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第一章 メルトヴァル学院での日々
まさに衝撃の出会いです2
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ハイテンションな伯爵令嬢リンジー様の奇行……失礼、理解を越えた衝撃の出会いを経て、ルティウス様たちと共に屋敷の中へ案内され、今はお茶を振る舞われています。
自称ヒロインさんとは別の意味で規格外な行動しましたからね、彼女。人前では見事な猫を被ってるんですよ。本性を知った人はそのギャップの激しさについていけないほどなんですよね……………
こほん、と軽く咳払いをして彼女は挨拶をするべく呼び戻した猫を被りました。……今さら被り直す必要はあるのでしょうか。
「先程は失礼致しました。私、シュドヘル様と婚約させて頂いております、リンジー・クラウドと申しますわ。シュドヘル様からリュミエルに会えるとお聞きしまして、つい感情が昂りまして……………」
片手を頬にあてて、恥ずかしそうに顔を赤らめているリンジー様。彼女を見るルティウス様たちの顔がまだ引き攣ったままなのは気のせいだと思いたいです。たぶん、みなさんこう言いたいのでしょう。「さっきの奇行を『感情が昂った』の一言で片付けていいのだろうか」と。
案の定といいますか、主が冷めた視線で一言。
「本性が知られているのに今さら猫を被り直しても仕方あるまい。普通に話せ、リンジー」
淑やかに話し出したリンジー様を主はばっさり斬り捨てました。その雑な対応に不満げに顔をしかめるリンジー様。
「相変わらず可愛いげのないことですわね、クルシェット殿下。せっかく淑女らしく振る舞っているのですから、少しくらいお付き合いしてくださってもいいじゃありませんか」
「ドレスの裾を掴んで突撃してくる奴を淑女とは言わん。それにオレは男だ、可愛げがあっても仕方ないだろうが」
「それは先程謝罪したではありませんか。私が言いたいのはもう少し愛想よくされたらどうか、と言いたかったのです。それに、いつまでもちくちくと小言を言うのが紳士のすることですか?」
「余計なお世話だ。その言葉、そっくりそのまま返してやる」
「それはこちらの台詞ですわ」
バチバチと視線をぶつけ合いながらぽんぽんと嫌みの応酬をしている二人を、ルティウス様は珍しそうに、シルディオ様とソール様は唖然とした表情で見てらっしゃいますね。クレイシェスは──あ、そっぽ向いて笑いを堪えていますね、あれ。何かツボに入ったようです。精霊の笑いのツボはいまいちわかりませんね………と、現実逃避している場合ではありませんでした。
「主、リンジー様。申し訳ありませんが今は恒例のやり取りをなさっている場合ではありません」
「む」
「あら、私としたことが。お客様を前にしてすることではありませんでしたわね、ごめんあそばせ」
このままではらちが明かないので、会話に入らせてもらい、話の軌道を修正させて頂きました。幼馴染みではあるので気安くはあるのですが……いかんせん気安すぎてたまにこうなるのですよね、このお二人。
「こんなことをしている場合ではなかったな。リンジー、お前に聞きたいことがあると言っている精霊を連れてきたんだ」
「精霊?私に何のご用ですの?」
「クレイシェス──」
主の代わりに声をかけようとしたシュドヘル様がクレイシェスの方を見て固まりました。目を向けた所にクレイシェスがいなかった、というのもあるのですが。なにより彼を固まらせた原因は───
『……ぐふっ……………く………くく………』
部屋の隅に、こちらに背を向けて小刻みに震えている犬がいたからですね。
といいますか、クレイシェス、貴方まだ笑いが治まっていなかったのですか。ぶんぶんと尻尾が動いているので、分かりやすいです。
その犬がクレイシェスだと分かるのは、背中に3対の精霊羽があるからですね。
注意をしようとして腰を上げたところで、ルティウス様に抱き寄せられ──ソファに隣同士で座っていたからです──、立ち上がることに失敗しました。
彼の片手がすぅ、と移動しているのに気づき、はっと天井を見たのですが。いつの間にやら彼──クレイシェスの頭上に水球を浮かばせていたルティウス様──目を据わらせているのは気のせいではないでしょう──は、それを指を鳴らして割りました。
『きゃいんっ⁉』
ばっしゃん、と盛大に水をかぶり、クレイシェスはずぶ濡れになりました。やはり本体が犬だからか、悲鳴も犬ですね、彼。そしてブルブルと身体を振らないでください、部屋に水が飛び散る──あ、さすがルティウス様。水の結界を張っていたようで、部屋が水浸しになるのは避けられました。
リンジー様はぽかん、としていましたが、一転して興奮状態になりました。
「……………クレイシェス?『スピ愛』の隠しキャラの⁉───は!そういえばルティウス様もいらっしゃいますわぁぁああ‼」
………リンジー様、ルティウス様のことも今お気づきになられたのですか?
