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230.披露宴のご歓談下さいの時間は仲良しがいないとめっちゃ暇
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「うお……っっ」
「そんな、バケモノを見たようなリアクション……」
後ずさりする俺に、苦笑いする斎藤。
今日は斎藤と凛の結婚式。
披露宴中のお決まり『それでは皆様、しばしの間ご歓談ください』の時間に。式場のロビーに出て来た俺を、斎藤は追いかけてきてくれたようだ。
「悪い。いやでもマジでバケモノレベルに綺麗だから」
「それは誉め言葉と受け取っていいんでしょうか? ありがとうございます」
お世辞なんかじゃなかった。
純白のウエディングドレスは、清廉な美しさを誇るアルテミスにぴったりで。
「いいのか? 主役がこんなトコにきて。挨拶まわりとかは?」
「簡単にだけ、まわらせてもらいました。それに……人の為じゃなく自分達の為の日にしようって、いつも凛君が言ってくれてたので」
「そか……」
凜も、いい男になったな。
政略結婚が嫌だと言っていた斎藤に、こんなにも穏やかな笑顔を浮かべさせるとは。
「だから、仁さんに改めてお礼を言いたいと思って来たんです」
「礼を言われるような事してねぇけど」
「いえ。仁さんのアシスタントになって、恋をして、フラれて。どれも良い経験でした」
「おい……っ」
ロビーには俺達しかいない。とはいえ。滅多なことを口にする新婦に、焦る。
「それに……仁さんに会えたから、唯さんにも会えました」
あれ以来……考えないようにしてた、口にしないようにしてた名前が出て来て、ピクリと反応してしまう。
「唯さんにもたくさんの事を教えて頂きました。このドレスも、唯さんが背中をおしてくれたから、選ぶ事が出来たんです」
「そうなのか」
大丈夫。いきなり名前が出て来てビビっただけで。心はさほどザワついていない。
「仁さんと唯さん、お二人なくして今の私はありえないと感謝しています」
「んな大袈裟な」
問題無い。もう唯は赤の他人。俺の人生に何の関わりも無い、モブキャラの一人。
「ですから、いくら離婚をして、お二人がそれぞれのお相手と別の道を歩んでいるとはいえ、こんなの、正しいとは思えないんですっ」
「んん?」
必死になって心の凪を保とうとしていたのだが……何やら意味不明な事を言い出した斎藤に、意識を向け直す。
「悪い、意味がわかんね。こんなのって?」
「唯さんの情報を、仁さんに隠す事です! 仁さん、落ち着いて聞いて下さいね? 凛君に口止めされてたんですが……っ」
「清香っ」
斎藤が言い終える前に、聞こえて来た声。
振り返ると、そこにいたのは蓮さん。
「お祝いの席なのに、遅くなってごめん。今日は本当におめでとう」
申し訳なさそうな笑顔を浮かべ、早足で近付いてくる。
「いえそんな……! こちらこそ申し訳ありません! 無理をして、来させてしまって……」
そして斎藤は、蓮さん以上に申し訳なさそうに眉尻を下げて。
つーか蓮さん、今来たの? 一人で?
気になってはいたんだよな。あれ? 見当たらないなって。でも、来賓が多過ぎて見つけられないだけかと思ってた。
結婚式はもう2時間も前に始まってるのに。新郎の兄夫妻が大遅刻とか、何事?
