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普段冷静な人が大切な人の為にキレるのはベタだが安定感あるもえ所

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 ああ、何という無力感。

 「レオが愛しているのがあなただけだなんて、大した自信ね! 蝶よ花よと愛され育てられた女王様なら、当然かしら!?」

 「人を苦労知らずみたいに言わないでちょうだい! 私の事、何も知らないくせに!」


 2人の美しい女性が、肉弾戦プラス舌戦を繰り広げているというのに。お止めする事も叶わない。
 凄まじい倦怠感で、ベッドから起き上がる事も出来なくて――。


 「少なくとも、私みたいな苦労はしていないでしょ! 侍医は代々男だから……王室の為、王族の為に男になれ、なんてバカげた理由で男として育てられて……! 自分よりもブスな女達が化粧して着飾って、ボーイフレンドとのデートの話を嬉しそうにくっちゃべってるのを、すっぴんで眺める屈辱たるや!」

 「それで、クリスには双子の妹がいると嘘をついて、女性の身なりで社交界に繰り出していたというの!? 何よそのラブコメの主人公みたいな設定! それで何!? 男の状態で出会った素敵な騎士と、ドタバタなハプニングと、ちょっと悲しい過去を乗り越えて恋に落ちちゃう、みたいなベタな展開を狙っていたわけ!? ちょっと見た目がいいからって、ヒロイン気どりはやめて!!」


 頼みの男手……アランと伯爵は、少し離れた所で眉間に皺を寄せて、眺めているだけだし。
 ジェニーは先程、バーク夫妻を連れて家の外に出て行ってしまったし。


 「んなハッピーな流れになってないっつーの! あんたに夢中なせいで、レオは私が女だと気付きもしないし、毎日顔を合わせてたのに存在すら忘れてた!!」

 「というかさっきから何なの!? あなた不幸自慢がしたいの!? 可哀想な生い立ちだったら、人の恋人を奪ってもいいと思っているのではない!?」


 しかし……。悪くない。
 長年愛し続けた人と、好みドストライクの豊乳美女が、俺をめぐって争っている。
 
 うん。全然悪くない。
 怪我にさえ気を付けて頂ければ、いつまでも見ていたい位だ。


 「思ってるわよ! 女としての人生も、父の愛も、王族に……ローラ女王! あなたに奪われたんだもの! 好きな人位、手に入れたって神様はバチなんかあてないわ!!」

 「神様が許したって、私が許さないから!!!」


 まだぼんやりしている俺の頭を一気にクリアにする程……一際大きな、陛下の怒声。

 クリスティーナは驚いた様子で、陛下の服と腕を掴んだまま口をつぐんだ。

 「……あなたの死の責任を問われた時、レオは一つの言い訳もしなかった。クリスから大切な家族を奪ってしまったと……深く傷つき、悔やむだけで。だから再会した時、レオはあなたを責めたりはしなかったでしょう? それどころか無事でよかったと喜んで、あなたを抱きしめたんじゃない? あなたの狂言を告発し、自分の汚名をすすぎたいなんて、言う事もせず」

 「そ、それは……」

 「レオはそういう人なのよ。馬鹿としか言いようが無い程、底抜けに、優しい。あなたはそんな彼を……私の大切な人を、汚い手で傷付け、苦しめ、徹底的に打ちのめした!! 他の誰が許そうと、私だけはぜっっっっっっっっっったいに!! 許さないんだから!!!」


 温かな雫が、俺の頬を伝う。

 知らなかった。

 ローラ様が、そんな風に思って下さっていたなんて。
 
 互いへの愛情の深さを競ったなら、恐らく俺の圧勝であろうと思っていたから。

 あの穏やかな陛下が、俺などの為に、他人を怒鳴り散らしたりするなんて。

 髪もドレスも振り乱して、壁ドンしたり、不利な体勢から蹴り技を繰り出したり、灰かき棒を白刃取りをしたり……教科書でしか見た事が無いような関節技を決めたり、家具を複数個破壊して武器にしたり、それ当たったら死ぬやつだけど大丈夫ですかという急所を狙ったり……そんな大それた真似をなさるなんて。

 自分がこれ程までに愛されていた事を、俺は今、初めて知った。

 喜びと、驚きと、感謝と……少々の恐怖心。

 それが、溢れた涙の成分。


 「許さないなら……どうするっていうの? 真相を公にして、私を罰する?」

 思わず後ずさりしてしまいたくなるようなローラ様の気迫に、身をすくませていたクリスティーナ。
 強がりからか、口の端を上げながらそう尋ねる彼女に、ローラ様は低い声でお答えになった。

 「レオと……この村の人々を助けなさい。じゃなきゃ……生まれて来た事を後悔させてあげる」
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