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26.……知られてはならない。

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「あっ、はぁ、やだ、そこほんとだめっ……」
「はいはい」

 ベッドの上で早速衣服をすべて剥かれ、洗ってもいない秘所に食いつかれている。先程散々洗わせてくれと懇願したが、それでもギャムシアは聞く耳を持ってくれなかった。
 ギャムシアの舌が、ラチカの陰核をなぶる。久し振りの感覚に、腰あたりが素直に蕩けだしてきた。

「相変わらずここ弱いな。舐めるだけでこんなに濡らしやがって」
「い、言わないで……っ」
「期待してたんだろ?」

 意地悪に笑うギャムシアは、ラチカの首筋に舌を這わせた。それだけでも全身が粟立つ程の快感を感じ、身をよじる。
 期待をしていたわけではない。ただ、思い出したのだ。彼に呼び出される、快感を。シャイネとはまた違う、意地悪な熱。再び秘所に舌を這わせられ、そのまま奥へと貫かれた。

「――っ!」

 指や肉棒程の飛距離は無いものの、逆にそのもどかしさがくすぐったい。同時に、あまりなぶられる事の無い浅めの位置が舐めあげられ、背筋が伸びる程の快感を浴びてしまう。愛液も枯れる事無く分泌を続け、ギャムシアはひたすら舐め続ける。
 シャイネの時もそうだったが、どうも自分にはこらえ性が無い。とにかく、子宮が……呼んでいる。

「ギャム、シア」
「何だ」
「……欲しい」

 ラチカの羞恥を圧した呟きに、ギャムシアは笑む。まるで、「やっとか」と言わんばかりの顔だ。彼は一体、ラチカをどうしたいと思っているのだろう。
 そっと、宛がわれる。ぢゅる、とぬかるんだ音を立てラチカの秘所はギャムシアの亀頭を呑み込んだ。それだけでもたまらない快感が押し寄せてくるのに、ギャムシアはそのまま一気に腰を進めた。

「う、ゆぅっ」
「はは、何だその声」

 事実、彼の声は楽しそうだった。何度も何度も、子宮を突かれる。

「あっ、ああっ、ひゃんっ!」
「あー……すっげぇなお前、どんどん淫乱になっていきやがる」

 ギャムシアの言葉も、あながち間違いでは無いのかもしれない。実際シャイネと体を重ねた時、彼を誘ったあの瞬間から芽生えていたのかもしれない。
 今は純粋に、この快感を噛みしめていたい。

「っ、飲め!」

 急に引き抜かれ、口内に押し込まれる。どぶ、どぶ、と温い苦味。久々の、ギャムシアの味だ。しっかり胃まで注ぎ込むと、ギャムシアはそっとラチカの口から肉棒を引き抜いた。最後の一滴を吸うと、ギャムシアは眉を寄せる。しかしそれは怒っている様子ではなかった。

「少しずつ、馴染んできたじゃねぇか」
「うぅ……」

 声を出そうとすると、胃から生臭い空気が昇ってくる。思わず眉をしかめるも、ギャムシアは気付いていないようだった。

「まだ俺と結婚する気ねぇのか」

 ふと、落とされた言葉。はっとして彼を見ると、ギャムシアの空色の目がラチカをじっと見ている。しかしすぐに溜息を吐き、顔を背けた。

「まあいいさ、お前は結局俺のものになるんだ。精々今の自由を楽しんでりゃいい」
「ギャム……」
「他の男には絶対やらねえからな、しっかりそこは弁えとけよ」

 それを聞き、心の奥でどろりとした脈を感じた。
 結局最後には、ギャムシアへと堕ちるよう彼は策略を何かしら練っているはずだ。だからこそ、今はこういった余裕を醸し出している。もし、彼がシャイネとの事を知ったら。
 そこまで考えて、ハッとした。何故、真っ先にシャイネを考えた。契ったからか。結婚など、彼とはかなわないのに。

『お嬢様』

 ……ああ、自分は結局最低なのだ。ギャムシアとの答えを保留にし続け、シャイネの事もあんな風に使ってしまった。どちらかに、決めなければならないのに。

「ラチカ」

 呼ばれる、声。もう遅かった。ギャムシアは不機嫌そうにラチカを見ている。

「何を考えてた」
「な、何も」
「他の男の事か」

 ラチカの応えを聞くよりも先に、彼の手が伸びてきた。喉元を掴まれ、ベッドへと倒される。弾力性のある柔らかいベッドとはいえ、ギャムシアの力にラチカの細腕が敵うわけがなかった。
 ギャムシアはラチカの目をじっと覗き込みながら、自身の手を解こうとするラチカの両手を無視した。ただ、ラチカの白い喉を絞め続ける。その力は、少しずつ強まっていくのが分かる。

