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179.ごめんねって言っちゃいけないタイミングがある

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 『あんな事』というのは、どんな事だろう。

 シーツが擦れる音を聞きながら、そんな事を考える。


 「唯……」


 箱根で再会した時、重たいポリタンクを持ってくれた事?
 胃腸炎の仁ちゃんを心配する私を、病院まで送ってくれた事?


 「蓮ちゃ……んっ」


 コンビニで温かいミルクティーを買ってくれた事?
 インフルで倒れた時、擦りりんごを作ってくれた事?
 
 それとも……仁ちゃんとの仲を、取り持ってくれた事?

 わからない。
 並べ出したらキリがない。


 「唯……唯……っ」

 
 ベッドが沈む度に、私の名前を呼ぶ蓮ちゃんの顔は……なんだかとても、辛そうで。


 「私、ここにいるよ……?」


 私の何もかもで、笑顔にしたい。

 そう、思った。







 「……ごめん」


 私の頬を撫でながら、申し訳なさそうに呟く、蓮ちゃん。

 「謝らないで。ドラマだったら絶対、揉め事になるやつだよ」

 「確かに……あるあるだな」

 でも今なら……謝られて怒るヒロインの気持ちが、少しわかるかも。
 なんて思っていたら、蓮ちゃんは急に真剣な顔になって。

 「それでも……仁との事を考えると……やっぱり、ごめんな」

 そう言って起き上がり、シャツを羽織る連ちゃん。

 「送ってく。仁には何かしら連絡してある? 着信入ってない? もう9時だし、心配してるだろ」

 「ううん。今日は……朝まで泊まり込みで仕事だって、言ってあるの。凜さんも一緒だから安心してって」

 「えぇ!?」

 玄関で見せてくれた以上の、びっくり顔。

 「唯……それ、本気でダメなやつじゃないか」

 「あのね、蓮ちゃん、私思うんだけど……。謝られて怒るヒロインは、相手に愛がなかったのかも? っていう理由だけで、怒ってるわけじゃないと思うんだよ。そうじゃなくて……むしろ逆で」

 触り心地抜群の、薄手のブランケット。
 くるくるっと体に巻き付けると、蓮ちゃんの良い香りがふんわりと広がった。

 「自分の愛を、本気を……相手がわかってくれてないから……怒るんじゃないかな」

 蓮ちゃんの大きな背中に、後ろから抱き付く。
 若干の怒りを込めて、キツメに。

 「それは……失礼しました……」

 蓮ちゃんは少し恐縮したような口調でそう言いながらも……お腹に巻き付いた私の手に、自分の手を重ねてくれた。
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