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満月を見ると狼になるのは狼人間だけでは無い
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薔薇の勲章。それは国家に貢献した者に女王陛下が授与する、誉れあるもの。
その栄誉は紅薔薇、白薔薇、黄薔薇の順に高い。
今夜の晩餐会は、今期その勲章を受章する人々を招いての宴だ。
受章者とその家族、貴族等のゲスト達はまず謁見の間に集まり、陛下から個別に勲章の授与と祝辞を受ける。その後しばし歓談の時間を挟んでから、大広間の晩餐会へと移動するのだ。
今はまさに、その狭間のひととき。
華やかに着飾ったゲスト達に囲まれる陛下の傍らに控え、その後ろ姿を見守る。
今夜の陛下は、いつもとは違った。
まずドレス。
いつもはピンク、黄色、薄緑、水色といったパステルカラーのものをお召しになる事が多いが。今夜はネイビー。
フリルやリボンがふんだんにあしらわれてはいるが、落ち着いた色調の為、愛らしさよりも優美さが勝る。
そしてヘアスタイルも。
いつもはハーフアップ。今夜はフルアップ。違いはうなじだ。
濃紺のドレスから続く、細く白いそれはまるで、闇夜に浮かぶ月。
神秘的ともいえる程に美しく、静かなエネルギーを放つ。
この月は純粋な人間である俺でさえ、苦もなく狼に変えるだろう。
正確に言うと狼ではなく、狼のような男に、だが。
「ご覧になって、ローラ陛下とレオナルド様よ」
「本当に絵になるお二人だこと。ねえ、あの方々がそういうご関係だという噂、お聞きになりまして?」
「そりゃあ勿論! 真偽のほどは存じませんけれど……女王陛下と騎士様、なんて、まるで物語のようなロマンスですわよね!」
以前は、にやついて耳を傾けていたご令嬢方の噂話が、俺の神経を逆撫でする。
だって物語のようなロマンスは、物語の中にしか存在しないと思い知ったから。
今の俺にふさわしいのは、事実は小説よりも奇なりという言葉の方で……。
いや、もう陛下の性別について、うじうじと考えるのはやめよう。
本当に男なら、もっと獣のような体毛があの白い背中とうなじに波打ってるのではないかとか。
もしあの滑らかな肌が、無駄毛処理の結果だとしたら……今後は秘密を知る俺が、定期的にカミソリを握らされる事になるのだろうかとか。
そんなもやもやにこれ以上脳みそを使うのは不毛というもの。
今は陛下をお守りする事だけを考えなくては。
陛下に花瓶を投げつけた不届きものが、いつまた狙って来るとも限らない。
会場内を見渡す。
正装した、いかにも品の良さげな紳士・淑女達。
もしかしたらこの中に、陛下を殺したい程憎んでいる人間が、紛れているやも……
「いた……」
思わず、呟いてしまった。
分かりやすすぎる殺気を放ちながら陛下を凝視する、小娘を見つけたから。
その栄誉は紅薔薇、白薔薇、黄薔薇の順に高い。
今夜の晩餐会は、今期その勲章を受章する人々を招いての宴だ。
受章者とその家族、貴族等のゲスト達はまず謁見の間に集まり、陛下から個別に勲章の授与と祝辞を受ける。その後しばし歓談の時間を挟んでから、大広間の晩餐会へと移動するのだ。
今はまさに、その狭間のひととき。
華やかに着飾ったゲスト達に囲まれる陛下の傍らに控え、その後ろ姿を見守る。
今夜の陛下は、いつもとは違った。
まずドレス。
いつもはピンク、黄色、薄緑、水色といったパステルカラーのものをお召しになる事が多いが。今夜はネイビー。
フリルやリボンがふんだんにあしらわれてはいるが、落ち着いた色調の為、愛らしさよりも優美さが勝る。
そしてヘアスタイルも。
いつもはハーフアップ。今夜はフルアップ。違いはうなじだ。
濃紺のドレスから続く、細く白いそれはまるで、闇夜に浮かぶ月。
神秘的ともいえる程に美しく、静かなエネルギーを放つ。
この月は純粋な人間である俺でさえ、苦もなく狼に変えるだろう。
正確に言うと狼ではなく、狼のような男に、だが。
「ご覧になって、ローラ陛下とレオナルド様よ」
「本当に絵になるお二人だこと。ねえ、あの方々がそういうご関係だという噂、お聞きになりまして?」
「そりゃあ勿論! 真偽のほどは存じませんけれど……女王陛下と騎士様、なんて、まるで物語のようなロマンスですわよね!」
以前は、にやついて耳を傾けていたご令嬢方の噂話が、俺の神経を逆撫でする。
だって物語のようなロマンスは、物語の中にしか存在しないと思い知ったから。
今の俺にふさわしいのは、事実は小説よりも奇なりという言葉の方で……。
いや、もう陛下の性別について、うじうじと考えるのはやめよう。
本当に男なら、もっと獣のような体毛があの白い背中とうなじに波打ってるのではないかとか。
もしあの滑らかな肌が、無駄毛処理の結果だとしたら……今後は秘密を知る俺が、定期的にカミソリを握らされる事になるのだろうかとか。
そんなもやもやにこれ以上脳みそを使うのは不毛というもの。
今は陛下をお守りする事だけを考えなくては。
陛下に花瓶を投げつけた不届きものが、いつまた狙って来るとも限らない。
会場内を見渡す。
正装した、いかにも品の良さげな紳士・淑女達。
もしかしたらこの中に、陛下を殺したい程憎んでいる人間が、紛れているやも……
「いた……」
思わず、呟いてしまった。
分かりやすすぎる殺気を放ちながら陛下を凝視する、小娘を見つけたから。
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