「お前は俺の妻になるんだ。自由と自分勝手の違いをはき違えんな。意味、分かるな」

 応えようにも、声が出ない。ただ荒くなっていく呼吸を、ギャムシアはにやにやと見下ろしている。

「そうか、分かったか。良い子だ」

 そっと、首から手が外される。全力で酸素を取り込むために深呼吸を繰り返しながら、涙目でギャムシアを見た。彼はどこか後ろ暗いような、何せ晴れやかではないじっとりした笑みを浮かべている。
 ……この男と結婚するには、こういった事にも慣れなければならない。それだけは、分かる。彼の機嫌を取り続け、損ねれば折檻。それは、正直幼少期の兄のせいで慣れてしまっている。
 しかし、自らの自由……シャイネを切り捨ててまで、彼の下に下るべきかどうか。未だ、判断を下せずにいる。

「シャワー浴びるぞ、来い」

 彼の申し出が、彼の望む最高の状況下で示された時。恐らくギャムシアは外堀埋めを開始している。そうなった状況で、断ればどうなるのだろう。そこに関しては、未だ予測がつかない。
 体温の戻り切らない喉元に触れながら、ラチカは立ち上がった。
 シャワーを浴びせてもらいながら、彼の顔を伺い見る。彼はとくに不機嫌な様子も見せずに、むしろ鼻歌混じりでラチカの体を流していた。

「明日は朝一で公務室に来い。この一か月の事を報告し合う」
「あ、うん。あと先月言ってた結界の準備もしてきたんだけど」
「ああ、あれか。分かった、その話もする」

 こういう話の時は本当に穏やかで、とくに熱気も冷気も感じられない。あくまで淡々とした彼が、アスパロロクの後継者の座を掴みあげたとはとても考えられない。もしかすると、彼本人はもともとこういう質なのだろうか。自分に対して、ああなだけで。
 入れ替わりにギャムシアにシャワーをかけてやる。彼の頭の上からかけるようにラチカの手を誘導すると、そのまま一気に被った。ひとしきり流し、頭を振って水気を切る。その勢いで、額から後頭部に向け髪をかき上げた。その仕草があまりに色っぽいのと、彼に微妙に影を落としていた前髪が消えその造形が完全にさらけ出される。正直、どきりとした。やはり、顔が良い。

「なんだ」
「別に」

 そう、確かに顔が良い。最初第一印象が良かったのも、そこだ。そう考えると、ギャムシアは何故ラチカを第一印象よく見てくれたのだろう。兄の事もあっての色眼鏡、だとは思うが。

「ラチカ」
「なに?」

 彼を、見上げる。彼はラチカの頬に手を添えた。水滴が目へと流れ、しみて顔をしかめる。ギャムシアはそんなラチカに、笑みを向けた。

「人形みたいだな、お前は」
「へ」
「気にすんな、そろそろ出るぞ」

 彼はシャワーを止めると、扉の向こうへと消えていった。入り込んだ冷気に鳥肌を立てながらも、彼の背を追う。
 一体、どういう意味なのか。



 翌朝、ポシャロの散歩を終え、ギャムシアの公務室へ向かった。すでにシャイネも居る。何か話しているようだった。挨拶を交わしながら、中へ入る。

「何の話してたの」
「一か月の自国同士の報告を、さわりだけさせて頂いていました」

 シャイネは淡々と答える。ギャムシアとシャイネの二人きり、と考えるだけでどこか恐ろしいものを感じるが特に何もなかったようだ。その事に少し安心する。
 三人で着席し、報告会が始まった。といっても一か月程しか時間が空いていないせいもあり、そんなに特別話す事も無かった。シャイネが鏡磨きの際ラチカが落下したという話をした際ギャムシアは笑みをかみ殺していたぐらいだ。
 ギャムシアは報告書を閉じた。

「ところで、先月話していた結界の件ですが」
「あ、これです」

 ラチカは持ってきていたケースを開いた。中に、四本程楔が入っている。どれも、赤い宝石が先についていた。すべて、日ごろからラチカが自身の血を小まめに抜き取り儀式兼ねて錬成したものだ。亡霊の憑依防止にシャイネに持たせている防護結界にも、この石は使われている。

「これを、国の四方に埋め込みます。私の血で作った石が付いているので、私がロドハルトに居る間は効果が倍増します。勿論離れても効果自体はあります」
「なるほど、では妹君をここにずっと置いておけば我が国は安泰というわけですね」

 あくまで冗談のつもりで言ったのだろうが、きちんとシャイネの心を逆撫でしたらしい。シャイネは先程まで取り繕うように微笑んでいた顔を一瞬にして無に還し、持っていた羽ペンをへし折った。びくりとするラチカを気にする事もなく、しれっと新しいペンに持ち替えている。
 ギャムシアを見ると、彼はどこか笑っているように見えた。いい性格をしているとは思うが、話題の火種が自分なだけに何も言えない。

