【R18あり】推しに溺愛されるのが私とか!

湖霧どどめ

文字の大きさ
上 下
2 / 43

2.何だかんだ、二人とも仲良いよね。

しおりを挟む
「って、ほぼカットされてるじゃん!」
「当たり前だばーかばーか」

 今日は『SIX RED』メンバー揃っての歌番組ゲストだ。新曲発表のタイミングという事もあり、全員気合いが入っている。そして、先日タクヤと森山と3人で出演した『夜中のまどろみ』の先行ネット配信日でもあった。
 視聴を終えてひじりはスマートフォンを投げると、隣に座って視聴していたTakaに勢いよく掴みかかる。

「なんで!?私あんな頑張って語ったのに!」
「だーかーらー!お前は何でいつもよそのバンド宣伝して帰ってくんだよ!うちの宣伝しろよ!この番組も最後でちょろっと新曲の名前出しただけじゃねーか!つーかメインボーカルの俺の気持ちにもなれや!」
「そう言いつつあんたも私の布教で『IC Guys」にハマッたくせに!」
「いや雪斗くんのギターはあれまじですごいんだって!あと顔がいい!整形だけど!」

 ぎゃあぎゃあ騒ぐ二人のもとに、Izumiがスカートをひらめかせてやってきた。30に入ったのもあって、彼女の衣装はひじりのものよりも上品めに作られている。
 彼女は二人の前に立つと、慌てて声をかけた。

「二人とも!もうリハだよ!喧嘩してる場合じゃないよ!」
「あれ、皆は?」
「もう行ってる!」

 それを聞き、二人は慌てて立ち上がった。
 アイドルグループ、『SIX RED』。当時のとある番組企画で、スカウトされた総勢100人の素人がオーディションを受けさせられ合格したメンバーによって結成された。
 最初こそは面白半分で「すぐ消えるだろう」と揶揄されていたが、たまたま全員が得意分野を持ち活躍を始めた事で少しずつ人気が固まった。今となっては、国民全員が「名前くらいは知ってる」グループにまで到達している。

「すみません、連れてきましたー!」

 Izumiの声に「待ってた!」「遅いぞー」などの声がとんでくる。Takaとともにあちこちに頭を下げていると、一人のスタッフがひじりの肩を叩いた。

「待ってたよHijiriちゃん!ちょっと上来て!サスの位置ちょっとしっくりこなくてさ」
「えええ!?私自分の立ち位置見なきゃなんですけど!?」
「大丈夫、トルソー用意してるから。むしろ君の感覚で俯瞰で見てほしい!」

 いつもこうだ。ひじりは渋々スタッフについていった。
 ひじりは、正直歌とダンスは他のメンバーと比べてもレベルが低い。それに関しては、突出した分野を持つメンバーがいる分仕方なくはあるのだが。
 しかし、トーク力と演出に関してはメンバー随一だ。そのためバラエティや裏方の補助で呼ばれる事が非常に多い。かつてはそんな彼女を揶揄する声も多かったが、メンバー達やマネージャーの提案でむしろ開き直ってからは「そういうキャラ」にまで登った。

「1サスと2サス、近過ぎます。もうちょい離せます?」

 実際今、こうやって業界人に技術の売り込みとしては成功している。おかげで裏方として呼ばれたイベントすらもある。だから、今となっては悪い気はしていない。しかもその様子をドキュメンタリーにした時は一定の再生数も獲得して自分の名売りにも繋がった。
 ただ、一度『IC Guys』も出る音楽番組の演出も手伝ってくれと言われた時はさすがにメンバーによって辞退させられた。その後に自分達の出番が控えていたので、「そんなんこいつにさせたら緊張と感動で出演どころじゃなくなる」という意見だった。まさしくそうだとは思った。
 実際、彼ら全員との共演は何度も経験がある。しかし絡む事はないし、見かけるだけで内心呼吸困難すんぜんまで陥っていた。だから大体の場合、メンバーを盾にして隠れていたのだ。
 それもあり、大体のファンはひじりが『IC Guys』のファンだと知っている。本来ならバッシングになってもおかしくはないが、ひじりが芸能人という接点で不必要に近付かないため安心されているのも事実だった。

「Taka!Souくん!あんたら近過ぎ!ホモか!」
「うるせー小姑!!」
「そのツッコミもどうかと思う」

 他のメンバーも作曲だったり、ドラマやよそへのサポートダンサーだったり……沢山活動の場がある。むしろこうやって揃っての仕事の方が、案外少ない気もする。そういえばどこかの記事で、「『SIX RED』は才能ある者たちの集合場所」と言われた事もあった。
 リハーサルを終えると、慌ただしく本番が始まった。そして、それもつつがなく終了した。やっと収録が終わり、全員でそれぞれ着替えて一つの楽屋に集合する。

「もう帰りたい……酒飲みたい……」
「このアル中……私も……」
「Izumiちゃん暴れるから飲んじゃだめだよ……」

 全員でぐったりしていると、チーフマネージャーが入ってきた。一応、全員姿勢を正す。彼女はタブレットを操作して、全員に向き直った。

「すみません、すぐ終わりますので。一応ちょっと仕事の案件固まってきたので、今ここで言っちゃおうと思って」

 しばしば、こういう事がある。どうせ後でまたメッセージで回すのに、律儀な事だ。しかし仕事の後はまだ集中力を引っ張っているので、確かに効率はいい。

「まず、Naokiさん。明後日情報番組の北海道ロケ。で、Reoくんは……」

 他のメンバーの仕事を聞いていると、眠気で意識がとびそうだった。しかしそれは全員同じらしく、全員隣に座るメンバーをつついて起こしている。元々が寄せ集めなせいでそこまでチームワークに自信が無いグループなのだが、こういうところは妙に連携していたりする。

「……で、HijiriちゃんとTakaくん。二人で『ギジデート』ゲスト。これは再来週ね」
「……は!?」

 まず声を上げたのは、Takaだった。それに驚いて、ひじりも覚醒する。そして理解すると、彼女もまた「へえ!?」と声を上げた。
 『ギジデート』とは、主に若年齢の女性向けの番組だ。男女二人のゲストが擬似デートを行い、更にゲストの親しい人物がスタジオで二人に指示をする……という形式である。『SIX RED』では、まだ誰も出たことが無い番組だった。

「Hijiriちゃんがデート側。Takaくんがスタジオ側ね」
「よ、よかった~!俺とこいつでデートだったら多分俺こいつに風穴空けてる!」
「そっくりそのまま返すわ……って、デート!?私が!?相手は!?」

 今までドラマに出演した事もあるし、そういった意味での疑似恋愛が出来る程度には経験も度胸もあるつもりだ。しかし、この番組の趣旨は「リアルな芸能人同士のデート」だ。そうなると、さすがに気になる。
 チーフマネージャーは、首を振った。

「これはロケ当日にならなきゃ分からないけど、相手がたがHijiriちゃんを指名しました」
「あー、今回指名パターンなんだ。時々あの番組が企画でやるの、片方が指名してもう片方が何も知らないってやつ」
「詳しいなIzumi」

 Naokiの言葉に、Izumiは何度も頷く。

「めちゃくちゃあの番組好きだから。いいなあ、私もHijiriに裏から恥ずかしい指示出したい」
「そうか!それが出来るのか!」

 一気に顔が明るくなるTakaを一発小突くと、ひじりは頷いた。

「分かった、頑張る!おまかせあれ!」

 緊張半分楽しみ半分、といった心情だった。しかしこれがひじりの人生そのものを変える仕事だということを、本人はまだ知らない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛

冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...