「あ、仁。お疲れ……ごめんな、取り込み中だった?」
「いえ、全然大丈夫です」
「蓮さん、私達の事はどうかお気遣いなくっ。こうしてお祝い頂けただけで十分ですから! 早く唯さんの所に戻ってあげてください!」
何やら切迫した様子で蓮さんの腕をつかむ斎藤。
さすがに、口を挟みたくなってしまう。
「あの? 唯、どうかしたんですか?」
そう尋ねると、斎藤は困惑気味に蓮さんの顔色を伺って……蓮さんは『俺から話すよ』と真顔で頷いた。
「仁、落ち着いて聞いてくれ。実は……唯は」
1分後。俺は炎天下の街中を走っていた。
この世で一番大切な子の、命の灯火が……消えかかっていると、知って。
「そんな、バケモノを見たようなリアクション……」
後ずさりする俺に、苦笑いする斎藤。
今日は斎藤と凛の結婚式。
披露宴中のお決まり『それでは皆様、しばしの間ご歓談ください』の時間に。式場のロビーに出て来た俺を、斎藤は追いかけてきてくれたようだ。
「悪い。いやでもマジでバケモノレベルに綺麗だから」
「それは誉め言葉と受け取っていいんでしょうか? ありがとうございます」
お世辞なんかじゃなかった。
純白のウエディングドレスは、清廉な美しさを誇るアルテミスにぴったりで。
「いいのか? 主役がこんなトコにきて。挨拶まわりとかは?」
「簡単にだけ、まわらせてもらいました。それに……人の為じゃなく自分達の為の日にしようって、いつも凛君が言ってくれてたので」
「そか……」
凜も、いい男になったな。
政略結婚が嫌だと言っていた斎藤に、こんなにも穏やかな笑顔を浮かべさせるとは。
「だから、仁さんに改めてお礼を言いたいと思って来たんです」
「礼を言われるような事してねぇけど」
「いえ。仁さんのアシスタントになって、恋をして、フラれて。どれも良い経験でした」
「おい……っ」
ロビーには俺達しかいない。とはいえ。滅多なことを口にする新婦に、焦る。
「それに……仁さんに会えたから、唯さんにも会えました」
あれ以来……考えないようにしてた、口にしないようにしてた名前が出て来て、ピクリと反応してしまう。
「唯さんにもたくさんの事を教えて頂きました。このドレスも、唯さんが背中をおしてくれたから、選ぶ事が出来たんです」
「そうなのか」
大丈夫。いきなり名前が出て来てビビっただけで。心はさほどザワついていない。
「仁さんと唯さん、お二人なくして今の私はありえないと感謝しています」
「んな大袈裟な」
問題無い。もう唯は赤の他人。俺の人生に何の関わりも無い、モブキャラの一人。
「ですから、いくら離婚をして、お二人がそれぞれのお相手と別の道を歩んでいるとはいえ、こんなの、正しいとは思えないんですっ」
「んん?」
必死になって心の凪を保とうとしていたのだが……何やら意味不明な事を言い出した斎藤に、意識を向け直す。
「悪い、意味がわかんね。こんなのって?」
「唯さんの情報を、仁さんに隠す事です! 仁さん、落ち着いて聞いて下さいね? 凛君に口止めされてたんですが……っ」
「清香っ」
斎藤が言い終える前に、聞こえて来た声。
振り返ると、そこにいたのは蓮さん。
「お祝いの席なのに、遅くなってごめん。今日は本当におめでとう」
申し訳なさそうな笑顔を浮かべ、早足で近付いてくる。
「いえそんな……! こちらこそ申し訳ありません! 無理をして、来させてしまって……」
そして斎藤は、蓮さん以上に申し訳なさそうに眉尻を下げて。
つーか蓮さん、今来たの? 一人で?
気になってはいたんだよな。あれ? 見当たらないなって。でも、来賓が多過ぎて見つけられないだけかと思ってた。
結婚式はもう2時間も前に始まってるのに。新郎の兄夫妻が大遅刻とか、何事?
「あ、仁。お疲れ……ごめんな、取り込み中だった?」
「いえ、全然大丈夫です」
「蓮さん、私達の事はどうかお気遣いなくっ。こうしてお祝い頂けただけで十分ですから! 早く唯さんの所に戻ってあげてください!」
何やら切迫した様子で蓮さんの腕をつかむ斎藤。
さすがに、口を挟みたくなってしまう。
「あの? 唯、どうかしたんですか?」
そう尋ねると、斎藤は困惑気味に蓮さんの顔色を伺って……蓮さんは『俺から話すよ』と真顔で頷いた。
「仁、落ち着いて聞いてくれ。実は……唯は」
1分後。俺は炎天下の街中を走っていた。
この世で一番大切な子の、命の灯火が……消えかかっていると、知って。
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