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243.みかんて揉むと甘くならない?

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 「ママってさ、なんで仁ちゃんと離婚しちゃったの?」

 「え」

 自宅近くのいつものスーパーにて。
 イチゴのパックを手に取ったタイミングで、そんな事をきかれたものだから、驚いて落としそうになってしまう。

 「あぶ……っ、よかった」

 「いいんじゃない? ちょっと潰れて色が変わってる位の方が甘いじゃん」

 飛鳥家のご令嬢とは思えない言葉。

 「あれはそもそも、柔らかく、傷つきやすくなっている位に熟してるから甘いのであって、潰したから甘くなるってわけじゃないんじゃないかな」

 「そんなんはいーよどっちでも。で? 別れた原因は?」

 カートを押しながら私の顔を覗き込む夢子。
 いくら私よりも背が高いからって、腰の曲がったおばあちゃんみたいな体勢にならなくてもいいのに。

 「だから、何度も言ってるじゃない。元々、仁ちゃんがアスカの社長になる為の結婚だったって。でも、ママはパパが好きだったから――」

 「嘘だね。ママも仁ちゃんが好きだった筈。てゆーか、今も好きなんじゃないの? いっそ付き合っちゃえばいいのに」

 「変な事言わないで夢ちゃん。ママはパパ一筋だよ」

 「そういう設定、なんでしょ? 私と明の為の、さ」

 う……っ。
 という、顔をしてから『しまった、う……っ。っていうリアクションをしてしまった』と後悔しても、後の祭り。

 「ママ、わかりやすっ」

 「大人をからかっちゃダメだよ! というか……夢ちゃんはどうしてそう、仁ちゃんとママをくっつけたがるの? 万が一そういう事になったら、パパが悲しむとは思わないの?」

 「だってパパには私も明もいるじゃん。子供がいる限り、ママが浮気しようが離婚しようが、繋がりは消えないっしょ? でも仁ちゃんにはな~んにも無いんだよ? ママの事が大好きで、仕事でもプライベートでもママの為に尽くしてるのに、戸籍上はただの独身中年男。奥さんも子供もいないから、おじーちゃんになったら孤独死するリスクだってあるかも」

 「縁起でもない事言わないで!」

 お布団の中で白骨化している仁ちゃんを想像してしまって、悲鳴に近い声を上げる。

 「ほら、そうなったら嫌でしょ? だからさ、今のうちに少しは愛情のお返ししてあげなよ」

 母親に浮気をすすめてくる娘……我が子ながら、謎過ぎる。

 「もう……夢ちゃんと明君は姉弟なのに、どうしてこうも違うんだろう?」

 やっぱり、父親が違うから? なんて心の中で疑問符を立てていたら……

 「そりゃあやっぱり、父親が違うからじゃない?」

 「……………………………………うん?」

 この子今、なんて言った?
 
 目を瞬かせている間に、夢子はお菓子コーナーに駆けて行って。

 「あっ! このうまい〇、期間限定の味じゃん! わ! 大人買い用の大袋がある! これ買っていい!? 凛君も食べてみたいって言ってたんだよね!」

 「え、あ、うん。でも、お夕飯の前に食べるのはよしてね……」

 「わかってるってば! あっ、せっかくだから一輝君の分も買っとこ~」

 赤ん坊位の大きさがある袋をご機嫌な様子で抱える娘を見つめながら……私の頭は、特売の絹ごし豆腐のように、真っ白になっていた。
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