【R18】花嫁は夢の終わりに食い潰される。

湖霧どどめ

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18.まやかしの分際で「叶った」なんてよく勘違い出来たものだ。

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 ヴィエロが帰宅した。いつものようにサエラは夕飯を配膳する。もう二人きりの夕飯にも慣れてきた。ずっと、こうであったかのように。それが、自然であるかのように。
 食事を終えると、ヴィエロは小瓶を差し出してきた。

「これは……」
「頭痛薬だ」

 小瓶を受け取る。中身は、小さな錠剤がいくつか入っていた。

「治験済だ。副作用として眠気が起きるから、寝る前にがいいだろう。毎夜欠かさず飲め、数が足りなくなったら言え」
「あ、ありがとうございます」

 彼が自分の体調に気を配るなど、初めての事のように感じられた。ここ数日、本当に彼は変わってきたと思う。サエラに、優しくなった。
 ……いや、そもそも何故彼は自分に暴力を振るっていたのだろう。頭がどうも、思考しない。ずっと、細かく脈打つような痛みが続いている。ここ数日、とくにひどい。

「いらないのか」

 ヴィエロはサエラの手から小瓶を取ろうとする。しかしサエラは首を振った。

「いいえ、いただきます」

 頭痛が治る、という言葉そのものは確かに魅力的だった。それに恐らく、これはヴィエロが調合したものだろう。昔からだが、製薬調合を主に生業としているこの家の中でもヴィエロはとくにその腕が秀でている。
 水と共に、一錠口にする。無味無臭だった。サエラが嚥下したのを確認すると、ヴィエロは頷いた。

「即効性だが、今の気分は」

 まるで問診のような感覚である。事務的ではあったが、サエラの返事を心待ちにしているかのような期待が感じ取れた。
 脳の奥の痛みは、すっとやんだ。しかし、どうも頭だけ熱っぽい。苦しくはないが、もやがかかったかのような感覚だ。

「……少し、ぼうっとします」
「効いてる証だ」

 そう言われてみれば、そんな気もする。熱のせいで溶けるように、思考を奪われていく感覚。
 ふと、ヴィエロの目がこちらを捕らえた。深い緑色が、射る。

「サエラ」

 柔らかい、声。

「俺は、誰だ」

 目の前の男は、じっとこちらを見ている。
 サエラもまた、彼を見据えた。

「ヴィエロ様です」

 それを聞き、ヴィエロは頷いた。そして、続ける。

「俺は、お前の、何だ」
「……夫、です」

 だって、彼がそう仕向けたのだから。最初から、そうなるように仕組んだと言っていた。だからこそ、そう答えて相違ないだろう。
 ヴィエロは立ち上がった。

「ああ、そうだ」

 ヴィエロはサエラを引き寄せ、抱きしめた。その腕は、とても優しい。暴力とは縁遠い力だ。昔は何かにつけて殴ってきていたのに。
 ……そもそも彼は何故サエラを殴っていたのだろう。

「来い」

 サエラの腕を引く。それに大人しく従った。
 誘われたのは、寝室だった。ヴィエロはサエラをうつ伏せでベッドにそっと寝かせると、上に被さってきた。
 そのまま、ヴィエロの手がサエラの服を脱がせる。彼の前で全裸を晒すのは、初めてのことだ。いつも、彼は性器を露出させる以上の事はしてこなかった。そういう性癖かと思っていたが。
 サエラの服をベッドの脇に置くと、ヴィエロは改めてサエラの剥き出しの姿を眺めた。

「……ひどいな」

 サエラの背から尻にかけて、ほぼ全面に広がる醜い火傷跡。それを指でなぞっても、感覚を失っているのかサエラは何も反応しなかった。

「これは、どうした?」

 問われたサエラは、何も言わなかった。やがて、口を開く。

「……何故、なのでしょう。思い出せません」

 思考できない。記憶にかけられたもやが、邪魔をする。

「そうか、それでいい」

 会話を無かった事にするかのように、ヴィエロはサエラの背に舌を這わせた。それでもサエラは、何も反応しない。
 ヴィエロはサエラの体を仰向けにさせた。露出した控えめな胸元を隠すように身を縮こませるサエラに「来い」と告げ、抱き締めた。

「サエラ」
「はい」
「お前は、俺のものになったな?」

 縋るような声。

「……はい」

 なった、という言い方に少しの違和感。まるで自分が……元は違う者のものだったかのような言い方に感じた。
 ヴィエロの手が、サエラの髪を解いた。そのまま、梳かすように指を通す。その感触が、とても懐かしく感じた。しかし、誰にされていたかを思い出せない。

「サエラ」

 口付けられる。柔らかな感触に、身を委ねることしか出来ない。
 ヴィエロの手が、胸元に触れた。膨らみ指でなぞると、サエラは身をよじらせた。

「は、俺のものになった途端体が素直になったか」
「っ……」

 不思議だ。ヴィエロに触られるのは初めてなはずなのに、この感触を知っている気がする。自分の処女は、彼に破られたはずなのに。

「ひゃ、う」

 指が、サエラの膣口に触れた。

「糸引いてるぞ」
「い、言わないでくだ……」

 言い切る前に、ヴィエロの雄が触れた。そのまま、突き進んでくる。

「っ……!」

 ぐち、ぐち、と音を立てて進んでくる。もう何度もこの男を受け入れているのに、未だに簡単に許そうとしない。
 ヴィエロは小さく呻きながら、細かく腰を振る。奥へとやってくる衝撃に、泣きそうになる。
 あまりに、熱い。脳が溶かされそうだ。

「あ、あ、あっ……」
「サエラ」

 名を呼ばれて彼を見ると、彼は笑っていた。その顔は、何かに似ていた。しかし、思い出せない。

「やっと、落ちてきたな」
「ひゃうっ!」

 奥へ、入り込まれる。突如として落ちた雷に、身がびくついた。

「あっ、だめ、だめ、です、あっ」
「やっと、俺の……俺だけのものにっ……」

 まるで譫言だった。それでも、止まらない。
 やがて、ヴィエロの手が強くサエラを抱き締めた。硬直して、一気に射精される。中に熱が広がっていくものの、サエラの脳の熱は未だ冷めない。ひたすら、ぼうっとする。
 づるり、と抜き取られた。息を整えるヴィエロは、ばたりとベッドに倒れた。

「ヴィエロ様……」

 声掛けると、頭にヴィエロの手が伸びた。そのまま、抱き締められる。

「今まで、悪かった」
「え」
「……もう俺だけのものでいるなら、それでいい。俺だけのものになってくれるなら。それが欲しかっただけだったんだ……」

 意図は分からない。ただ、その呟きを聞くことしか。
 ずるり、と落ちてきた。どうやら寝入ってしまったようだった。それを見た途端、サエラの意識も遠のいていった。
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