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193.素直だからこそズケズケ来る人もいる
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「待って、おにーさん美しすぎる! ビジュの圧迫面接再び! とかツラ!」
「……ん?」「……ええと?」
蓮ちゃんの会社……の、応接間で。
高めのテンションで、大きめのリアクションをする女子高生に、首を傾げてしまう私と蓮ちゃん。
「あっ、ごめんなさいっ! あまりにもおにーさんがイケメンだから、ビビッて! 校学の面接でこういうのアウトですよね! やり直し! 最初からやり直しでお願いします!」
「いえ、構いませんよ。前田さんはとても素直で、元気な方なんですね。どうぞそのままで。お話しを聞かせて下さい」
慌てて立ち上がり、部屋に入って来る所からやり直そうとする前田さんを、笑顔で止める蓮ちゃん。
さすが、器が大きい。
「はい! ありがとーござます!」
そしてこの女子高生……前田さんも、蓮ちゃんのおっしゃる通り、とても素直で気持ちの良い子だ。
私まで、笑顔になってしまう。
「まず自己紹介を。私はここの代表を務めております、飛鳥蓮と申します」
「事務長の飛鳥唯です。この度は弊社の校外学習求人にご応募頂き、誠にありがとうごさいます」
「こちらこそ、ありがとーございます!」
年明け……私は、蓮ちゃんの会社の事務長に就任した。
と言っても、大したお仕事はしていなくて。私でもできる簡単な事務作業をお手伝いしているだけ。
自営業につきものな、会計士さんや税理士さんとのやりとりや、派遣血統種さんの入職や契約の事務手続きとか。
たとえ微力でも、アスカを出て一人で頑張っている蓮ちゃんの力になりたくて。
「では早速ですが……今回の業務内容について、何かご質問はありますか?」
「春休み中の小学生を集めて、血統種ってこんなイキモノだよ~っていうイベントをやるんですよね? 私はそこで、自分の能力をちゃちゃっと見せればいいだけって感じで、あってます?」
「その通りです。前田さんは……ポリアフの血統種でいらっしゃいますね? 履歴書と血統種ランク判定試験結果によると、約10坪程度の範囲内に雪を降らせる事が出来る、との事ですが、間違いありませんか?」
「はい! つーか……雪を降らせるって程じゃないんですけど。小雪をちらつかせる、程度で?」
ポリアフ……。ハワイ神話の、雪の女神様。
こそこそと、手元に用意しておいたメモを見る。この面接前に予習しておいたんだ。
現在日本在中のプリアフの血統種はおよそ1万人。血統種の中では少なくは無いんだよね。日本人は通常種も血統種もハワイが大好きだから……国際結婚とかで、毎年比較的安定的にポリアフの血統種が生まれているって書いてあった。
しかも、わりと大雪を降らせられる人が多くて……だから、クリスマスとかスキースノボードのシーズン以外なら、比較的人材は確保しやすいらしい。その上、そこまで能力が強くないならさほどコストがかからな――
「あ……事務長さん、今、頭の中で私の点数引き算してます? ポリアフは結構数がいるし、春になればシーズンオフだし、もっと安くて高ランクなJK血統種みつかるだろ、とか?」
「え! あ! いえいえいえいえいえ!! 私はそんな!!」
ほぼ図星を鋭く突かれ、みっともない程に狼狽してしまう。
よりよい人材を、より低価格で獲得する……みたいな、シビアなお仕事が出来て初めて、事務長として蓮ちゃんを支えられるんじゃないか、なんて思ったんだけど。
世の為、進路の為に、校学に勤しむ女子高生を値踏みするようなマネ、私ごときがすべきじゃなかったよね。
「ごめんなさい、前田さん。お気を悪くしたのなら、お詫びしますっ」
「いえいえいえ! こっちこそすいません! やっぱ私程度じゃダメなのかな、なんてネガティブな事ばっか考えちゃて、つい!」
