【R18あり】推しに溺愛されるのが私とか!

湖霧どどめ

文字の大きさ
上 下
3 / 43

3.本気のHijiri、Reoの好みっぽそうだね。

しおりを挟む
 『ギジデート』撮影当日。ひじりはスタイリストによって髪や服を丁寧に整えられ、ロケバスに乗っていた。普段なら絶対着ないような、上品な服装とヘアメイクに緊張が走る。
 イヤホンを付けて集中しているひじりの肩を、チーフマネージャーが叩く。

「Hijiriちゃん、イヤホンちょっと外せます?って、また『IC Guys』の歌ですか?」
「はい。仕事集中する時絶対聴いてるんです。聞きます?」

 チーフマネージャーは差し出されたイヤホンをやんわり断ると、代わりに一つのイヤモニを差し出してきた。

「これ、スタジオと繋がってるんです。一応テストお願いします」

 イヤモニを受け取り、耳に装着する。何だかこれを着けると、仕事に切り替わった気分になる。イヤモニの向こう側から、ノイズ混じりに声が聞こえてきた。

『あー、あー。聞こえてるか?』
「うん、聞こえてる……って、あっこれイヤモニだからこっちのは聞こえないのか。マイクは?」
「こちら側には用意ありませんよ。今回はあちらの指示を聞くだけなので」

 チーフマネージャーがTakaにメッセージを送ったらしく、『大丈夫ならオッケー』とイヤモニから声で帰ってきた。しかし、どうも声が上ずっている。何だか違和感があった。

『とりあえず今日の流れはもう聴いただろ?そ、その……相手が、お前を待ち合わせ場所に迎えに来るから。カメラはお前らがスマホで回す。一応後ろから一台だけカメラがついてくるから、お前頑張って撮れよ。じゃあ俺、最終打ち合わせいってくるから」
「はあ?私がカメラワーク天才級なのあんた知ってるでしょ。自撮りの鬼よこっちは」
「Hijiriちゃん、聞こえてないですよそれ」

 しかし、妙だ。実際ひじりはTakaの自撮りの師匠なので、今更そんな事で注意を推してくるのは少し不思議に感じる。
 チーフマネージャーがスマートフォンを見て、少し表情を変えた。しかし、すぐに画面を消す。

「Takaくん、スタジオでの共演者さんともうすでに合流してるみたいですね」
「ああ、あっちも私の相手と仲良い人が来るんでしたっけ?えっじゃああのクソガキもう私の相手知ってるってこと!?」
「クソガキって、あの子一応成人してますよ……先月だけど」

 急に心臓がうるさくなってきた。仕事は仕事なので勿論割り切るが、高校生時代にこの仕事を始めて以来まともにプライベートな恋愛なんてしていない。やはり緊張する。
 強いて言うなら……。

「ちがう!玲雅様は違う!そんな!俗な感情じゃない!」
「もしもしIzumiちゃん?Hijiriちゃんまた発作が始まっちゃったんですけどどうしましょう?」

 電話で何かを聞いたらしいチーフマネージャーは、そっとHijiriの背中をさすった。やっと落ち着きを取り戻したひじりは、水を飲みながら「ごべんだざい」と濁った謝罪を向けた。

「でも……本当に玲雅様は憧れだから……こ、恋とかとは次元が違うというか……」
「はいはい、オタクは皆そう言いますから。でも今日は、本当に『IC Guys』ネタは封印してくださいね」
「わ、分かってる……一応デートだし」

 さすがにその程度の甲斐性はあるつもりだ。リップを塗り直し、深呼吸をする。
 ロケバスが停車した。最後に身だしなみを確認し、一人でロケバスを降りる。すると、後続車から早速カメラがついてきた。そして同時に、イヤモニが開通する。

『はい、始まりました「ギジデート」!どうも、『SIX RED』のTakaです!今回はうちのサブリーダーのHijiriがデートに出ます!』

 Takaの声だ。最初は歌以外まともに話す事も出来なかったクソガキだったのに、など少し感動しながらイヤモニに集中する。

『もしもしHijiri聞こえる?』
「はーい聞こえまーす、元気でーす!」
『うっぜ』
「はあ!?」

 恐らくカメラで音声を拾われているのだろう。スタジオから微かな笑い声が聞こえてくる。恐らく、相手方側のスタジオゲストも来ているはずだ。恐らく正体を気取らせないように黙っているのだろう。
 Takaは年齢が一番近いのもあってか、最初の頃はずっとひじりについて回っていた。それもあってか、出会って10年近くなる今は恐らくメンバーで一番気を許しているのだろう。実際この二人の絡みは、「まるで姉弟」と人気だった。

『えっと、今回は普段の「ギジデート」とは違って男性側からの指名になってます。いやーそれでもうちのサブリーダーいく?とは思っちゃったけど。顔と面白さに全振りしてるだけなのにー』

 こいつ絞め殺したろか、とは思ったが絶対に上層部に怒られるので黙ってにこにこしておいた。もうカメラは回っている。

『でもちょっと……今日の男性ゲスト、やばいんですよね』
「え?やばい?どういう事?」

 思わず口に出す。しかしTakaは無視しだした。

『まず大まかな流れですが、今回は指名制なのでプランは男性ゲストが考えてくれています。Hijiriはそれに則ってうまいこと死なないように頑張ってください』
「何!?私の相手アサシンか何かなの!?」

 スタジオからまた笑いが漏れてくる。それで相手方ゲストを察せられないかと思ったが、駄目だ。音声が遠い。

「ちょっとTaka!?どういうこと!?何か怖いよ!?」
『ところで最近「SIX RED」新曲を発表しまして……』
「宣伝入れ込むところ絶対おかしいよね!?Naokiくんに怒られるよ!?」
「へえ、怒るんだあの人」

 急に降ってきた、甘い声。苦いエスプレッソにに甘いキャラメルを足したような、とろける響きだった。散々聞いた、そんな声。
 振り返ると、黒髪の男性が立っていた。何度も、毎日のように眺めていた姿がそこにあった。綺麗めなコートを揺らしながら、歩いてくる。

「あの人温厚そうなのに。俺も少ししか話したことないけど」
「…………」
「あれ、俺の事……見えてる?」

 絶叫した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛

冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...