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4.切り替えの速さはうち随一だから、あの子。
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「聞いてない聞いてない聞いてない聞いてない」
「そりゃ言ってませんから」
あの後、ひじりは卒倒した。意識が数十秒飛んだ後、気がつけばロケバスに戻っていた。なんださっきは夢だったか、と思ったらチーフマネージャーところか運転手まで心配していたので色々察した。というより、理解した。
ひじりはチーフマネージャーにしがみつきながら、半泣きで絶叫した。
「チーフさん知ってたんですか!?じゃあ言ってくださいよ!?」
「私もさっきTakaさんから聞いたんですよ本番直前に。ちなみにスタジオゲストは『IC Guys』のタクヤさんらしいです」
「ええええマジで!?」
スタジオは今ひじりの復活待ちらしく、和やかに雑談までしている。よく耳をすませば、確かにタクヤの声が聞こえてきた。てんぱりながら対応するTakaの声まで。
顔が熱い。未だ、頭が追いついていない。
まさか……デート番組の共演相手が、彼だなんて。
「っていうか玲雅様は!?」
「ここにいるよ」
「ほわぁ!?」
まさかのすぐ後ろの席だった。心臓に悪いほどの至近距離で、口から心臓が出そうになる。彼は不思議そうにひじりを見た。
彼……三田玲雅は、あまりにも綺麗だった。肌も白く、目は切長だが決して小さくない。まるで皺一つないシルクのような、そんな高級感が見て取れる。
ライブや番組共演で、何度も実物は見た事がある。でも、こんなに近いところから見るのは初めてで。
「あれ?俺のファンって聞いてたんだけど」
「ファ、ファファファファ」
「すみません玲雅さん、本人を目の前にするといつもこうなるみたいで」
「いや何でチーフさん普通に喋れるの!?すごいね!?」
それを聞き、玲雅はまた首を傾げた。
「でも、初めて会ったわけじゃないよね?歌番組被った事もあるし」
『あー、玲雅。それ俺から説明するとね。Hijiriちゃん玲雅見ると緊張するからわざと視界から離してたらしいよ。毎回汗びっしゃびしゃだったみたい』
『そ、そうなんです!あいつマジで玲雅さん大好きで!』
「Takaちょっと黙っといていい子だから!」
まさか、そのあたりの事をTakaはタクヤに全部話したのだろうか。恥ずかしい、恥ずかしすぎる。自分で散々語るのはいいが、その愛を他人の口から語られるのは羞恥以外なにものでもない。
いや、それよりも。
「えっ……ファ、ファンって……ご、ごぞ……?」
「うん。タクヤが教えてくれた」
思考が停止した。
そうだ、タクヤと玲雅は同じバンドのメンバーだ。しかもタクヤとひじりはバラエティでの共演が多い。だからひじりがタクヤには慣れていたというのはある。
玲雅とは、グループとしての共演は確かにあった。しかし一言も喋った事は勿論無いし、見かける度に生の「圧」にやられてしまい近付く事すらできていなかった。そしてそれが、身のためだった。それなのに。
「に、認知されてるっ……!」
『やっぱこいつゲストにしたの失敗だったと思うんすけど』
Takaの言葉に反論すら出来ない。しかし、玲雅は「大丈夫」と口にした。よく見ると、彼もイヤモニを装着していた。
「俺達が指名したんだから。むしろ、こんなに愛してもらえて光栄だよ」
「はわわわわわわわ」
間近でそう言われ、手が震える。しかし彼は、にこりともしていない。そもそも彼が笑ったのを、ひじりは長いファン生活の中でも見た事がない。
彼は、クールだ。しかし、無愛想ではない。ただ、表情を崩さないだけ。そのミスマッチが、魅力でもあった。
「と、というか指名って……」
ようやく人語になってきた。慣れとは恐ろしいものである。玲雅は頷いた。
「ああ、うん。そもそもこのオファー貰ったの、タクヤでさ。でもタクヤが『玲雅とデートさせたい子がいる』って、プロデューサーに言ったらしくて」
『うーわ全部ゲロるじゃん!』
「で、その相手が『SR』のサブリーダーって。俺としても、音楽に関する話がしたかったから乗らせてもらったんだ。それに」
じっ、と見つめられる。心臓が止まりそうになった。多分止まったかもしれない。
「俺のファンって聞いたから、断られないかなって思った。ちょっと打算ありきだった、ごめんね」
「はわっ、はわわわわっ」
「そもそも会うまで分からないから断りようないんですけどね」
チーフマネージャーの言葉に、玲雅は「それもそうか」と呟いた。
ひじりは、さっき玲雅の言っていた内容を反芻していた。心臓の代わりに、脳が必死で動いていた。
そうだ、彼は。音楽の人間としてひじりに打診をしてきたのだ。それだけ、相手は真面目なのだ。そう考えると、急に仕事スイッチが入った。
ひじりは一つ深呼吸した。普段より、重めに。そして頷いた。
「わ、私でよければっ……デート、させてくださいっ……」
その言葉に、スタジオでは『あいつ仕事モード入れやがった!』とTakaが言っているのが聞こえた。しかし玲雅もまた、頷く。