「とんでもない。前田さんのように明るくて元気なお姉さんでしたら、小学生にとっても親しみやすいと思うんです。小規模なイベントですので、あまり高額な報酬は望めませんが……それでもよろしければ、是非お願いします」
「ホントですか!? やったぁ~!」
勢いよく立ち上がり、万歳するように両手を高く掲げる前田さん。
「マジで嬉しい! ありがとうございます! 私、これから校学とか勉強とか超頑張って、アスカセレスチャルに入るのが夢なんですよ!」
「「え?」」
馴染みのある会社名に、思わず顔を見合わせてしまう蓮ちゃんと私。
「おにーさんの苗字も飛鳥さんて事は、飛鳥一族の一員なんですよね? こんなちっちゃい会社を個人でやってるって事は、権力とかは弱めな方かもですけど、お偉い人とのコネとかはありませんか!? ここで校学させて貰えたら、後々道が開けたりしないかなって思って、応募したんです!」
おおっと~……。隣に座る心優しき蓮ちゃんも、さすがに苦笑い。
前田さん……こちらにいらっしゃるのは、コネがあるどころか、現社長の息子さんです。次期後継者最有力候補と言われた、とんでもなく優秀なお方なのです。
今は確かに、この小さな会社の代表だけれど……それでもここだって、蓮ちゃんを慕って大勢のスペシャルランクな血統種さんが在籍している、立派な企業なのですよ。
と……言いたい。妻としては。
でも事務長としては、自分のトコの社長を褒めちぎるとか、ダメだよね。
「そ、そーなんですかー? ま、前田さんはどうしてアスカに入りたいんでしょう? あ、校学履歴によると、一昨年アスカセレスチャルさんでお仕事をされているんですね? その時に良い印象をお持ちになったのでしょうか?」
下手くそなりに、話題をそらしてみる。
「そーなんですよ! 私、それまではクリスマスに校学とかあり得ない! と思ってたんですけど。その時私をスカウトしれくれた人が、また私と一緒に仕事をしたいって言ってくれて!」
「そうなんですね~?」
よかった。すんなりと流れに乗って下さった。本当に素直で良い子だ、前田さん。
「私みたいに、全てにおいて平凡な人間は、一流って呼ばれる人と同じ場所には行けないんだろうな~って思ってたんですけど。仁さんと働く為なら、一度くらいはマジでゴリゴリに頑張ってみてもいいかもしれないなって!」
「そうなんですね~……ん? 仁、さん?」
聞き慣れ過ぎている名前に、反応してしまう。
そしてそれは、隣に座る蓮ちゃんも同じだったようで。
「仁というのは、飛鳥仁ですか? 人事部の、スカウトマン?」
「そう! おにーさん、やっぱ知り合いか! だよね親戚だもんね! おねーさんも知ってる……あれ? おねーさん、ユイコさんて言ったよねさっき? もしかして、仁さんの奥さん!?」
「え!!」
今日一……というか今年一、と言っても過言ではない程に、びくぅ!っと肩に力を入れてしまう。
「当たり!? マジか! 私、アシさんにあれこれ聞きまくったんですよ! 仁さんの奥さんてどんな人? って! ああ~マジで斎藤さんが言ってた通りの人だ~! ルックスも性格も控えめで、ちっちゃくて可愛いらしい!」
いやな汗が、全身の毛穴から噴き出してきた。
ルックスが控えめという斎藤さんの批評には若干凹むけれど、それは本当の事だし、なにより今はそれどころじゃない。
「超偶然! 超奇跡! 仁さん元気ですか~?」
どうしよう、これはどう答えたものか?
「てゆーか、奥さん超幸せですよね! あんないい旦那さんに、超超~愛されて!」
適当に受け流す? でも……もし今後、前田さんがうちの派遣社員さんと出くわして、私と蓮ちゃんが夫婦だと知ってしまったら? 前田さんの私達への信頼が失われてしまいかねないよね。
でも、校学の学生さんと社員さんが会う機会なんてないかな? 低いリスクを回避する為に、離婚再婚のくだりを説明するのもナンセンス? ああ~っ! どうしたものか!?
