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第一章
鬼が出た
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昼過ぎ。護国寺と綴町は近くの定食屋まで来ていた。リーズナブルな値段が売りのここは、貧乏学生の彼にとって重宝する存在となるであろう。
適当にメニューの中から、『サービスランチ』なるものを選択した護国寺。一方彼女は刺身定食を選んでいた。
「俺来るの二回目だぜ。多分卒業までに軽く三桁は通うことになるだろうけど」
「そこで得意げになる意味が解らないんですが……。自炊をしようという気にはならないんですか?」
「カレーくらいなら作りたいけどなあ。作り置きできるし」
「いいことです。存分に母の味との違いに愕然としてください」
注文して十五分ほど経って、ほぼ同じタイミングで定食が出揃った。ちなみに、本日のサービスランチのメインは煮込みハンバーグである。
「刺身どれかちょうだい」
「じゃあハンバーグ少し貰いますね」
そう言って迅速にトレードする。それぞれ舌鼓を打ちながら、綴町が問いかけてくる。
「あのー、明日何か予定とかってありますか?」
「ん? 明日は健康診断に行く予定だったから、午後からは空いてるな。何かあるのか?」
「どうせし……先輩、明日もボッチなんでしょう? だったら、折角なんで私と部活見学行きませんか?」
一言余計だが、まさしくボッチなのはほぼ確定的だ。見知らぬ人相手にいきなり話しかけられるほど、彼のコミュ力は高くない。
とは言え護国寺も、大学生活をボッチで貫き通したいと考えているわけではない。そして友達を作るなら、部活という決まった立ち位置を確立した方が効率的と言える。
というか、彼一人だと二の足を踏み続けて、永遠に歩き出せない可能性がある。
そんなだらけきった未来が容易に想像できてしまう護国寺は、内心身震いしながら返した。
「解った。じゃあ、明日の一時くらいに待ち合わせしようか」
「はい。場所はまたLINEしますね」
「おう。……あれ? 俺のLINE知ってたっけ?」
護国寺が携帯を買ったのは高校生からで、ちょうどその頃から疎遠になり始めていた綴町とは、確かLINEを交換していなかったはずである。
ピタリと彼女は箸の動きを止めて、代わりに茶飲みを口に寄せた。
「……あなたの母から訊いてたんですよ。確かLINEIDは――――」
と、確認のために彼女は彼のIDを告げた。確かに読まれた通りのIDだ。なるほど、母から息子の世話を頼まれたというのなら、LINEくらい教えてもらっていてもおかしくはない。
筋の通った理論に、護国寺はうんと頷く。
「言われてみればそうだ。細かい性分なんだ、許せ」
「そんな、謝られることでも…………」
彼女は困った風の表情に変わる。面と向かって頭を下げられるとむず痒く感じてしまうのだろう。その気持ちは解る。
護国寺は早々に頭を上げ、彼女の顔を見てクスリと笑った。それを受けて、綴町はむすっとした顔になる。
「私の反応を見て面白がらないでください。刺しますよ」
「ヤンデレかよ、オーバー過ぎるだろ……」
ハンバーグ用に付いてきた銀色のナイフを引ったくった彼女を見て、護国寺は即座に降参を示す風に両手を上げた。これが殺気か。
食事を終えると、護国寺は綴町と別れ帰宅した。
大学生活一日目は、何ら問題なく過ぎていった。
適当にメニューの中から、『サービスランチ』なるものを選択した護国寺。一方彼女は刺身定食を選んでいた。
「俺来るの二回目だぜ。多分卒業までに軽く三桁は通うことになるだろうけど」
「そこで得意げになる意味が解らないんですが……。自炊をしようという気にはならないんですか?」
「カレーくらいなら作りたいけどなあ。作り置きできるし」
「いいことです。存分に母の味との違いに愕然としてください」
注文して十五分ほど経って、ほぼ同じタイミングで定食が出揃った。ちなみに、本日のサービスランチのメインは煮込みハンバーグである。
「刺身どれかちょうだい」
「じゃあハンバーグ少し貰いますね」
そう言って迅速にトレードする。それぞれ舌鼓を打ちながら、綴町が問いかけてくる。
「あのー、明日何か予定とかってありますか?」
「ん? 明日は健康診断に行く予定だったから、午後からは空いてるな。何かあるのか?」
「どうせし……先輩、明日もボッチなんでしょう? だったら、折角なんで私と部活見学行きませんか?」
一言余計だが、まさしくボッチなのはほぼ確定的だ。見知らぬ人相手にいきなり話しかけられるほど、彼のコミュ力は高くない。
とは言え護国寺も、大学生活をボッチで貫き通したいと考えているわけではない。そして友達を作るなら、部活という決まった立ち位置を確立した方が効率的と言える。
というか、彼一人だと二の足を踏み続けて、永遠に歩き出せない可能性がある。
そんなだらけきった未来が容易に想像できてしまう護国寺は、内心身震いしながら返した。
「解った。じゃあ、明日の一時くらいに待ち合わせしようか」
「はい。場所はまたLINEしますね」
「おう。……あれ? 俺のLINE知ってたっけ?」
護国寺が携帯を買ったのは高校生からで、ちょうどその頃から疎遠になり始めていた綴町とは、確かLINEを交換していなかったはずである。
ピタリと彼女は箸の動きを止めて、代わりに茶飲みを口に寄せた。
「……あなたの母から訊いてたんですよ。確かLINEIDは――――」
と、確認のために彼女は彼のIDを告げた。確かに読まれた通りのIDだ。なるほど、母から息子の世話を頼まれたというのなら、LINEくらい教えてもらっていてもおかしくはない。
筋の通った理論に、護国寺はうんと頷く。
「言われてみればそうだ。細かい性分なんだ、許せ」
「そんな、謝られることでも…………」
彼女は困った風の表情に変わる。面と向かって頭を下げられるとむず痒く感じてしまうのだろう。その気持ちは解る。
護国寺は早々に頭を上げ、彼女の顔を見てクスリと笑った。それを受けて、綴町はむすっとした顔になる。
「私の反応を見て面白がらないでください。刺しますよ」
「ヤンデレかよ、オーバー過ぎるだろ……」
ハンバーグ用に付いてきた銀色のナイフを引ったくった彼女を見て、護国寺は即座に降参を示す風に両手を上げた。これが殺気か。
食事を終えると、護国寺は綴町と別れ帰宅した。
大学生活一日目は、何ら問題なく過ぎていった。
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