「ありがとう、今日はよろしくね、Hijiriチャン」
「は、はいっ!こちらこそ!」
上ずった声。それでも、玲雅は冷静だった。
「そりゃ言ってませんから」
あの後、ひじりは卒倒した。意識が数十秒飛んだ後、気がつけばロケバスに戻っていた。なんださっきは夢だったか、と思ったらチーフマネージャーところか運転手まで心配していたので色々察した。というより、理解した。
ひじりはチーフマネージャーにしがみつきながら、半泣きで絶叫した。
「チーフさん知ってたんですか!?じゃあ言ってくださいよ!?」
「私もさっきTakaさんから聞いたんですよ本番直前に。ちなみにスタジオゲストは『IC Guys』のタクヤさんらしいです」
「ええええマジで!?」
スタジオは今ひじりの復活待ちらしく、和やかに雑談までしている。よく耳をすませば、確かにタクヤの声が聞こえてきた。てんぱりながら対応するTakaの声まで。
顔が熱い。未だ、頭が追いついていない。
まさか……デート番組の共演相手が、彼だなんて。
「っていうか玲雅様は!?」
「ここにいるよ」
「ほわぁ!?」
まさかのすぐ後ろの席だった。心臓に悪いほどの至近距離で、口から心臓が出そうになる。彼は不思議そうにひじりを見た。
彼……三田玲雅は、あまりにも綺麗だった。肌も白く、目は切長だが決して小さくない。まるで皺一つないシルクのような、そんな高級感が見て取れる。
ライブや番組共演で、何度も実物は見た事がある。でも、こんなに近いところから見るのは初めてで。
「あれ?俺のファンって聞いてたんだけど」
「ファ、ファファファファ」
「すみません玲雅さん、本人を目の前にするといつもこうなるみたいで」
「いや何でチーフさん普通に喋れるの!?すごいね!?」
それを聞き、玲雅はまた首を傾げた。
「でも、初めて会ったわけじゃないよね?歌番組被った事もあるし」
『あー、玲雅。それ俺から説明するとね。Hijiriちゃん玲雅見ると緊張するからわざと視界から離してたらしいよ。毎回汗びっしゃびしゃだったみたい』
『そ、そうなんです!あいつマジで玲雅さん大好きで!』
「Takaちょっと黙っといていい子だから!」
まさか、そのあたりの事をTakaはタクヤに全部話したのだろうか。恥ずかしい、恥ずかしすぎる。自分で散々語るのはいいが、その愛を他人の口から語られるのは羞恥以外なにものでもない。
いや、それよりも。
「えっ……ファ、ファンって……ご、ごぞ……?」
「うん。タクヤが教えてくれた」
思考が停止した。
そうだ、タクヤと玲雅は同じバンドのメンバーだ。しかもタクヤとひじりはバラエティでの共演が多い。だからひじりがタクヤには慣れていたというのはある。
玲雅とは、グループとしての共演は確かにあった。しかし一言も喋った事は勿論無いし、見かける度に生の「圧」にやられてしまい近付く事すらできていなかった。そしてそれが、身のためだった。それなのに。
「に、認知されてるっ……!」
『やっぱこいつゲストにしたの失敗だったと思うんすけど』
Takaの言葉に反論すら出来ない。しかし、玲雅は「大丈夫」と口にした。よく見ると、彼もイヤモニを装着していた。
「俺達が指名したんだから。むしろ、こんなに愛してもらえて光栄だよ」
「はわわわわわわわ」
間近でそう言われ、手が震える。しかし彼は、にこりともしていない。そもそも彼が笑ったのを、ひじりは長いファン生活の中でも見た事がない。
彼は、クールだ。しかし、無愛想ではない。ただ、表情を崩さないだけ。そのミスマッチが、魅力でもあった。
「と、というか指名って……」
ようやく人語になってきた。慣れとは恐ろしいものである。玲雅は頷いた。
「ああ、うん。そもそもこのオファー貰ったの、タクヤでさ。でもタクヤが『玲雅とデートさせたい子がいる』って、プロデューサーに言ったらしくて」
『うーわ全部ゲロるじゃん!』
「で、その相手が『SR』のサブリーダーって。俺としても、音楽に関する話がしたかったから乗らせてもらったんだ。それに」
じっ、と見つめられる。心臓が止まりそうになった。多分止まったかもしれない。
「俺のファンって聞いたから、断られないかなって思った。ちょっと打算ありきだった、ごめんね」
「はわっ、はわわわわっ」
「そもそも会うまで分からないから断りようないんですけどね」
チーフマネージャーの言葉に、玲雅は「それもそうか」と呟いた。
ひじりは、さっき玲雅の言っていた内容を反芻していた。心臓の代わりに、脳が必死で動いていた。
そうだ、彼は。音楽の人間としてひじりに打診をしてきたのだ。それだけ、相手は真面目なのだ。そう考えると、急に仕事スイッチが入った。
ひじりは一つ深呼吸した。普段より、重めに。そして頷いた。
「わ、私でよければっ……デート、させてくださいっ……」
その言葉に、スタジオでは『あいつ仕事モード入れやがった!』とTakaが言っているのが聞こえた。しかし玲雅もまた、頷く。
「ありがとう、今日はよろしくね、Hijiriチャン」
「は、はいっ!こちらこそ!」
上ずった声。それでも、玲雅は冷静だった。
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