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我々が食べているあの果物、じつは果実の部分では無いのですという割とどうでもいい豆知識
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あれは12歳位の頃だったか――。
『レオ……お前は一体、何をしているんだ』
イチゴの表面についているツブツブを、1つ1つを取り除いていた俺に、父が言った。
『父上、実は……今日ローラ様が、“イチゴには一粒あたり、いくつの種がついているのかしら”とおっしゃったので……』
『それで数えていたのか? はは! お前は本当に、王女の為なら何でもするんだな』
『ええ! 私はローラ様のお役に立つ事なら、どんな知識や技術も習得しておきたいのです!』
『はは! これは頼もしい! では将来は私のように騎士団長になって……女王となったローラ様をお支えするか?』
『うーん……それはわかりません。父上の事は心から尊敬していますし、父上のような男になる事が私の目標ではありますが……地位や立場にはこだわりません。ローラ様のお幸せに貢献出来れば、それで良いのです』
第一志望はローラ様の夫ではありますが。とは……ウブでピュアな当時の俺には、流石に言えなかった。
でも、嘘にはならない程度に、陛下への忠誠心を理解して頂こうと思って、そう返答したのだが……
その後父は、複雑な苦笑いを浮かべ――ボソリと呟いたのだ。
『それじゃあ……紅薔薇の後継者にはふさわしくないな……』
『え?』
『いや、何でもない。そんな事より……そのツブツブはイチゴの種では無く、1つ1つが果実なんだよ。私達が果実だと思っているその甘い部分は、茎の先端が膨らんだもので、偽果という。殿下に教えて差し上げると良い。お前の株が上がるぞ』
『ええ!? そうなのですか!! さすが父上! 博識でいらっしゃいますね!』
『そういうのに詳しい友人からの受け売りだがな』
『ローラ様、きっと驚かれます! ありがとうございます!』
『いや、なんのなんの、はは……!』
懐かしい……。
あの時は本当に驚いた。まさかイチゴの食べる部分が果実では無かっ……
いやいやいや――違う。
何やら今、重要なワードが回想に登場しなかったか?
「レオナルド? もう、来ている?」
ドアごしに、ローラ様の鈴を転がすようなお声が聞こえた。
手紙を握りしめる手に、力が入る。
一月の間、離れ離れになっていた愛おしい女王陛下が、今、目の前の扉の向こうにいらっしゃるのだ。
もう、インクの匂いだけで我慢する必要は無い。
「はい、私はここに。他のソルジャー……ジェニーはトマトの配達が終わり次第来ます。アランと伯爵も近いうちに。時間をずらして来るよう伝えてありますので」
禊ぎの間と湯あみの間とをつなぐ扉が、ゆっくりと開いた。
熱気と湿気を帯びた湯煙が、ドアの隙間から入り込む。
陛下、陛下、陛下――。
もっと勢いよくバーン! と開けて下さって良いのに。
1秒でも早く、拝ませて頂きたい。
湯あみ直後の……一切の飾りを捨てた、麗しいローラ様の――
「おはよう、レオ」
ようやく視界に入った愛する人のお顔に……俺は膝から崩れ落ちた。
「どうして……っ!! すっぴんじゃないんですか!?」
『レオ……お前は一体、何をしているんだ』
イチゴの表面についているツブツブを、1つ1つを取り除いていた俺に、父が言った。
『父上、実は……今日ローラ様が、“イチゴには一粒あたり、いくつの種がついているのかしら”とおっしゃったので……』
『それで数えていたのか? はは! お前は本当に、王女の為なら何でもするんだな』
『ええ! 私はローラ様のお役に立つ事なら、どんな知識や技術も習得しておきたいのです!』
『はは! これは頼もしい! では将来は私のように騎士団長になって……女王となったローラ様をお支えするか?』
『うーん……それはわかりません。父上の事は心から尊敬していますし、父上のような男になる事が私の目標ではありますが……地位や立場にはこだわりません。ローラ様のお幸せに貢献出来れば、それで良いのです』
第一志望はローラ様の夫ではありますが。とは……ウブでピュアな当時の俺には、流石に言えなかった。
でも、嘘にはならない程度に、陛下への忠誠心を理解して頂こうと思って、そう返答したのだが……
その後父は、複雑な苦笑いを浮かべ――ボソリと呟いたのだ。
『それじゃあ……紅薔薇の後継者にはふさわしくないな……』
『え?』
『いや、何でもない。そんな事より……そのツブツブはイチゴの種では無く、1つ1つが果実なんだよ。私達が果実だと思っているその甘い部分は、茎の先端が膨らんだもので、偽果という。殿下に教えて差し上げると良い。お前の株が上がるぞ』
『ええ!? そうなのですか!! さすが父上! 博識でいらっしゃいますね!』
『そういうのに詳しい友人からの受け売りだがな』
『ローラ様、きっと驚かれます! ありがとうございます!』
『いや、なんのなんの、はは……!』
懐かしい……。
あの時は本当に驚いた。まさかイチゴの食べる部分が果実では無かっ……
いやいやいや――違う。
何やら今、重要なワードが回想に登場しなかったか?
「レオナルド? もう、来ている?」
ドアごしに、ローラ様の鈴を転がすようなお声が聞こえた。
手紙を握りしめる手に、力が入る。
一月の間、離れ離れになっていた愛おしい女王陛下が、今、目の前の扉の向こうにいらっしゃるのだ。
もう、インクの匂いだけで我慢する必要は無い。
「はい、私はここに。他のソルジャー……ジェニーはトマトの配達が終わり次第来ます。アランと伯爵も近いうちに。時間をずらして来るよう伝えてありますので」
禊ぎの間と湯あみの間とをつなぐ扉が、ゆっくりと開いた。
熱気と湿気を帯びた湯煙が、ドアの隙間から入り込む。
陛下、陛下、陛下――。
もっと勢いよくバーン! と開けて下さって良いのに。
1秒でも早く、拝ませて頂きたい。
湯あみ直後の……一切の飾りを捨てた、麗しいローラ様の――
「おはよう、レオ」
ようやく視界に入った愛する人のお顔に……俺は膝から崩れ落ちた。
「どうして……っ!! すっぴんじゃないんですか!?」
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