「クリスマスの時だって、ホントは私、仁さんとパーティーに行く筈だったのに、仁さんが奥さんの為に――」
「彼女は私の妻なんです。……今は」
自己脳内会議で、いっぱいいっぱいになっている私の横から、あっさりとそう言い切った、蓮ちゃん。
「は……!?」
そして、そりゃそうなっちゃうよね……とフォローしたくなるような、目が点リアクションの前田さん。
私は、なんだか痛み出したお腹をさすりながら……一秒でも早くこの面接を終えたいと……心の底から願うのだった。
「……ん?」「……ええと?」
蓮ちゃんの会社……の、応接間で。
高めのテンションで、大きめのリアクションをする女子高生に、首を傾げてしまう私と蓮ちゃん。
「あっ、ごめんなさいっ! あまりにもおにーさんがイケメンだから、ビビッて! 校学の面接でこういうのアウトですよね! やり直し! 最初からやり直しでお願いします!」
「いえ、構いませんよ。前田さんはとても素直で、元気な方なんですね。どうぞそのままで。お話しを聞かせて下さい」
慌てて立ち上がり、部屋に入って来る所からやり直そうとする前田さんを、笑顔で止める蓮ちゃん。
さすが、器が大きい。
「はい! ありがとーござます!」
そしてこの女子高生……前田さんも、蓮ちゃんのおっしゃる通り、とても素直で気持ちの良い子だ。
私まで、笑顔になってしまう。
「まず自己紹介を。私はここの代表を務めております、飛鳥蓮と申します」
「事務長の飛鳥唯です。この度は弊社の校外学習求人にご応募頂き、誠にありがとうごさいます」
「こちらこそ、ありがとーございます!」
年明け……私は、蓮ちゃんの会社の事務長に就任した。
と言っても、大したお仕事はしていなくて。私でもできる簡単な事務作業をお手伝いしているだけ。
自営業につきものな、会計士さんや税理士さんとのやりとりや、派遣血統種さんの入職や契約の事務手続きとか。
たとえ微力でも、アスカを出て一人で頑張っている蓮ちゃんの力になりたくて。
「では早速ですが……今回の業務内容について、何かご質問はありますか?」
「春休み中の小学生を集めて、血統種ってこんなイキモノだよ~っていうイベントをやるんですよね? 私はそこで、自分の能力をちゃちゃっと見せればいいだけって感じで、あってます?」
「その通りです。前田さんは……ポリアフの血統種でいらっしゃいますね? 履歴書と血統種ランク判定試験結果によると、約10坪程度の範囲内に雪を降らせる事が出来る、との事ですが、間違いありませんか?」
「はい! つーか……雪を降らせるって程じゃないんですけど。小雪をちらつかせる、程度で?」
ポリアフ……。ハワイ神話の、雪の女神様。
こそこそと、手元に用意しておいたメモを見る。この面接前に予習しておいたんだ。
現在日本在中のプリアフの血統種はおよそ1万人。血統種の中では少なくは無いんだよね。日本人は通常種も血統種もハワイが大好きだから……国際結婚とかで、毎年比較的安定的にポリアフの血統種が生まれているって書いてあった。
しかも、わりと大雪を降らせられる人が多くて……だから、クリスマスとかスキースノボードのシーズン以外なら、比較的人材は確保しやすいらしい。その上、そこまで能力が強くないならさほどコストがかからな――
「あ……事務長さん、今、頭の中で私の点数引き算してます? ポリアフは結構数がいるし、春になればシーズンオフだし、もっと安くて高ランクなJK血統種みつかるだろ、とか?」
「え! あ! いえいえいえいえいえ!! 私はそんな!!」
ほぼ図星を鋭く突かれ、みっともない程に狼狽してしまう。
よりよい人材を、より低価格で獲得する……みたいな、シビアなお仕事が出来て初めて、事務長として蓮ちゃんを支えられるんじゃないか、なんて思ったんだけど。
世の為、進路の為に、校学に勤しむ女子高生を値踏みするようなマネ、私ごときがすべきじゃなかったよね。
「ごめんなさい、前田さん。お気を悪くしたのなら、お詫びしますっ」
「いえいえいえ! こっちこそすいません! やっぱ私程度じゃダメなのかな、なんてネガティブな事ばっか考えちゃて、つい!」
「とんでもない。前田さんのように明るくて元気なお姉さんでしたら、小学生にとっても親しみやすいと思うんです。小規模なイベントですので、あまり高額な報酬は望めませんが……それでもよろしければ、是非お願いします」
