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絶対支配領主『バハムート』人類衰退度A+
第10話 炎竜バアル・ボウル(後)
しおりを挟むもっともな疑問に、タイガは余裕の表情で答えてみせた。
「――――貴様の理屈は、自前の炉心だけで比べた場合の話だろう? 他にも魔力は……たとえば、大気中にも漂っているじゃないか」
たとえばドラゴンのブレスは魔力によって構成されている。それが体外へと放出され、魔力は外気に溶け込み蓄積されていく。言ってしまえば排気ガスのようなもの。目に見えなくとも確かに存在しているのだ。
そこまで言われて、バアル・ボウルは答えを待たずにハッとなった。
「貴様よもや……自身の魔力を大気中の魔力に【調和】させ、利用したというのか!?」
「やはり存外頭は悪くないようだ。固定概念に囚われることなく、事実だけで推理する――――うむ、悪くない」
タイガは大きく一度頷き、これを肯定した。
分かりやすく言えば、タイガは三度の工程を経てブレスを打ち消したのだ。
①自身の魔力を大気中の魔力と同質化させる。
②【調和】させた魔力を、今度は迫り来るブレスのそれと同質化させる。
③膨大な魔力を同規模で衝突させる。
あの一瞬で冷静さを失わずにやってのけた男の胆力には恐れ入る。きっと日頃から相当な鍛錬を積んできたに違いない。そうでなくてはここまで迅速に対応できるはずがないからだ。
この方法であれば、さほど自身の霊力を損なわずに相殺することができる。これも男の【調和】あってこそだが。
全ての種は明かされた。であれば――――
「――――さて、そろそろ幕を下ろそうじゃないか。俺は吟遊詩人でもなければ、これ以上貴様に聞かせる詩もないのでな」
「ま、待てっ!」
タイガの握る剣が振り上げられ、バアル・ボウルは慌てて声を上げた。
それにはかつて圧政を振るったものの威厳はまるでなく、ただ死に怯えるいち生命体による声だった。
「聞けば貴様も、神竜バハムートを討とうとしているそうではないか! つまり我々の利害は一致している! であれば手を組み、共に肩を並べて神竜打倒に心血を注ぐべきだっ! そうだろう!?」
「…………、」
「無論我だけではない! 既に何体かの管理者にも声をかけてある。しかし我を殺せばその同盟は崩壊し、バハムートを討つことが困難になるぞ!? 賢明な貴様のことだ、どうすれば己の利となるか、分からんわけではあるまい?」
タイガはその訴えを黙って聞いていた。振り上げた剣を静止させたところを見ると、どうやら一考の余地ありと睨んだらしい。
屈辱だ、とバアル・ボウルは耐え忍びつつ、腹の底では計略を練っていた。
(誰が貴様ら人間と肩を並べるものか! そんなことをすれば、他の管理者からはおろか、全ドラゴンから馬鹿にされるに決まってる! 業腹だがここは、一旦手を握るフリをして、隙を突きあの村を人質にしてやる! この手の正義漢には最も有効な方法だ……!)
顎に手を当てて考えていたタイガは、やがて腹を決めた風に頷いた。
「なるほど……。実に魅力的な提案だ」
「……! 我も貴様のような人間であれば、惜しみなく手を組める。即席ではあるが契りを交わしたい、まずはそこから降りてくれんか――――?」
バアル・ボウルは打って変わって温厚な態度で接する。しかし内面では「しめた」とほくそ笑んでいた。
タイガは剣を下ろして、言われた通りに鼻先から飛び降りた。途端に死の恐怖からの解放感を得たバアル・バゼルは、視界を落として男を追いかける。
「は――――?」
異変に、気付いた。
視界が二つに分裂したのだ。それを知覚できたのも一瞬、すぐに意識は右眼へと移り、眼球を左へと寄せる。
――――鼻を中心にして、自身の身体が真っ二つに両断されていることに、ようやく気付くことができた。顔面だけではなく尻尾の先まで。抵抗すらできず、視界は右へと緩やかに傾いていく。
見下ろすと、先ほどまで振り上げていたタイガの剣に血が付着しているのが分かった。なるほど、どうやら自分はいつの間にかアレに斬られていたらしい、と。
タイガは背を向けたまま、毅然とした調子で言った。
「――――しかし、生憎この先にドラゴンの力は必要ない」
視界が急速に黒に染まっていく。それに合わせて意識が朦朧としてきた。もはや声すら発せない。
そんな世界の中で、唯一男の声だけが響いていた。
「これからは、彼女たち人間の時代だからだ」
ズゥン、と己の巨体が大地に沈んだ音と同時に、バアル・ボウルの全てがブラックアウトした。
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