「け、結界の威力を上げたいというなら更に装置を追加すればいいだけなので……私も定期的に点検するようにはしますし」

 内心冷や汗を滝のように流しながら、ラチカは取り繕うようにまくしたてる。それを、ギャムシアはにこにこと笑みながら頷いていた。

「今日はとくに妹君にして頂く火急の用は何もありませんし、妹君さえ良ければ早速設置して頂ければありがたいのですが」
「分かりました、ロドハルトの地図を頂いてもいいですか」

 ギャムシアは使用人に地図を持ってこさせると、卓上に広げた。ギャムシアの提案を受けながら、設置する場所を定めていく。正方形を描くように点をつけると、ギャムシアは頷いた。

「今日一日あれば、恐らくすべて回れるでしょうね。いかがですか」

 ギャムシアの問いに、ラチカは頷いた。ギャムシアは地図をたたむと、執事長に声をかける。壁にもたれもせず待機していた彼は、いそいそと彼へ近寄ってきた。そんな彼の方を向き、告げる。

「俺は今から妹君とここを出る。支度を頼む」

 その言葉に、どこか含むものを感じる。しかしラチカが口を開く前に、シャイネは眉根を寄せた。

「私も同行致します。お嬢様、支度致しましょう」
「いや、シャイネくんは待機していてください」

 ギャムシアの言葉に、シャイネはあからさまに目を歪める。眼鏡越しに、あからさまな敵意を込めてギャムシアを睨みつけていた。

「私はお嬢様の護衛です。前回の視察といい、何故私がここで待機しなければならないのですか」
「シャ、シャイネ」

 こんなに露骨に噛みつくシャイネがどこか怖くて、慌てて腕を引いた。そんな二人を見て、ギャムシアは小さく笑った。

「ああ、私が妹君に何かするとでも思っていらっしゃるのですか」

 前回の事を思い出す。何もされていないわけでは一切無いのだが、ラチカはさすがに口を挟めない。
 シャイネが答えるよりも先に、ギャムシアは続けた。

「そこまで懸念されずとも、大丈夫ですよ。ロドハルト国主の私が、エヴァイアンの令嬢に何か不快な想いをさせては……あんな大国、敵に回す気は一切ありません」
「それならそれで、何故執拗に二人きりになろうと? その行動自体が、俺の信用をどんどん損ねている。それは分かっておいででしょうに」

 一人称に気を遣えない程にまで荒れているシャイネに、ギャムシアは非常に冷たい目を向ける。それはいつも、彼の機嫌を損ねた時に出る表情だった。
 ギャムシアはシャイネの肩をそっと掴むと、何かを耳打ちする。それを聞き届け、シャイネの目が見た事無い程大きく見開かれた。内容はラチカに一切聞こえなかったが、シャイネは何も言わない。ただ、ギャムシアを睨みつけている。
 執事長はひとつ大きな咳払いをし、シャイネに穏やかに微笑んだ。

「シャイネさん、ご安心を。ギャムシア様は絶対にラチカ様に下手な真似はされません。それは私が命を懸けて保証致しましょう」

 何故そんな言い回しをするのかは、ラチカには分からなかった。ただシャイネは悔しそうに唇を噛みながら、執事長の話に頷いている。
 ギャムシアは改めて、ラチカに向き直った。

「妹君、必要なものはそれだけですか」
「……あ、はい」

 シャイネの様子に気を取られて、返事が一瞬遅れた。ギャムシアは頷くと「では、行きましょうか」と告げて立ち上がる。慌ててそれを追う。シャイネを一瞥したが、彼はこちらに背を向けていた。
 ……あとで、ギャムシアに聞こう。いかに機嫌を損ねたとしても。




「大丈夫ですか」
「はい。申し訳ありません……取り乱しました」

 執事長に差し出された水を呑み込む。冷たい流れが、体の中を拓いた。シャイネは深呼吸すると、執事長を見た。

「……どこまで、ご存知なんですか。ロドハルトは……いや、アスパロロクは」

 執事長はシャイネをじっと見る。彼は「顔色が悪うございますな」とだけ呟き、シャイネの手からグラスを受け取った。

「一つだけ言えるのは、ギャムシア様は決してラチカ様を悪いようには扱いません。私は四六時中彼と共に居ますが、彼は真剣にラチカ様ご自身を所望しておられます」

 それは、嫌な程分かる。だからこそあんな形で牽制もかけてくるのだろう。
 それだけだったのだ、今まで。彼が邪魔だった理由は。それなのに、知ってしまった。
 ……ヴェリアナの言う通りだ。奴は確かに、早めに始末した方がいい。それがあくまで、彼女の思惑の鉾を握らされるだけだとしても。彼を消す事自体が、シャイネの目的にもなったのだ。
 ラチカに、気取られないように。彼女を悲しませないように。彼女が、自分のもとへと安心して堕ちられるように。
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