番好きっつってたもんな。こないだタクヤくんにそれ言ったら『めっちゃ古参じゃん』って言ってたぞ」
「あんた本当口軽い……」
何とか、綺麗に整った。時計を見ると、そろそろ待ち合わせの時間だった。Takaはひじりの荷物を持つと、「行くぞ」と歩きだす。
「あんたいい子に育ったね」
「はあ!?こうしないとIzumiちゃんに怒られるだけだし!」
「あんた前から思ってたけどIzumiちゃん怖がり過ぎじゃない……?」
「しーっ!」
ひじりは慌ててTakaの口を押さえた。察したTakaは慌てて「ごめん」と返す。
今日は、ひじりが唯一当選した『IC Guys』のライブの2日目だ。本当は内容が特別になりやすい初日か最終日がよかったが、こればかりはわがままを言えない。そして複数回の参戦など、『IC Guys』の人気からしてまず望めない。一応チケットはTakaと協力して全日程2枚ずつ応募したが、Takaの方はすべて落選していた。
「終わってからスタッフさんが手引きしてくれる事になってるから」
「マジか……うわ、めちゃくちゃドキドキしてきた」
そう言いながら、Takaはグッズであるタオルを首に巻いた。
ちなみに二人は変装しているものの、雰囲気やシルエットから速攻でバレてしまっていた。そのため、さっきから何度もファン対応に見舞われている。
「きゃーHijiriちゃんだ!好きです!」
「Takaくん可愛いー!実際見ると小さいー!」
「うるせえ!!」
しかし今日の目玉は勿論『IC Guys』である。自分達が出しゃばるわけにはいかない。あらためて、ひじりは帽子を深く被り直した。
実際、他のファン……とくに女性ファンからの痛い視線が、ない事もない。恐らく、先日の『ギジデート』の影響だろう。何せ、滅多に女性との絡みが見つからない玲雅との連絡先交換という行為がばれてしまっているのだから。
しかしひじりからしても、あれは想定外だったのだ。ファンとしての罪悪感は、ある。
「っつーか、それって玲雅くんが誘ってくれたの?」
さすがに小声で聞いてくるTakaに、頷く。
あれから一度だけ、玲雅からメッセージが来た。ライブが終わった後の手引きを事務的に送られてきて、そこに了承の返事をしたら既読で終わっている。それでいい。ただ、反射的にスクリーンショットは同じ内容にもかかわらず30枚程撮影した。
チケットを見せ、中へと入る。アリーナではないが、双眼鏡無しでも見える位置だった。これはかなり運がいい。
「お前何回も来てるんだっけ?」
「今のところ一回もメジャーデビューからは逃してない」
「クジ運どうなってんだよ、怖すぎるよお前」
そういうTakaは初参戦で、どこか落ち着きの無い様子だった。しかしひじりも、こればかりは毎回緊張無しではいられない。
初めてライブ参戦した時を思い出す。あの時は、号泣してしまった。初めて生で聴く玲雅の歌声が、鼓膜に触れた途端にすべての世界が輝いたのを覚えている。帰りに当時一緒に来てくれていたIzumiがなだめてくれている様子を週刊誌に撮られ、話題にもなった。あればかりはさすがに恥ずかしかった。
会場の照明が落とされた。そして、歓声が湧く。数秒後に、スクリーンに映像が流れ始めた。その時点で、涙が伝う。この空気感が、ひじりを揺さぶっていた。
ツアータイトルの表記と同時に、スポットライトが光る。下には、『IC Guys』の3人とサポートのベースがいた。
「よい夜にしよう」
たった一言。それだけなのに、会場が揺れる。大歓声の中、雪斗のギターが響き始めた。Takaがそれを見て、口元を押さえて震え出す。
熱い声。軽やかなギターサウンドと、重いドラム。そこに、不思議と調和するベース。夢が始まった心地だった。
玲雅は、汗だけを浮かべて表情を崩しはしなかった。そんな彼に、ひじりは全神経を集中させていた。
あの輝き。あの熱。それはやはり、ひじりの心を独占して離してくれない。初めて見たあの衝撃を、玲雅はずっとひじりに打ち込み続けている。だからこそ、あの『ギジデート』の収録自体が……異質だったのだ。二人の世界が溶け合うことなど、そもそもおかしい話だった。
「格好良すぎる……」
Takaの漏らした言葉に何度も頷きながら、ひじりは決してステージから目を離さなかった。
MCのタイミングでも、玲雅は表情を崩さない。雪斗やタクヤのように、笑ったりはしない。それでも、楽しそうなのは伝わってくる。
彼は、歌っている時が一番輝く。それでも、普段から輝きを纏っているようなものだった。
後半は、前半よりしっとりとしたバラードが続いた。雪斗がギターをアコースティックに変えたり、何故かタクヤがトライアングルに持ち替えたりと飽きさせない内容が続く。
そして最後、3人が並んで挨拶をしてはけていく。そして、すべての照明が点灯した。
「……良過ぎた」
Takaの呟きの隣で、ひじりは何度も頷いた。顔には、ハンカチが張り付いている。絞れる程濡れていた。
「俺さー、いつもお前の事馬鹿にしてたけどあれちょっと謝るわ……」
「土下座して謝れ……私ちょっと化粧直す……」
「うっわお前超ブスになってんぞ!」
幸い、まだ呼び出されるまで時間がある。二人とも会場から出て、外のベンチに座った。風に当たりながら、ひじりは必死に化粧を直していく。
「もう本当良過ぎた……まさか『カトレア』やってくれるって思ってなかった。あそこで涙腺死んだわ」
「お前あの曲一番好きっつってたもんな。こないだタクヤくんにそれ言ったら『めっちゃ古参じゃん』って言ってたぞ」
「あんた本当口軽い……」
何とか、綺麗に整った。時計を見ると、そろそろ待ち合わせの時間だった。Takaはひじりの荷物を持つと、「行くぞ」と歩きだす。
「あんたいい子に育ったね」
「はあ!?こうしないとIzumiちゃんに怒られるだけだし!」
「あんた前から思ってたけどIzumiちゃん怖がり過ぎじゃない……?」
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