星の光で傷を灼く

湖霧どどめ

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 話題を切り上げた私たちは、どちらからともなく互いのスケッチブックを手に取った。どんな荷物の時でもスケッチブックだけは持ち歩く、という共通点まであったことに私たちは苦笑した。もはや双子にすら感じた。
 彼のスケッチブックは主に写実的なイラストが多かった。こればかりは職業病だろう。そして多かったのは、月の絵だった。

「月のモチーフ、人気なんですよ。あと薔薇と蝶」
「ああ……」

 何となく、分かる気がする。かつてのクラスメイトが一時期ヴィジュアル系にハマっていて、そのあたりのモチーフで小物を固めていたのを何となく思い出した。

「おねえさんは星が好きなんですか」
「単純に田舎町に居る事が多かったから、イメージが湧きやすかっただけですよ。北欧を抜けてからはとくに懐かしさでよく描いてました、確か」

 彼は私から自分のスケッチブックを取り上げた。その手つきこそは優しかったけどどこか焦っているように見えて、その意味が分かった私は大人しく従った。やはり彼は、ペンを手に取った。
 新たなページに、いくつかのイラストが生まれた。それは、月と星を組み合わせた一つのモチーフだった。

「絵になるでしょう」

 彼はそう言って、スケッチブックを眺めていた。まるで子の誕生のように、嬉しそうな目をしていた。その気持ちが分かるからか……ひとつの願望が、生まれた。

「それ、欲しいです」
「著作権的な意味合いですか?」
「……今、彫れないですか。それ」

 彼は一瞬だけ息を呑んだ。そして私を抱きしめると、すぐに離した。それも、一瞬だった。星の瞬きよりも。

「今までタトゥー彫った事はありますか」
「無い、です」
「俺の知り合いのスタジオがちょっと電車に乗った先にあるんで、明日行きましょうか」

 彼の言葉に、私は頷いた。
 その後は待ち合わせの場所と時間だけ決めて、解散した。連絡先を交換する、という流れには行きつかなかった。きっと私たちは、この出会いを刹那にしたかったのかもしれない。
 だから私たちのこの傷の舐め合いも、明日までだ。
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