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201.懐の深さって何で決まるの?

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 「唯……っ! 良かった!」

 玄関のドアを開けるやいなや……蓮ちゃんは、そう言って私を抱きしめてくれた。

 「あ……ごめんね、心配した? 黒ずくめのお兄さん達に、大園さんに会いに行くって伝えてもらうようお願いし」

 「うん、黒ずくめさん達には聞いてたんだけど……それは仁に会いに行く為の嘘じゃないかって、ちょっと思っちゃって」

 「……黒ずくめさんて呼んでるんだ、蓮ちゃんも」

 割とどうでもいい所に、触れてみる。

 「ああ、うん。あの人達は母さんの取り巻きさん達だから……俺は名前も知らなくて」

 「そうなんだね。……ほら、前に話したじゃない? 大園さん、今お腹に赤ちゃんがいて。だからね、私も妊娠してるかも……って考えた時、とっさに相談したいなって、思っちゃって」

 「そっか……。ごめんな、ただでさえ不安でいっぱいなのに、問い詰めるような事を……」

 「ううん、私こそ、不安にさせちゃってごめんね。……仁ちゃんの事なんだけどね、実は――」

 別れ際、乱暴されたの。そう言おうとしたのだけれど。
 蓮ちゃんは、それを止めるように手のひらを私に向けて。

 「いい。仁に、聞いた。あいつは無理矢理迫ったって言ってたけど……唯は、嫌じゃ無かった……んだよな?」

 仁ちゃんに聞いた、というのもびっくりなんだけど。それ以上にひっかかったのは……

 「嫌じゃ無かった……って? どうしてそう思うの?」

 「だって……俺は知ってるから。唯がどれだけ仁を好きだったのか。それと……仁が、大切な女の子に本気で抵抗されても乱暴を続けるような……そんな男じゃない事も」

 全てを見透かすような、そして全てを包み込むような、慈愛に満ちた笑みを浮かべる蓮ちゃん。
 途方もない懐の深さに、返す言葉を失ってしまう。

 「罪悪感とか、いいから。むしろ、そこまで怖い想いをしたわけじゃないなら、その方が安心出来るよ」

 幼い子を諭すような、優しい口調。

 「今日、仁と話して……反省したんだ。他に好きな男がいても、唯が傍にいてくれるなら耐えようって思ってたのに。結局いつも不安で、疑って……唯を悩ませてばかりいた。俺には、覚悟が足りなかった」

 「そんな……そんな事……」

 「あるんだよ。それならいっそ……仁の所に返してやった方がいいのかも、とも思った」

 「蓮ちゃん……っ!」

 悲しそうな顔で見つめられて、慌てて蓮ちゃんの腕を掴む。すがるような、想いで。

 「でも……ごめん。やっぱり、放してやれない。唯がいないと……俺は無理だ」

 宝石のように綺麗な涙を一粒だけ零してから……蓮ちゃんは私を再び抱きしめてくれた。

 「もう疑わない。苦しめない。お腹の子が誰の子でも、命がけで守っていく。だから……」

 「私も、もう絶対蓮ちゃんに辛い想いはさせない……っ」


 私達は、しばらくの間抱き合っていた。
 二人して、泣きながら。


 その後、蓮ちゃんは体が温まるようにと、お鍋を作ってくれて。お風呂を洗ってお湯をはってくれて。
 そして……私が入浴している間に、ドラッグストアに行ってくれた。

 私達の、少し先の未来について、考える為に。
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