といいますか……貴女も転生者だったわけですか。
自称ヒロインさんとは別の意味で規格外な行動しましたからね、彼女。人前では見事な猫を被ってるんですよ。本性を知った人はそのギャップの激しさについていけないほどなんですよね……………
こほん、と軽く咳払いをして彼女は挨拶をするべく呼び戻した猫を被りました。……今さら被り直す必要はあるのでしょうか。
「先程は失礼致しました。私、シュドヘル様と婚約させて頂いております、リンジー・クラウドと申しますわ。シュドヘル様からリュミエルに会えるとお聞きしまして、つい感情が昂りまして……………」
片手を頬にあてて、恥ずかしそうに顔を赤らめているリンジー様。彼女を見るルティウス様たちの顔がまだ引き攣ったままなのは気のせいだと思いたいです。たぶん、みなさんこう言いたいのでしょう。「さっきの奇行を『感情が昂った』の一言で片付けていいのだろうか」と。
案の定といいますか、主が冷めた視線で一言。
「本性が知られているのに今さら猫を被り直しても仕方あるまい。普通に話せ、リンジー」
淑やかに話し出したリンジー様を主はばっさり斬り捨てました。その雑な対応に不満げに顔をしかめるリンジー様。
「相変わらず可愛いげのないことですわね、クルシェット殿下。せっかく淑女らしく振る舞っているのですから、少しくらいお付き合いしてくださってもいいじゃありませんか」
「ドレスの裾を掴んで突撃してくる奴を淑女とは言わん。それにオレは男だ、可愛げがあっても仕方ないだろうが」
「それは先程謝罪したではありませんか。私が言いたいのはもう少し愛想よくされたらどうか、と言いたかったのです。それに、いつまでもちくちくと小言を言うのが紳士のすることですか?」
「余計なお世話だ。その言葉、そっくりそのまま返してやる」
「それはこちらの台詞ですわ」
バチバチと視線をぶつけ合いながらぽんぽんと嫌みの応酬をしている二人を、ルティウス様は珍しそうに、シルディオ様とソール様は唖然とした表情で見てらっしゃいますね。クレイシェスは──あ、そっぽ向いて笑いを堪えていますね、あれ。何かツボに入ったようです。精霊の笑いのツボはいまいちわかりませんね………と、現実逃避している場合ではありませんでした。
「主、リンジー様。申し訳ありませんが今は恒例のやり取りをなさっている場合ではありません」
「む」
「あら、私としたことが。お客様を前にしてすることではありませんでしたわね、ごめんあそばせ」
このままではらちが明かないので、会話に入らせてもらい、話の軌道を修正させて頂きました。幼馴染みではあるので気安くはあるのですが……いかんせん気安すぎてたまにこうなるのですよね、このお二人。
「こんなことをしている場合ではなかったな。リンジー、お前に聞きたいことがあると言っている精霊を連れてきたんだ」
「精霊?私に何のご用ですの?」
「クレイシェス──」
主の代わりに声をかけようとしたシュドヘル様がクレイシェスの方を見て固まりました。目を向けた所にクレイシェスがいなかった、というのもあるのですが。なにより彼を固まらせた原因は───
『……ぐふっ……………く………くく………』
部屋の隅に、こちらに背を向けて小刻みに震えている犬がいたからですね。
といいますか、クレイシェス、貴方まだ笑いが治まっていなかったのですか。ぶんぶんと尻尾が動いているので、分かりやすいです。
その犬がクレイシェスだと分かるのは、背中に3対の精霊羽があるからですね。
注意をしようとして腰を上げたところで、ルティウス様に抱き寄せられ──ソファに隣同士で座っていたからです──、立ち上がることに失敗しました。
彼の片手がすぅ、と移動しているのに気づき、はっと天井を見たのですが。いつの間にやら彼──クレイシェスの頭上に水球を浮かばせていたルティウス様──目を据わらせているのは気のせいではないでしょう──は、それを指を鳴らして割りました。
『きゃいんっ⁉』
ばっしゃん、と盛大に水をかぶり、クレイシェスはずぶ濡れになりました。やはり本体が犬だからか、悲鳴も犬ですね、彼。そしてブルブルと身体を振らないでください、部屋に水が飛び散る──あ、さすがルティウス様。水の結界を張っていたようで、部屋が水浸しになるのは避けられました。
リンジー様はぽかん、としていましたが、一転して興奮状態になりました。
「……………クレイシェス?『スピ愛』の隠しキャラの⁉───は!そういえばルティウス様もいらっしゃいますわぁぁああ‼」
………リンジー様、ルティウス様のことも今お気づきになられたのですか?
といいますか……貴女も転生者だったわけですか。
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