「ホントですか!? やったぁ~!」
勢いよく立ち上がり、万歳するように両手を高く掲げる前田さん。
「マジで嬉しい! ありがとうございます! 私、これから校学とか勉強とか超頑張って、アスカセレスチャルに入るのが夢なんですよ!」
「「え?」」
馴染みのある会社名に、思わず顔を見合わせてしまう蓮ちゃんと私。
「おにーさんの苗字も飛鳥さんて事は、飛鳥一族の一員なんですよね? こんなちっちゃい会社を個人でやってるって事は、権力とかは弱めな方かもですけど、お偉い人とのコネとかはありませんか!? ここで校学させて貰えたら、後々道が開けたりしないかなって思って、応募したんです!」
おおっと~……。隣に座る心優しき蓮ちゃんも、さすがに苦笑い。
前田さん……こちらにいらっしゃるのは、コネがあるどころか、現社長の息子さんです。次期後継者最有力候補と言われた、とんでもなく優秀なお方なのです。
今は確かに、この小さな会社の代表だけれど……それでもここだって、蓮ちゃんを慕って大勢のスペシャルランクな血統種さんが在籍している、立派な企業なのですよ。
と……言いたい。妻としては。
でも事務長としては、自分のトコの社長を褒めちぎるとか、ダメだよね。
「そ、そーなんですかー? ま、前田さんはどうしてアスカに入りたいんでしょう? あ、校学履歴によると、一昨年アスカセレスチャルさんでお仕事をされているんですね? その時に良い印象をお持ちになったのでしょうか?」
下手くそなりに、話題をそらしてみる。
「そーなんですよ! 私、それまではクリスマスに校学とかあり得ない! と思ってたんですけど。その時私をスカウトしれくれた人が、また私と一緒に仕事をしたいって言ってくれて!」
「そうなんですね~?」
よかった。すんなりと流れに乗って下さった。本当に素直で良い子だ、前田さん。
「私みたいに、全てにおいて平凡な人間は、一流って呼ばれる人と同じ場所には行けないんだろうな~って思ってたんですけど。仁さんと働く為なら、一度くらいはマジでゴリゴリに頑張ってみてもいいかもしれないなって!」
「そうなんですね~……ん? 仁、さん?」
聞き慣れ過ぎている名前に、反応してしまう。
そしてそれは、隣に座る蓮ちゃんも同じだったようで。
「仁というのは、飛鳥仁ですか? 人事部の、スカウトマン?」
「そう! おにーさん、やっぱ知り合いか! だよね親戚だもんね! おねーさんも知ってる……あれ? おねーさん、ユイコさんて言ったよねさっき? もしかして、仁さんの奥さん!?」
「え!!」
今日一……というか今年一、と言っても過言ではない程に、びくぅ!っと肩に力を入れてしまう。
「当たり!? マジか! 私、アシさんにあれこれ聞きまくったんですよ! 仁さんの奥さんてどんな人? って! ああ~マジで斎藤さんが言ってた通りの人だ~! ルックスも性格も控えめで、ちっちゃくて可愛いらしい!」
いやな汗が、全身の毛穴から噴き出してきた。
ルックスが控えめという斎藤さんの批評には若干凹むけれど、それは本当の事だし、なにより今はそれどころじゃない。
「超偶然! 超奇跡! 仁さん元気ですか~?」
どうしよう、これはどう答えたものか?
「てゆーか、奥さん超幸せですよね! あんないい旦那さんに、超超~愛されて!」
適当に受け流す? でも……もし今後、前田さんがうちの派遣社員さんと出くわして、私と蓮ちゃんが夫婦だと知ってしまったら? 前田さんの私達への信頼が失われてしまいかねないよね。
でも、校学の学生さんと社員さんが会う機会なんてないかな? 低いリスクを回避する為に、離婚再婚のくだりを説明するのもナンセンス? ああ~っ! どうしたものか!?
「クリスマスの時だって、ホントは私、仁さんとパーティーに行く筈だったのに、仁さんが奥さんの為に――」
「彼女は私の妻なんです。……今は」
自己脳内会議で、いっぱいいっぱいになっている私の横から、あっさりとそう言い切った、蓮ちゃん。
「は……!?」
そして、そりゃそうなっちゃうよね……とフォローしたくなるような、目が点リアクションの前田さん。
私は、なんだか痛み出したお腹をさすりながら……一秒でも早くこの面接を終えたいと……心の底から願うのだった。
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