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197.ルームツアー動画ってなんか見ちゃう

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 「こっちがリビングダイニングと、キッチン」

 「うん」

 「そっちがランドリールームと風呂場」

 「うん」

 「で、そこが唯の部屋。もう何もねぇけど」

 「……ねぇごめん。仁の目が真っ赤なので気になり過ぎて、ルームツアーどころじゃないんだけど」

 廊下で腕組みをして、ため息を吐く美琴。

 「俺の家に来たいって言ったの美琴だろ。医療系血統種の知り合いを紹介する代わりにって」

 「そうだけど……ねぇ、どうしたの? 待ち合わせにも遅れてきたし。仕事で何かあった?」

 何かあったのは仕事後、なんだけど。
 どうするかな。美琴とはドライな関係だから、遠慮も配慮も無く何でも話してるけど。さすがにあの事を伝えるのは……

 なんて思ってすぐに返事を出来ずにいたら、美琴は正面から抱き付いて来て。

 「私に隠し事はしないで? 割り切った関係だからこそ、二人でいる時は、あっさり気持ちイイ時間にしたいの。その為に、モヤモヤドロドロはおかないと」

 なるほど。そう言われると……

 「蓮さんが、会いに来た」

 「蓮さん……って元嫁を奪った、社長の息子よね? 凛君のお兄さんの」

 「そう。唯と、やったのかって訊かれた」

 「今更? なんで? で、正直にやってないって答えたの? そーゆー事する前に、盗られちゃったんだもんね?」

 俺の背中に手を回したまま、上目遣いでクエスチョンマークを連発する美琴。
 改めて至近距離で見ると、凄まじく破壊力のある美貌。
 この顔が、俺の非道な行いを知ったらどう歪んでしまうのか……ああ、やっぱそれについては言わない方がいいのかも……

 「それとも、やっちゃってたの? 別れ話を切り出されて、強引に押し倒しちゃったとか?」

 「え!!」

 あまりにもあっさり、俺の罪を言い当てる彼女に目を丸くしてしまう。

 「あ、図星?」

 「な、なんで……っ」

 「だってあるあるじゃない? 私も歴代の彼氏、半分がそうだったもん。別れようって言ったら、最後に一回だけって言って」

 あるある? そうなのか? 少なくとも俺はそんなん言った事ねぇけど。つーか、唯以外にはフラれた事自体無いし。

 「でも俺のは違うだろ。今まで恋人同士としてやってて、ラス1ねだるのと、やってなくて無理強いするのとは……」

 「違わないでしょー。最後までやれちゃってる時点で、元嫁も受け入れてたんだろうし」

 受け入れてた? 唯が? 俺を?

 「いや、普通に抵抗はしてたんだよ、なのに俺が」

 「抵抗って、マイルドなやつでしょ? 女はマジで嫌なら死ぬ気で抵抗するって。ご近所に通報される程泣き叫んだり、殴ったり蹴ったり噛みついたり……そーゆー必死な感じじゃなかったっしょ?」

 「そう、言われると……や、でも、あまりの恐怖に大人しくするしかなかったんだと思うんだ。俺はそれくらい深い心の傷を唯に負わせ」

 「わかってないな~。見ず知らずの男ならまだしも、元嫁は仁の事が好きだったんでしょ? でも別の男のトコに行かなきゃいけなくて……だから、最後に仁とやれて、ラッキー! 位に思ってるわよきっと」

 「……いやいや……」

 あまりにも異次元な意見に、首を横に振ってしまう。
 ラッキー? あんなことをされて? ありえない。それは男性経験豊富な美琴の価値観であって、多分唯には当てはまらない。
 
 「……ふふ。俺の唯はそんな子じゃない~とか思ってる? 馬鹿ね、仁。私は元嫁を直接は知らないけど……話を聞いてるだけで、かなりのヤンデレだって事は想像がつくわ。仁を社長にする為に結婚して、毎日仁の為に食事作って掃除して洗濯して、加湿器と空気清浄機を分解して洗って、箱根まで温泉水取りに行って……もう、病気よ。病的に仁を愛しちゃってるのよ。そんな女が……仁に跨れて、喜ばない筈ないじゃない」

 「………………そ、そうかな!?」

 思わず、笑顔を浮かべてしまう。そんな俺を見て、美琴は『きも!』と眉間に皺を寄せた。

 「こんな言い方されて喜ぶ仁も、やっぱりヤバイわよね。元嫁との愛の巣に、未だに一人で住んでる時点で……ドン引きだけど」

 「いいんだよ。忘れようとしてるなら、ここにいるのは辛いだろうけど。俺はこれからもずっと唯だけを愛していくから……ここで二人で過ごした時間を想い出して、幸せに浸りながら暮らしていきたいんだよ」

 「やっぱやばいよね、仁て……。でも、そういう事なら、逆に興奮するかもっ」

 「は?」

 『きも!』から一転……なにやら嬉々とした表情で俺の手を引き、廊下を歩き始めた美琴。

 「ね~どこで元嫁を襲ったの?」

 「え、なんで?」

 「そこで、私の事も襲ってよ。盛り上がると思わない?」

 「……美琴って、すげーよな……」

 性に対する姿勢がライト。というのもあるのだろうけど。ハートが、強すぎる。

 「ほら早く、教えて?」

 彼女のような性格だったら、人生は楽しいだろうな……。
 
 ある種の羨望に近い眼差しを向けながら……俺は彼女に手を引かれ、唯との愛の巣を巡るのだった。
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